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実証事業のゴールは「投資可能な状態」にすること|社会課題解決と社会実装①

一般社団法人社会実装推進センター(略称:JISSUI)は、「社会課題を解決し得る、新しい技術やアイデアの“社会実装”を推進する」ことを掲げて活動している実証事業支援のプロ集団です。

政府の実証事業を通じて、数多くの大企業、スタートアップ、学術機関など…イノベーションの担い手を支援しているJISSUIが、複雑化し、不確実性の加速する時代に「なぜ、“社会実装”が重要なのか?」をIX Academy 2023(主催:一般財団法人日本経済研究所)にて語りました。

【基礎知識】実証事業と社会実装とは?
1記事目:実証事業のゴールは「投資可能な状態」にすること
2記事目:なぜ、社会実装にスタートアップが欠かせないのか?

【ケーススタディ】効果的な実証事業に欠かせない3要素
3記事目:ものづくりエコシステム編
4記事目:森林×異分野アクセラプログラム編
5記事目:EIRを活用した新規事業創出編


社会実装推進センター(JISSUI)とは

皆さんこんにちは。一般社団法人社会実装推進センター、略して「JISSUI」の代表理事を務める中間と申します。皆さん今日はよろしくお願いします。

IX Academy 2023の講義の中の一つとして「社会課題解決と社会実装」というテーマでお話させていただきます。

私はJISSUIの代表も務めながら、もう一つ立場もありまして、株式会社GREEN FORESTERSという、植林ベンチャーの取締役でもあります。

つまり、政策の設計や事務局を行う社会実装の”支援者”であると同時にベンチャーの”プレイヤー”としても活動しています。

経緯に少し触れると、大学時代には林学を専攻し、卒業後はコンサルティング会社で経済産業省などの政策設計や企業の新規事業支援に携わりました。その後独立して、介護関連の事業立ち上げや、ベンチャー支援政策の事務局等に従事していました。

そんな中、特にベンチャー支援政策の事務局を担う過程で、社会実装というプロセスの重要性を感じ、社会実装に特化した支援団体・専門家集団が必要だ…と考え、JISSUIを設立しました。また、ベンチャー支援の中で林業に接する機会も増えてきて、共同創業者との縁もあり私自身も林業ベンチャーを立ち上げることとなりました。

私にとって、プレイヤーとしての経験と支援者としての両方の立場を持つことは非常に価値があり、それぞれの経験を活かした活動が大切だと感じています。

JISSUIは2020年10月に私と猪股の2人の理事で設立された新しい団体です。企業からの派遣や出向というわけでもなく、役所の外郭団体でもない、独立体制の社団法人です。

社会実装を推進する3つの活動

私たちの団体は、主に三つの活動を行っています。

1点目は、政策コーディネート・実証事業プロジェクトマネジメントです。国などの大規模なプロジェクトに対する事務局業務を担当しています。この中で、予算を元請けとして受け取り、制度設計を行いつつ、スタートアップやベンチャーなどの支援を行い、その成果を総合的に取りまとめる役割を果たしています。

2点目は、社会実装課題調査です。実証事業の成果をしっかりと取りまとめることが非常に重要だと考えており、この調査や成果をレポートなどのアウトプットとしてまとめるということをシンクタンクなどと連携しながら進めています。

3点目は、メディア・情報発信です。私たちは実証事業を通して得られた知見を基に記事、ガイドラインなどの広報物を制作し、運営しているオウンドメディア「FLAG」、特設サイト、SNSを通じて、適切な対象者に伝えるための情報発信を行っています。

立ち上げてからもう3年が経ちます。この間、主に13のプロジェクトを主に中央官庁から受けて、それを実際に運営してきました。

「社会実装」と「社会実装フェーズ」

我々は、社名にも入っている「社会実装」という考えを非常に大切にしています。特に「社会実装フェーズ」に焦点を当て、政府の行う実証事業の事務局業務を担いながら、政策効果や社会影響を最大化するための様々な試みを行っており、これが我々の独自の特徴にもなっています。

「社会実装フェーズとは何か?」について説明しましょう。

社会実装フェーズとは「まだ何がどうなれば社会課題が解決されるか確定していないなか、”実証”によってその要素を段階的に明らかにしていくフェーズ」を指します。

この社会実装フェーズにフォーカスしているのは、前職のコンサル自体も含めて、様々な政策の事務局を務めてきた視点からみてみると、多くの政策がうまく機能していないと感じていたことが背景にあります。特に問題意識があったのは、政策の“フェーズ論”でした。

