【事例で見る】効果的な実証事業に欠かせない3要素(ものづくりエコシステム編)|社会課題解決と社会実装③
一般社団法人社会実装推進センター(略称:JISSUI)は、「社会課題を解決し得る、新しい技術やアイデアの“社会実装”を推進する」ことを掲げて活動している実証事業支援のプロ集団です。
政府の実証事業を通じて、数多くの大企業、スタートアップ、学術機関など…イノベーションの担い手を支援しているJISSUIが、複雑化し、不確実性の加速する時代に「なぜ、“社会実装”が重要なのか?」をIX Academy 2023(主催:一般財団法人日本経済研究所)にて語りました。
それでは、さきほど(記事リンク)説明した社会実装プロセスにおいて我々が重視している3つの要素である「目的の再設定」、「ポートフォリオ設計」、そして「実証成果の共有化」について、具体的な3つの事例に沿って紹介させていただきます。
【具体例】スタートアップファクトリー構築事業
最初に『スタートアップファクトリー構築事業』というプロジェクト事例を紹介します。
この実証事業では、ものづくりスタートアップの「量産化の壁」を超えやすい環境を構築する取組を行い、最終的に『「ソフト・ハード融合」領域におけるスタートアップのための社会実装ガイドライン』として実証から得られた知見をまとめて、共有知化まで図りました。
スタートアップファクトリー構築事業の概要
背景として、当時、GoogleがPixelを世に出す等、いままでソフトウェアベンチャーと思われていた企業が独自のデータを取得する、ソフトウェアやデータの技術をリアルな世界に反映させていくためにハードウェアにも乗り出し始めていく情勢がありました。
一方、ハードウェアベンチャーも“ただのロボット”ではなく、例えば画像認識を行いながら農業の収穫作業を自動化するスタートアップや、画像認識を使用して自動手術を行う医療機器の開発など、ソフトウェアによって更に高機能化したハードウェアを生み出していく流れになっていました。
このソフトウェアとハードウェアの融合した領域をどのように発展させるかが政策上の課題となりました。この課題で肝となるのは、ソフトウェアの開発プロセスとハードウェアの開発プロセスが大きく異なることにあります。
ソフトウェアの開発プロセスでは、α版やβ版などの未完成なバージョンをリリースし、実際のユーザーのフィードバックを受けながら修正を行い、アジャイル的にプロダクトの品質を向上させていくことが容易です。
しかし、ハードウェアの開発では、“リアルなもの”が絡むため、ユーザーのフィードバックを受けて反映するまでの時間、コストも多く掛かるだけでなく、安全性基準や規制など、特有の難しさがあります。
さらに、ハードウェアの場合、仕様や設計が変更されることに伴って、パートナーやノウハウも大きく変化することがあります。このような状況では、アジャイルな開発プロセスを適用しにくいだけでなく、ノウハウの蓄積も難しい場合があります。
そのため、ハードウェア開発にはソフトウェアとは異なる知識とスキルが必要であり、IT企業やスタートアップにとって、ハードウェア領域への進出は難しいです。
例えば、ソフトウェアは1ヶ月ごとにアップデートされるけど、ハードウェアの検証は6ヶ月掛かる…みたいなことが起きるため、IoTプロジェクトなどでは両者の開発スピードの差が課題となります。
スタートアップファクトリーで焦点を当てた課題は、日本の従来ある製造業のエコシステムでは、大企業の受託加工が中心でスタートアップとの協力や試作に携わる人材が多くないという点でした。
そのため、本プロジェクトでは、ものづくりスタートアップ、あるいはスタートアップのものづくりを支援する製造業者の両方を生み出して繋げるエコシステムを構築することを目的として設定しました。
そのために経済産業省の予算を活用し、以下の3つの成果目標を設定しました。
1つ目は、ものづくりスタートアップのロールモデル創出。ハードウェアスタートアップを個社支援し、社会実装された成功事例を作り出します。
2つ目は、製造ノウハウと社会実装ノウハウの共有知化。事例から抽出したノウハウをスタートアップエコシステム内で“一般常識”として普及させ、成功率を高めていきます。
3つ目は、ものづくりスタートアップへの民間投資の誘導。ものづくりスタートアップのロールモデルや成功率の向上によって、市場期待を高め、投資を促進し、人材・技術・資金を呼び込み、好循環をエコシステムに生み出していきます。
この3つの成果目標に向け、ものづくりスタートアップやその支援者となる製造業をサポートする中で「どのような課題をどのように解決したか?」を調査して、シンクタンクと連携してノウハウとしてまとめていきました。
『目的の再設定』が成否を分ける
このプロジェクトにおいて、最も重要なポイントの一つは、目的の再設定でした。事業開始当初、予算要求を行う段階から「このプロジェクトは個社支援ではなく、エコシステム構築に関するものですよね」と強調して伝えていきました。
結果として、目的も名目も『エコシステム構築』と明確に位置付けられました。これがなぜ重要なのかというと、設定された目的が以降に行う全てのアクションにおける上位概念や根拠になるからです。交付要領、公募の審査基準など、全てに影響を及ぼします。
仮に『個社支援』で目的設定をしていたら、一社ずつの実現可能性だけにフォーカスすることになり、市場全体の課題を網羅することは難しくなり、事業を通じて抽出できる課題や解決方法は偏っていたでしょう。
『ポートフォリオ』で俯瞰する
次に、プロジェクトにおいて作成したポートフォリオを紹介します。ポートフォリオでは、“日本の強みを活かす分野”と“事業特性に応じた課題”をそれぞれ3つに分類し、全体を9つの小セグメントに分割しました。
これにより、社会実装とものづくりに関連する課題を包括的に捉え、セグメントごとに審査基準を設けることが可能になりました。
『共通知化』して、実証成果を波及する
このように最初にポートフォリオを考えて、類型を分けて事業者を公募・選定したことによって、ソフト・ハード融合領域におけるスタートアップの社会実装プロセスを全体像から把握し、それぞれの課題、事例、Tipsを多くのものづくりスタートアップに有用なガイドラインを製作することができました。
このガイドラインは、その領域のスタートアップだけでなく、協力関係を築く必要性のある周辺エコシステムの人々にも読んでもらいたいと考え、スタートアップ&共創パートナー双方の視点で「どのようにWin-Winな関係性を築いたか?」に関する事例も掲載しています。
例えば、介護市場における排泄ケア領域で競合関係にあたる『Triple W(排泄予測デバイス)』と『光洋(老舗おむつメーカー)』がシナジーを見出したり、養殖業の密漁を防ぐドローンを開発しているベンチャーが実証フィールドを必要として地域のハブとなる自治体と共創したり、、、面白く、かつ“あるある”な事例を見た人が活用しやすい。
特に今回取り上げたスタートアップファクトリー構築事業のような新しいエコシステムを整備する実証事業では、周辺事業者との協業を促したり、新規参⼊者の投資効率などを⾼められるような共通知をとりまとめ、成果をより広く普及していくことの価値は非常に高いです。
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