【出向起業|体験談】株式会社ウィズカンパニー 代表取締役CEO 谷口 敢一
ジム通いで感じたフィットネス業界の課題を、ゲーム開発の経験を活かして解決する
―― まずは事業の概要をお伺いできますか。
一言でいうと、“おうちでできる徹底管理パーソナルトレーニング”です。これまで、パーソナルトレーニングをやってみたいというニーズがあっても、金額面などがネックで断念してしまう方が多数いました。直近のコロナ禍の影響で密を避ける需要も高まってきたことを背景として、オンラインでプロのトレーナーからトレーニングや食事の指導を受けられるサービスWITH Fitness(ウィズフィットネス https://with-fit.com/)を立ち上げました。
―― どういった経緯で、この事業を立ち上げるに至ったのでしょうか。
元々はエンジニアのバックグラウンドがあり、直近ではアプリゲームの企画・運用の仕事をしていました。ゲーム作りは楽しい仕事ではあったのですが、なかなかハードで体力勝負な仕事でもあったので、体を鍛えようと出勤前にジムへ通うのが習慣になっていました。
また、いつか自分の好きな領域で起業したい・挑戦してみたいという思いもあったなかで、デライト・ベンチャーズの起業支援プログラム(https://delight-ventures.com/)を知り、審査に応募しました。ジム通いの経験からフィットネス業界の非合理な点も肌で感じていたので、既存のフィットネスアプリよりも徹底管理を志向した領域で事業を起案しました。
―― 現在の企画に行き着くまでには、試行錯誤をされたのでしょうね。
そうですね。元々はAIを使ったパーソナルトレーニングなどもアイデアとして考えていたんですが、この領域を深掘りすると、やはりパーソナルトレーニングはトレーナーの熱量が肝であり、 熱量のある“人間”がやることに価値があるなと気付いたのです。そこで、トレーナーとのコミュニケーション部分に特化して実証してみたところ、非常に反応が良く、リアルを超えられる可能性まで感じられたので、現在のサービスに行き着き、起業に踏み切ることができました。
―― リアルを超えられそうな手応えとは、具体的にどういったことでしょうか。
トレーニングはゲームと同じで、楽しくなければ続けられないと感じています。その意味でも、既存のパーソナルトレーニングは、リアルでのトレーニング指導が売りだと思うのですが、トレーナーとの日常のコミュニケーションはLINEを使っているなど、継続するための全体の流れが洗練されていない部分があると感じていました。
そこはゲーム開発と考え方は同じで、いかに何度もやりたいと思わせる工夫ができるかが重要だと考えています。例えば、トレーナーからのアドバイスが自然に発生するように、お客様の記録と報告の導線を設計することで、毎日記録したいと思わせる体験が作れるのではと感じました。”食事の記録”という行為を、ただトレーナーに報告するつまらない作業ではなく、自らの生活が数値化され整理されるために必要なプロセスと位置づけました。情報を埋めたい・振り返りたいという欲求は、ゲームで空いている図鑑を埋めたくなる感覚や戦績を振り返りたいという欲求に似ています。さらに、ゲーミフィケーションの要素を加えながら体験を改善していくことにより、無理しなくても”続けられる”という価値を提供できるのではないかと思っています。
起業家自身が資本を持つことによる、責任感と成功確率の高まり
―― デライト・ベンチャーズのプログラムに手を挙げた決め手はありましたか。
前提として、学生の頃からIT技術を使ってスタートアップを起業したいという思いを持っていましたし、そういう軸でこれまでもキャリアを積んできたところがあったので、これはチャンスだなと思いました。
また、デライト・ベンチャーズのプログラムは、株式のシェアを起業家に十分に持たせていただけるところが非常に魅力的でした。一般的な社内起業制度というと、会社が株の大半を持って子会社を立ち上げるようなイメージだったのですが、このプログラムの場合は、出資はするけれどあくまでマイナー出資に留め、起業家が意思決定を持って推進できる、他社ではなかなかない取り組みなのかなと思いました。
―― デライト・ベンチャーズとして支援する立場の辻口さんにお伺いします。この資本政策は、どういった狙いがあるのでしょうか。
辻口 ここは正直、他社さんからも驚かれるところですが、ファンドとしての狙いはシンプルです。すなわち、”ベンチャー企業成功時のリターン最大化“ではなく、”ベンチャー起業の成功確率の最大化”を第一の目的としているからです。出資する側が”成功時のリターン最大化”を考えてしまうと、結果として取り得る資本政策が限定的になり、成功確率が下がってしまう場合があります。
