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なぜ、社会実装にスタートアップが欠かせないのか?|社会課題解決と社会実装②

一般社団法人社会実装推進センター(略称:JISSUI)は、「社会課題を解決し得る、新しい技術やアイデアの“社会実装”を推進する」ことを掲げて活動している実証事業支援のプロ集団です。

政府の実証事業を通じて、数多くの大企業、スタートアップ、学術機関など…イノベーションの担い手を支援しているJISSUIが、複雑化し、不確実性の加速する時代に「なぜ、“社会実装”が重要なのか?」をIX Academy 2023(主催:一般財団法人日本経済研究所)にて語りました。

【基礎知識】実証事業と社会実装とは?
1記事目:実証事業のゴールは「投資可能な状態」にすること
2記事目:なぜ、社会実装にスタートアップが欠かせないのか?

【ケーススタディ】効果的な実証事業に欠かせない3要素
3記事目:ものづくりエコシステム編
4記事目:森林×異分野アクセラプログラム編
5記事目:EIRを活用した新規事業創出編


未成熟な市場を切り拓くスタートアップの重要性

さて、今まで「社会実装って何か?」という話をしてきました。ここからスタートアップの視点でお話していきます。

スタートアップは、社会実装というテーマを語る上では欠かせないプレイヤーです。

政府が新しい産業や技術に関する政策を施行しても、プレイヤーがいないと進めることができません。その他にも大企業、学術機関などにとって動きづらい不確実性の高い野生味溢れる市場において、アイディアや技術を社会実装して社会課題を解決する主体者として、スタートアップが先陣を切っていくことの意味合いは大きいです。

社会課題は、1社だけで解決できるものではありません。特に昨今では、ITだけで解決できる課題は、もうほとんど解決されてきています

2000年頃は、ITバブルの中で、B2C向けのWebサービスが伸びました。検索エンジンやECですね。ネットワーク効果が非常に効く事業なので、アイディア、技術、リスクテイクなどによって、一気に伸びたのが3世代ぐらい前のスタートアップトレンドでした。

2010年頃は、コーポレートの業務課題に対応したB2B向けのSaaS×AIが流行り、少し前からIPOする企業がどんどん出てきています。この辺りから、アイディア、リスクテイクだけでなく、特定分野の深い業務経験知識が重要性が増してきました。

そして、最近はAIやIoT、モビリティロボットなど、リアルな領域を組み合わせた技術が増えてきました。これらの技術は、社会課題解決にフォーカスしたものが多いです。

一方、リアルな領域に入ると、安全性担保や法規制など、考えないといけないことが増えてきます。ITだけの世界とは違って、関わる人や組織が増えるので、一気に複雑になりますよね。

これからのスタートアップは、確実にいままでよりも複雑な課題に取り組む時代が来てるんだと思います。だから、いろんなステークホルダーと社会実装を進めることが大事になってきています。

例えば、ハードウェアスタートアップの初期フェーズでは、お客さんのニーズを探って要件定義し、試作して、実証して量産化設計を進めていきます。

このタイミングでは、あまりステークホルダーは多くありません。
でも、実際にプロダクトを社会に出す段階になると、一気にステークホルダーが複雑になります

この段階ではプロダクトを作るだけでなく、業界団体、行政、世論、色んなものが関わってきて、プロダクトそのものではなく、ビジネスサイドの課題が増えてくる傾向にあります。

直近、分かりやすい例だと電動キックボードや自動運転などが公道を走ることも多くなってきましたが、それによって様々な課題、賛否が可視化されてきましたね。

なので、本格量産に進む前に一度プロダクトとビジネスモデルの設計を検証する体制構築を進める必要があります。具体的には、顧客のユースケースで実証するプロセスと並行して、販路拡大のパートナー提携、規制対応、ルールメイキングなど、社会に適応し、普及拡大していくプロセスを走らせていきます。

このフェーズを経て、最終的にハードウェアが本格量産されていく、、、みたいな。

現実には相当数のタスクが並行し、非常に複雑に進行するので、順番通りではなく、行ったり来たりしていくのが常ですが、ここまで説明した内容が俯瞰した全体像であると認識しています。
この「ステークホルダーとは、どういう人たちを指すのか?」をハードウェアスタートアップを例に説明すると、プロダクトづくりや実証事業に協力してくれる人、拡販してくプレイヤー、資金を提供する人、知財戦略、規制や関連産業を担う行政、それらをつなぎエコシステムを形成・強化する人たちが、それぞれの市場に存在したり、求められたりします。

ステークホルダーの属性に応じ、利害をすり合わせていく必要がありますが、「すり合わせる」と一言で言っても、お互いのプロトコルも利害も異なっているので、非常に難しい部分でもあります。