例として、バイオマス発電の分野を挙げます。健全にバイオマス発電所を運営するには、木材を供給する林業事業者等と連携し、供給できる木材量・植林できる面積に合わせた適正規模の設計が不可欠です。

そんな中、FIT補助金が導入され、木材チップを使用するバイオマス発電所が増えましたが、補助金の存在によって多くの発電所が供給量に対して過大な設備規模になってしまい、結果として海外からの輸入チップの消費量が増え、再生可能エネルギーの普及や林業の発展にも繋がらない…といったケースを一部生んでしまったのではないかと私は捉えています。

これは、普及・拡大のための補助金や政策が市場の歪みを生んだ結果と言えます

こうした問題の根本は、普及・拡大政策を実施する前の段階にあります。本格的に政策を立ち上げる前に、どのような影響が出るのか、どのようなルールや手法が必要か、しっかりと実証する必要があると感じています。多くの政策で、短期的に大きな予算が動くと類似の問題が生じてしまいがちです。

社会課題は日々複雑化しており、不確実性が高くなり、単に資金を投じるだけでは解決できないものが増えています

だからこそ、そうした不確実性の高い領域の解決策を実証し、明らかにしていく社会実装フェーズの重要性も増していきます。そうすることで新たなイノベーションや技術が正しい形で普及・拡大しやすくなると考えています。

しかし、この「社会実装フェーズ」は非常に難易度が高い

私自身、コンサル会社や社団法人の中でそのプロセスを経験しましたが、政府の実証事業を社会実装に繋げていくのは大変だと感じています。

そもそも、実証事業では、制度の設計、オペレーションの構築、調査、広報など、多岐にわたるタスクが発生します。これらのタスクは相互に関連性があり、かつ流動的に内容も変わっていくので、都度、タスク間での調整が必要になります。これらを取り纏める“元請”の“プロマネ力”が重要になるのですが、実はそこが一番事業としては儲からない、かつ対応可能な人材も少ないのが現状です。

結果として、本来調査Phを担う組織(シンクタンク等)や、普及Phを担う組織(外郭団体等)が、無理しながら対応しているのを目の当たりにしてきました。

新しい技術やアイデアを世の中に普及させていく政策を適切に機能させるには、調査・研究・研究フェーズの成果を受け取り、実証を経て社会実装を行い、それを普及・拡大フェーズへとバトンタッチする役割が求められています。

ですが、その役割を果たす団体は不足しています。

調査Phを担う事業者からすると業務内容が広範すぎますし、普及Phを担う事業者からすると小規模・流動的過ぎて対応し難い。そこで、我々は、社会実装フェーズに特化した団体として、JISSUIを設立しました。

非営利型の社団法人として他社では対応しにくい領域にフォーカスし、元請として適宜シンクタンクや人材会社等と連携して体制を構築しながら各プロジェクトに対応しています。

社会実装とは?

ここで分かるようで分かりづらい「社会実装」の定義についても改めて触れたいと思います。この言葉は様々な文脈で使用され、統一的な定義は存在しないと考えています。

辞書的な定義では、『研究開発によって得られた知識・技術・製品・サービスを、実社会で活用すること』を指します。一部の論文では『問題解決のために必要な機能を具現化するため、人文学・社会科学・自然科学の知見を含む構成要素を、空間的・機能的・時間的に最適配置・接続することによりシステムを実体化する操作』などとも定義しています。

一方、JSTの補助事業の定義では、『具体的な研究成果の社会還元。研究で得られた新たな知見や技術が、将来製品化され市場に普及する、あるいは行政サービスに反映されるなどにより社会や経済に便益をもたらすこと』といった定義をされています。

これらの定義には共通点があり、実社会での価値創出や便益の提供が中心となっています。

我々の考える「社会実装」は、単一の企業や組織だけでなく、関連する全体で進めるプロセスとして捉えています

各市場には各プレイヤー、規制官庁、推進官庁、業界団体、関連産業、、、様々なステークホルダーがいて、「規制を考え直さないと」とか「○○の産業も発達させなくては」とか、社会実装を進めていくには、一社だけでは完結することが難しく、社会システム全体との接続が求められます。