まだどうなるか分からない段階で、出資する側が大きなシェアを取ることは、デライト・ベンチャーズの「起業のハードルをとことん下げる」というビジョンとは相反しています。また、折角の起業ですから起業家には大きなシェアを取ってもらい、成功時のリターンも大きく得ていただくことは、起業するかどうかで迷っている方への良いシグナルにもなると思っています。
谷口 非常にありがたいですし、お世話になったことを考えると、この少ないシェアでも恩返しできるように、もっと企業価値を高めなければ…と思いますね。株式会社ディー・エヌ・エー(以下 DeNA)の新規事業ではなく、自分自身の会社として、事業を成長させていくことに責任とやりがいを感じています。
外部資金調達を目指し、類似の業態への横展開も含めて、事業開発を加速していく
―― 直近の活動状況はいかがでしょうか。
これまではデライト・ベンチャーズに部分出向しながらニーズを検証していたのですが、正式にフルコミットができる状態になりました。デライト・ベンチャーズの紹介もあり10社程度のVCを回るなど、たくさんの投資家の方からのご意見をいただいて事業がブラッシュアップできている実感があります。
出向元企業に所属しているときは当然ながら予算権限のある上長を説得していくプロセスですが、これまで関係値が無かった投資家に事業やチームの魅力を伝えていくプロセスは自分にとって新鮮でもあり、起業家として成長するきっかけになっているなという実感があります。
―― まさに起業家として動かれていますね。今後の展開についてお伺いできますか。
近々、サービス内容のリニューアルを予定しており、まずはお客様に満足していただけるサービス提供を目指しています。今後は例えばウェアラブル端末との連携によって報告を簡潔にして、トレーナーからの指導をより生活に密着したものにするなど、これまで無かったような仕掛けを取りいれつつ、ベストな状態が作れたところで本格的にマーケティングも力をいれていきたいと考えています。
また、このトレーナーとのコミュニケーションという仕組みは、トレーニング以外にも横展開できると考えています。例えばマンツーマンの個別指導塾や、ゴルフの指導など、そういった人間のコミュニケーションが必要なオンライン習い事系の事業として展開していくことも検討していきたいです。
―― 独立して経営者になる前と後、何か違いは感じていますか。
生活のほぼ100%を事業のために、エネルギーを割けるようになりましたね。あとはDeNAの社員だった気の合う優秀な共同創業者も参画してくれたので、よりスピード感は何倍にもなっていると思います。
起業して外に出て、いままでは出向元企業の大きな看板があったことを改めて、実感しています。これからどうやって自分の名前を広めていくか、サービスをより良くしていくか、より現実的に感じているところです。
―― これから起業したい、目指したいと考えている方にメッセージをいただけますか。
大企業に勤めていて安定した生活の保証があると、どうしてもリスクを取りづらくなる方もいらっしゃると思います。しかし、自分の思い描いていた世界で熱狂してくださる人がいるというのはやはり嬉しいもので、喜んでくれるお客様の声を聞けたときに「起業っていいものだな」と心の底から思います。
我々はフィットネスのサービスなので、みるみる痩せて卒業していくお客様から喜びの声が届きます。起案から育ててきた事業を推進するのは、大企業の中で一事業を任されていた責任感とはひと味違うやりがいが感じられます。
死ぬまでに一度はなにかの事業に挑戦したい、起業に興味はあるけど一歩を踏み切れないという方がいらっしゃれば、積極的に挑戦してみるのがおすすめです。
谷口 敢一(たにぐち かんいち)氏
2014年に株式会社コロプラにエンジニアとして新卒入社し、ゲームアプリ開発や内製ツールの開発に従事。2016年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社。複数タイトルのディレクターを経験。社内起業支援プログラムを通じて、ゲーム開発の傍らで新規事業の立ち上げをリードし、2020年7月に株式会社ウィズカンパニーを創業。
「オンラインパーソナルトレーニングアプリ“WITH Fitness”」について
昨今痩せる方法がわからない、ダイエットの継続が難しい、たびたびダイエットをしたけど失敗したという方にとって、食事の方法や運動の仕方をマンツーマンで教えてくれる「徹底管理型パーソナルトレーニング」が人気です。しかし、利用を検討する方の多くが月会費が高額などの理由で断念される場合が多いのが現状です。
本事業では「フィットネスクラブ利用を検討しているが、経済面、環境面、コロナ禍の密への恐怖など何らかの理由でパーソナルトレーニングを断念している層」をコアターゲットに、専属パーソナルトレーナーからのテキストによる生活指導と、テレビ通話システムZoomを利用したオンラインレッスンができるサービスをサブスクリプションによって提供します。
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