なので、「どう周辺プレイヤーと協力体制を構築するか?」が大事になってきます。

そのためには、大前提となる「どんな社会課題をどういう風に解決するのか?」という構想を基に共通認識をつくっていくことが重要です。こうした際、行政や金融機関のように信頼性の高い団体が仲介に入ることも大事な位置付けになってきます。

スタートアップを支援する“だけ”では実証事業は上手くいかない

実際、プロダクトの特性によって関連する共創パートナーや社会実装の課題は重なりはありつつも、多少異なることがあります。

例として、モビリティ分野を挙げると、工場内での移動手段と公道での移動手段は全く事情が異なってきますし、サービス・商品を一般消費者向けに提供するか、企業向けに提供するかでも大きく変わってきます。

なので、プロダクトの特性によって問題解決の方向性も変わります。公共空間やコミュニティでのビジネスアプローチでは、ルールメイキングが非常に重要になります。

一方で、ユーザー個人に価値を提供する場合、どのように価値を訴求して、“刺さる”プロダクトにすることや拡販するためのパートナーシップ構築も課題となります。

スタートアップ視点では、複雑な課題に取り組むほど、フェーズが進むほど、ステークホルダーが増え、コンセンサスを取るためにも実証を行いながら仕様を調整し、ステークホルダーとの協力関係を構築することが重要となります。

このプロセスでは、仲介者が重要な役割を果たすことも多いです。

次に、JISSUIが何を意識して政府の実証事業をマネジメントしているか説明します。我々が関わっている主な政策は、一般的な間接補助の仕組みを利用しています。

つまり、行政から予算を受け取り、企業へ間接的に補助金を提供します。企業は補助金を受けたプロジェクトを進める中で、多くのパートナーと連携し、実際の支出を経ながら関係を築きます。

我々の役割は、企業やパートナーとのヒアリングやインタビューを通じてフォローアップ調査を行い、現場でどのような課題があるか、どのような検証が行われたか、どのような関係が構築されたかを調査することです。

これが我々の基本的なアプローチとなっています。

私たちの制度を利用するのは、スタートアップ、ベンチャー企業を支援する事例が非常に多いです。もちろん、スタートアップ以外の企業もありますが、複雑な社会課題の解決方法を社会実装する上では、リスクをとってチャレンジする性質の強いスタートアップが主体となりやすいためです。

ここで重要なのは「スタートアップを支援すればいい」だけで終わらないことです。そのスタートアップへの支援が他のステークホルダーにどのような波及効果をもたらすか意識するか否かで、かなり成果に違いが生じると思います。

例えば、現在社会には数多くの中小企業やベンチャー企業が存在します。しかし、補助事業の予算や融資の限りがあるため、支援できる企業は限られます。

この限られた支援の中で最も効果的な支援を行うためには、その支援がエコシステム全体にどのような波及効果をもたらすかを考慮することで投資効果は格段に高まります

ですが、「スタートアップを支援すればいい」だけ考えて、“イマ調子の良い企業”を選ぶという発想や、短期的な成果ばかりを追求した確実性の高いものだけを選んでしまうといったバイアスが強くなります。

そうではなく、その支援を行なった先に市場が拡大したり、社会ルールに影響を及ぼしたり、社会全体にどのような波及効果が生まれるか考慮していくことが凄く大事だと思っています。

効果的な実証事業の設計を支える3要素

その「波及効果をどのように生み出すか?」において、我々が政府の実証事業を制度設計する際、注意深く取り組んでいる点は3つあります。

それが「目的の再設定」、「ポートフォリオ設計」、そして「実証成果の共有化」という3つの要素です。これから、それぞれの要素について詳しく説明していきます。

【要素①】目的の再設定

まず1点目「目的の再設定」。政府の実証事業を請ける時、そのプロジェクトの目的を聞くと、多くの場合、必要以上に抽象度が低すぎます。

例えば、森林に関連した政策で「どんどん木を切らないといけない。が、切ったあとに植える人が足りない」と課題提起され、解消するアイディア・技術をスタートアップから募り、実証するというプロジェクトがありました。

この「どんどん木を切らないといけない。ですが、切ったあとに植える人が足りない」という課題を、そのまま設定すればいいんですけど、組織内部の縦割りなどもあり、自部門の職掌の中で「植林作業を効率化する機械を作る」と本来の上位概念から過度に具体化された課題にすり替わってしまいそうな議論になりました。

このように目的や課題の過度な具体化は、解決する手段を狭めてしまいます。

もう少し抽象度を上げれば、「産業のイメージアップをして、人の募集を増やす」とか「造林作業者の副業支援をして継続率を高める」など、やれることを拡張できます。

実証事業に手を挙げる企業の強みや発想こそが価値の源泉ですから、手段を狭めず、最適な抽象度の目的設定をすることで新しいアイディアやソリューションが生まれやすくすることが重要になります。