そのため、日々取り組む中でアップデートもありますが、現時点においてJISSUIの定義する「社会実装」は『技術やサービスなどの対象物の実用化に関連するステークホルダーの課題を明確にし、各ステークホルダーが今後アクションするための仕様を段階的に確定させ、実行体制を整備することで、対象物を投資可能な状態にするプロセス』としています。

社会実装における3つの活動

我々の考える「社会実装」は、関連する全体での取り組みとして、三つの活動が含まれると考えています。

1点目は、課題の全体把握です。実用化を目指す対象物と、それに関連する社会システムやステークホルダーを明確に理解し、それぞれの課題を整理することが非常に重要です。特に研究開発ベンチャーなどが、この部分を見落としてしまうことが多く、その結果として社会システムとの接続が得られない、または事業として成立しないケースが多く見られます。

2点目は、段階的な仕様の確定が挙げられます。全体の社会課題を把握した上で、プロトタイプや実証実験を繰り返し行い、各ステップでの活動や成果物を明確にしていくことが求められます。この活動は、単なる技術やサービスの提供者、つまりメーカーやベンチャーだけでなく、関連するすべてのステークホルダーが各々のすることを段階的に明確化する必要があります。

ステークホルダーが多数いるにも関わらず、1社で無理に取り組んでもコンセンサスが取れず、社会実装に至らないというケースは散見されます。

3点目は、実行体制の整備があります。段階的に仕様を確定させた結果を基に、必要な体制や組織の変更を行っていくことが重要です。新しい体制を作るだけでなく、既存の体制を変更することも考慮します。

社会実装のプロセスでは、これらの活動をイテレーション(反復)し、技術やサービスが投資可能な状態になることを目指します。そして、技術やサービスが開発に掛けたコストに見合った収益を生む、または社会課題の解決に貢献できている状態、、、これが社会実装の完了した状態と言えます。

この状態を超えると普及・拡大フェーズになり、資本、体制の拡大に応じて収益拡大、社会課題解決に繋がっていき、資本投下できるか、普及・拡大できるか、グローバルな競争に勝てるか、、、といった、それまでとは異なる性質の課題が出てきます。

社会実装が目指すべき「投資可能な状態」

この「投資可能な状態」を、SaaSビジネスでよく使われるファネル(漏斗)という考え方を用いて、具体的に説明しましょう。

例えば、あるサービスにいて、ユーザー候補のターゲット層2000人と接点を持ち、うち1000人がクリックし、そのうち実際に使い始める人が100人います。その中で、継続利用する人が5人いて、最終的には収益の中核をなす1人の利用者がいます。

こうした考え方をファネルと呼び、コンバージョン(成果)に至るまでの歩留まりを観測し、リソースの投資対効果を図るのに有効です。これを応用したARRRAモデルというものも存在します。

先ほどの例では、結局1000人がクリックしても、中長期的に収益に繋がるのは1人だけという状態です。つまり、1000分の1のコンバージョン率です。広告費を増やして5000人にアプローチするとしても、収益はわずか5人にしかつながりません。このような不健全なファネルを揶揄し、穴の開いたバケツと言われたりします。

この状態では、非常に効率が悪い投資となり、このままではVCや他の投資家たちも資金提供が難しいです。

こういった場合、どうすべきか。

歩留まりの悪いポイントを特定し、改善していきます。殆どの場合、顧客にサービスが刺さっていないことが原因です。改善できれば、投資の収益は劇的に向上することになります。

つまり、投資効率を最大化するためには、まずお客様のニーズに合ったサービスを提供し、その後に投資を行うべきです。そうした健全なファネルを築けるまでは、無駄にマーケティングを行ったりするよりも、着実にユーザーに価値を届けることが重要になります。

これはITの世界だけでなく、他の分野でも同様の考え方が適用されます。研究開発のベンチャー企業でも同じようなことが言えます。技術投資や人材採用は重要ですが、ビジネスモデルや周辺のエコシステム、社会的受容性なども考慮しなければなりません。投資の収益性はこれらの要素によって決まるため、全体のバランスを取ることが重要です。

「実用性のある技術・サービスができた」だけでは「社会実装できた」とは言えません。

そのため、調査・研究した新技術・アイディアを、社会実装フェーズにおいて実証を踏まえて、必要となる要素を段階的に明らかにして、普及・拡大するための投資可能な状態に繋げていく必要があるのです。

ここまでは「JISSUIとは?」、「社会実装とは?」について紹介してきました。ここからスタートアップ視点で具体的に説明していきましょう。

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