【イベントレポート】大企業発スタートアップ創出に向けた制度を考える産官学合同イベント
先日、CIC Tokyoで『大企業発スタートアップ創出に向けた制度を考える産官学合同イベント』が行われました。
大企業に眠る経営資源(人材・知的財産含む)を有効活用し、新たなイノベーションを生み出すには様々なジレンマが存在します。このイベントでは、そうしたジレンマを解消し、大企業に眠る経営資源を社会価値、経済効果に還元していくための事業開発の在り方を産官学の実践者を交えながら議論していきました。
その様子をお伝えします。
基調講演「アントレプレナーシップ~大企業ミドルからの変革」
長谷川教授からはイベントテーマである『大企業発スタートアップ創出に向けた制度を考える』上でのフレームワークを示しました。
最初にジョン・コッター氏の『トップの変革(2007)』と対比しながら、『ミドルの変革』の重要性を訴えました。
変革のための理論として、『コングルエンス・モデル(オライリー氏、タッシュマン氏、2014)』を引き合いに「リーダーシップを戦略とKSFに落とし込み、人的資源を与えてコンピテンシーとやる気を生み、公式の組織のルールをつくり、文化にしていく。このサイクルを回していくというのは一般論ではあるものの、間違いありません」と言います。
変革が進んでいないと思うときは、リーダーシップは続いているか、戦略は明確か、KSFは明確で進捗はどうか、変革チームの指揮系統や処遇は適正かといった問いを立てるべきであると。
また、ブルー・オーシャン戦略を提唱したW・チャン・キム氏の『ティッピング・ポイント・リーダーシップの4つのハードル(2003)』に見られる課題が変革の妨げとして組織に存在していないかも見ていく必要があるとのことです。
そして、こうした変革を推進するイノベーターは2.5%しかいないと言われていることを『キャズム理論(ムーア氏、2014)』を元に語ります。イノベーターが、アーリーアダプターに火をつけ、15%が変わっていくと組織が徐々に変わるキャズムを越えていくと言います。
こうしたイノベーターを大企業内で育成、活躍させていくために森亮二氏の『社内起業家の循環型育成モデル(2024)』を取り上げ、社内起業、社外起業を通じた変革を進めていくには、挑戦を評価される仕組みをセットで実装する重要性を訴えました。
長谷川教授によると変革テーマ別成功ポイントを統計で見ていくと、財務指標に変革テーマを関連づけるより非財務指標に変革テーマを関連づける方が効果が出やすく、一番効くのは会社の公式行事にするために力を注ぐのが最も効果が出る傾向があると言います。
講演「人材政策の最近の情勢と出向起業」
小澤氏の登壇では「DXやGXにより産業構造・労働需要が変化し、人口減少が進む中でも経済成長、競争力を高めるには、あらゆる人材の力を高めていくことが極めて重要である」と人材育成の重要性を訴えることから始まります。
海外と比べて突出して従業員への投資は低く、しかも失われた30年間でさらに削られ…従業員の社外学習・自己啓発も圧倒的に少なく…従業員のエンゲージメントも非常に低い…各国に比べて現在の勤務先で働き続けたいと考える人が少なく、しかし転職や起業の意向を持つ人も同様に低く、この30年で国際競争力も1位から35位に落ちた。。。
そうした現状をデータを交えながら小澤氏は説明し、「世界的に無形資産が評価される中で日本企業は無形資産の中核を成す人材への投資を怠ってきた」と挙げます。
その課題意識を踏まえ、政府でも人材の捉え方を抜本的に変革することを目指して『人的資本経営』を推進しており、コンソーシアムを2022年8月に設立したとのことです。
こうした流れの中でスタートアップ創出と大企業等の人材育成を進めていくための仕組みとして、会社を退職せず、セーフティネットを保ちながら挑戦ができる『出向起業』という補助制度について取り上げました。
大企業のカーブアウトやスピンアウトによって、挑戦する人材、挑戦する文化を浸透させ、スタートアップを創出し、イノベーションを促進していく流れは政府の骨太の方針や成長戦略にも記載されているとのことです。
講演「出向起業制度の事例」
中間氏は、小澤氏の取り上げた『出向起業』の補助金運営事務局として具体的な事例を掘り下げて紹介しました。
中間氏は、野村総研でスタートアップ政策等の制度設計を担当し、自身でもスタートアップを立ち上げ、現在は林業ベンチャーを経営しながら、ベンチャー支援政策のコーディネートに従事しており、大企業、スタートアップ、支援者、それぞれの立場を経験してきたと言います。
出向起業の補助金運営事務局の立ち位置は、大企業の事業開発担当の『駆け込み寺』のようなものと表現し、年間50件以上の相談が来ると言います。
出向起業では、変化に時間の掛かる組織起点ではなく、意欲のある個人を起点にして、大企業人材がチャレンジできる環境構築を促すことが目的としているそうです。
スタートアップ出向で既にある組織に一役割で入ることとは違い、出向起業は自身でゼロイチをするため、総合格闘技のように全部やっていく必要性があり、出向よりも起業の色が強いと言います。
出向起業の事例としては、様々なパターンがあり、例えば「今後、必ず来る潮流だが、自社内ではリスクや法整備の不透明性から挑戦しづらい領域」への挑戦といったものもあるようです。
本田技研発のマイクロモビリティ事業を推進するストリーモ社では、カーブアウトした起業家が挑戦し、大企業としては将来的に進出したい市場の尖兵となりつつ、個人としては挑戦したい事業開発をアジリティのあるガバナンスで進めることができるいったものがあります。
他にも、所属元企業のガバナンスではできない事業を出向起業で挑戦しながら、所属元企業と共通した顧客課題を一体となって解決し、市場維持・拡大を目指すものなど、様々なものがあるようです。
出向起業後のキャリア例では、出向起業したスタートアップを最終的に子会社化し、起業した本人は一定の自由度を確保した状態で当該事業の経営を続けられる待遇で所属元企業に戻り、他の新規事業のメンターなどをしているケースもあるとか。
出向起業後に独立するケースでも、所属元企業と関係性を保ちながら、相互利益を生み出す例もあると言います。
大企業で挑戦を志す方へ
各講演後のQAやパネルディスカッションでは、CIC 名倉氏も加わり、「出向起業で目指すべき成功は?」「出向起業家が社内に戻った後の人事評価は?」「本当の意味で意思決定をする機会を増やすことに出向起業を通じた人材育成の意義はあるのでは?」「出向起業における知財の考え方は?」など、非常に活発かつ鋭い質問、議論が飛び交いました。
大企業で挑戦を志す方で、出向起業へ興味がある方は、一つの選択肢として、ぜひ下記から制度詳細、応募ページをご覧ください。
申請時期は、出向起業特設サイトのほか、JISSUIの公式サイト、公式Twitter、公式Facebookでお知らせしています。
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