もちろん、抽象度を上げれば上げるほど、実質的な中身を審査・選別していく難易度は上がっていき、事務局の手腕が問われる領域になっていきます。

【要素②】ポートフォリオ設計

2点目「ポートフォリオ設計」についてお話しいたします。

具体的な社会課題の解決策や適切なアプローチ方法に結論が出ていない段階で個別の事業内容の善し悪しのみで判断すると、「短期間で」「分かり易い成果が」「確実に出そうな」案件を支援するバイアスが掛かり、長期間で取り組むべき本質的な案件を見落としがちです。

したがって、政策が対象とする社会課題の解決にあたって、取り得る方向性についてポートフォリオを設計することで、検証できる課題の内容・幅等を踏まえた案件選定を行って、実証事業による「技術・サービス等の実用化に関連するステークホルダーと各々の課題を明確化」を行う必要があります。

一例として、経済産業省のプロジェクトを挙げましょう。日本のハードウェアスタートアップを支援する際に、まず、モーターや成長分野の一例としてIoTなど、製品ごとに分類し、それぞれの課題を考慮しました。BtoC向けの製品では、大量生産を可能にする工場との協力や、アフターフォローサポート体制の構築などが課題となります。

一方、BtoBtoCのスマートロックのようなケースでは、住宅メーカーや鍵メーカーと連携し、適切なインターフェース設計が非常に重要です。

このポートフォリオの特定分野に偏った実証事業では、明らかになった課題の解決策や共創パートナーの関係性に関するインサイトにも偏りが生じ、どんどん極端で欠落した視点で議論が進んでしまう可能性が高まります

そうした偏りを避けて、短期的な実現可能性だけでなく、課題設定の質や類型ごとに審査基準を最適化し、対象となる社会課題全体のバランスを見て、「技術・サービス等の実用化に関連するステークホルダーと各々の課題を明確化」していくためにポートフォリオ設計が重要な役割を果たします。

【要素③】実証成果の共通知化

3点目は、「実証成果の共通知化」です。共通知化によって他の事業者に車輪の再開発(※)をさせないことが重要です。車輪の再開発が起きてしまうのって、社会全体における無用なコストだと思うんですよね。

誰もが知っていて単純明快な機能をもつ「車輪」を引き合いに出し、「わざわざ自分で作る必要のないもの」を比喩的に表現する言葉。 無駄な作業に時間や労力を費やしている様子を、皮肉を込めて表現したいときに使われる。

特にベンチャーの世界では、同じ失敗が繰り返されることがよくあります。情報がオープンになりにくいため、共通知化が進みづらいです。したがって、異なる領域や失敗事例をポートフォリオ全体で網羅できれば、車輪の再開発を避け、その分野全体として更に次のステップに進みやすくなります。

こうした時、我々が特に意識しているのは、抽象度コントロールです。「共通知化だ」と言った時、各企業の事例100選みたいなものを作りがちなんですが、これは具体的ではあるけど各論になってしまうので参考にしづらいです。

そのため、抽象度を上げて、全体像から対象となる分野において共通、頻出となる課題を先回り出来るよう掲載して、その解消方法を事例と共に取り上げるといった形で「抽象から具体へ」落とし込んでいくことで、読んだらアクションに繋げられるガイドラインを心がけて制作し、情報発信しています。

📖 下記マガジンに一覧を公開しています 📖

ここまでに挙げた3点は全て繋がっていて、目的によってポートフォリオの範囲・広さは変わってきますし、ポートフォリオに則った実証事業を行うことで、共通知化するべき実証成果の質も上がってきます。

社会実装の支援者として、これらは常に意識してブラッシュアップをしています。

ただし、国や自治体の事業であればもちろんそれゆえの制約もありますし、社会実装フェーズにあるものは性質上、新たな試みになるため、制約のギリギリを攻める必要も多くあります。その時にリスクテイク出来る体制、組織でないと実施しづらいのも事実としてあって、私がJISSUIという団体を立ち上げた理由のひとつにもなっています。

つまり、社会実装とは?

ここまでの話を要約します。

社会実装とは、社会課題の全体把握、”実証”を踏まえた段階的な仕様策定と実行体制の整備活動をイテレーションしながら形にしていき、そのイノベーションを社会的に投資可能な状態に持っていく一連の活動となります。

”投資可能”とは、社会システム、技術、ビジネスモデルが一定まで成熟し、投資したリソースに対して、ベネフィットが発生し、持続発展可能であることが検証された状態を指し、そのためには周辺エコシステムの発展、パートナーとなるプレイヤーとの共創も重要です。

JISSUIでは、その社会実装プロセスにおける”実証”事業の政策効果、波及効果を再現性を以て最大化するために『目的の再設定』、『ポートフォリオ設計』、『実証成果の共通知化』を重要視している、、、と。

ここまでが第一章『社会実装の全体像』となります。休憩を挟んで第二章『社会実装⽀援の実例紹介』をお話していきます。

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