【事例で見る】効果的な実証事業に欠かせない3要素(EIRを活用した新規事業創出編)|社会課題解決と社会実装⑤
一般社団法人社会実装推進センター(略称:JISSUI)は、「社会課題を解決し得る、新しい技術やアイデアの“社会実装”を推進する」ことを掲げて活動している実証事業支援のプロ集団です。
政府の実証事業を通じて、数多くの大企業、スタートアップ、学術機関など…イノベーションの担い手を支援しているJISSUIが、複雑化し、不確実性の加速する時代に「なぜ、“社会実装”が重要なのか?」をIX Academy 2023(主催:一般財団法人日本経済研究所)にて語りました。
【具体例】客員起業家(EIR)活用に係る実証事業
最後に『客員起業家(EIR:Entrepreneur in Residence)活用に係る実証事業』について説明します。
EIR活用に係る実証事業は、2つの課題意識が背景にありました。
1つ目は、「起業家を増やしたい。けれど、セーフティネットが不足している」ということ。
新しい事業というのは多産多死の世界で、失敗がつきものです。その”失敗”を評価し、起業家の”次”が見えるセーフティネットが不足してるという課題です。
2つ目は、「大企業の経営戦略と人的資本にギャップがある」こと。
これはもう少し噛み砕くと、大企業も新事業をしていかないといけない状態ではあるものの、それを推進できるような人材戦略、それに紐づく人材登用や人材育成ができていないという課題です。
これら2つを解決する方法として、すでにアメリカでは事例が増えてきているEIRという制度に着目し、それを日本に普及する検討に向けた実証事業でした。
EIRとは
では、「このEIRという制度はなんなのか?」を説明します。
EIRとは、『イノベーション創出に向けて課題を有する企業』が、『客員起業家(起業準備を行う者、新規事業の開発・スタートアップ協業に知見を有する者)』を『一定以上雇用等する』という制度です。
EIRによって、客員起業家は企業側のキャリア・リソース等をセーフティネットに、企業側は社内にないノウハウを持つ客員起業家によって新規事業創出が期待できます。
JISSUIでは、経済産業省から委託を受け、このEIRを活用したいと手を挙げた『実証事業者』を選定し、再委託を行い、実際にEIRを活用した取り組みを推進してもらって、調査を踏まえて『EIR活用ガイダンス』として一般公開しました。
最初の『ポートフォリオ設計』で定義した類型を段階的に変えていく
本事業では、当初デスクリサーチを踏まえて行った『ポートフォリオ設計』でEIRの活用類型を3パターンに定義したのですが、実証事業を経て、段階的に変更していきました。
本事業でポイントとなったのは、この「初期設計を仮説として、動かない要件とせず、段階的に変更を掛けていく」というプロセスでした。
まず、本事業では、先に述べたようにEIR活用パターンの類型A〜Cと3種類に定義を行い、実証事業者の公募を掛けました。
この3パターンの類型は、それぞれ目的も、想定される活動も違いますし、結果的に実証事業者として選定する上での審査基準も異なってきます。
公募の結果、類型化したのが功を奏して、VC、事業者、アクセラレーターなど、バランスよく9事業者を採択することができました。
ただ、実証事業が進み、インタビューを行う中で「類型を改めて設計し直した方が良いかもしれない」と考えました。例えば、起業を出口とするか、しないかで大きく取組内容も変わってきます。
『共通知化』に向けて整理した事業成果が、翌年度事業&別政策へ接続される
そこで最終的に『共通知化』として『客員起業家(EIR)制度の活用ガイダンス』を取りまとめる際には4パターンの類型に再整理を行いました。
すでにビジネスアイディアを持つ客員起業家を迎え入れる『投資案件組成型』、自身はアイディアを持たずに他から持ち込まれたアイディアを育てる『スタートアップスタジオ型』、技術シーズを活用して事業化する『技術シーズ活用型』、起業ではなく子会社化含めて社内事業を立ち上げる『新規事業創出型』、、、といった感じです。
このパターンで言えば、EIR活用効果化が最も高く、筋が良さそうなのは『技術シーズ活用型』ということがわかってきたので、その事業成果をNEDOが実施する予定であった大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業(MPM)に接続するといった波及効果を生みました。
この別事業にも接続できたのは『ポートフォリオ設計』をして、課題を分解していくことでインプリケーションを得やすくなるような状態にしたことも寄与していると考えています。
また、結果的に得られた示唆が他の取組に転用しやすくなるという点では『共通知化』の効果に繋がっているとも言えますね。
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