IoTベンチャーと製造業を繋ぐ、NTTドコモの『39works』
39Meister事業を通じて目指していること
「39Meister」とは、NTTドコモの社内起業制度を活用して立ち上げたプロジェクトです。アメリカ・シリコンバレー発のベンチャーは、モノづくりを日本を飛び越えて中国・深センに発注してしまっています。
こうした現状を変えるべく、ベンチャーが日本の製造業に対してどんどん発注していけるようなシステムをつくりたいと思ったことが、事業立ち上げの発端です。
ベンチャーはモノづくりのイロハすら知らないケースが多いため、アイデアを形にしていくうえで、どういうプロセスやパートナーが必要になるのかが分かりません。一方で、製造業の人たちにとってもベンチャーの世界、IoTの世界はよく分からない。
当初は「お互いに必要としているのだから、引き合わせれば化学反応が起きるはず」と考え、製造業とベンチャーのマッチングを実施していましたが、当事者任せではうまくいかないんですね。
失敗からこの点を学び、現在は、私たちがベンチャーからワンストップで事業を受託し、製造業の方には、私たちの方から発注するという形で対応しています。
ベンチャーと製造業の間でクッション役を果たす
製造業においては、発注側が仕様や設計図を具体的に提示し、それをもとに製品の詳細や価格、納期を詰めていくというのが通常の流れです。
一方のベンチャーは、熱意やアイデア、よくて機能検証用のプロトタイプだけがある状態で、本来折衝のたたき台にすべき設計図は用意できていません。このような状態から「プロとして相談に乗ってください」ともちかけられても、製造業側はどう対応していいか分からない。
ベンチャーにしてみれば「モノづくりのことが分からないから頼ってきたのに」となってしまう。このため両社が直接やりとりすると、「プロなのになんで教えてくれないのか」「最低限必要な労力も払わずに教えろ・助けろとはなにごとか」という衝突が起きやすいのです。
そこで、我々のような存在が必要になるわけです。ベンチャーからの相談や質問をいったん私たちが受け止め、工場に伝える質問の数や内容をフィルターにかけるわけです。
先述のとおり、初期段階のベンチャーの場合「あるのはアイデアだけです」といいながら相談にいらっしゃることも多い。例えば、アイデアが10個くらいあって、すべての機能を1つのプロダクトに盛り込みたいという相談を受けたとします。
ここでホワイトボードに書き出しながら、ベンチャーにとってのクライアントが本当に全機能を欲していらっしゃるのか突き詰めていくと、余計な要素がたくさん含まれていることが明らかになったりします。
本当に実現させたいことが絞られてくることで、あるべき製品像が割り出されるわけです。つまり、ベンチャー側には、製造業に相談を持ち掛けるまでに済ませておくべきプロセスがあるということですね。
人対人であることを大切にし、チームとして成功を目指す
以前、モノをつくりたいというIT企業と、町工場のマッチングをお手伝いし、うまくいったケースがあります。このケースでIT企業側は、例によってホワイトボードに要素を書き出したようなレベルのアイデアしか有していませんでした。
しかし製造側が、製品を通じて何を実現させたいのか、ユーザーとして想定されるお客様像などをヒアリングして、具体像を固めていったのです。
さらには設計図を起こし、図面で確認をとっていました。IT企業は、サイズや形状を数値で聞かれても妥当かどうか判断できませんが、図面で見せられれば感覚的に「小さくしてほしい」「大きくしてほしい」などと答えられる。
この点を熟知した上で、製造側がうまくリードしたわけです。
IT企業側にとってはもちろん理想的な対応だったわけですが、製造側にとっては過負荷になりかねません。私たちは、このような関係がなぜ成立したのか、その要因を探りました。
実は両社とも無自覚だったのですが、原動力になったと考えられるのが、当初段階でのIT企業側から製造側に対する説明です。「なぜこのデバイスをつくりたいのか?」「この製品があると、自社や社会にどのような変化がもたらされるのか」といった部分を、熱意をもって説明していたのです。
あたかも投資のピッチをするようにです。これが、製造側の人々の共感を得たわけです。自分たちのモノづくりに関する知見やノウハウで、なんとか目指すところを実現させてやろうじゃないかという気持ちを引き出せたのでしょう。
私たちは、この事例から、モノをつくる理由を早い段階で製造業の方に説明し、共感を得ておくというプロセスが非常に重要なのだと結論づけました。
逆に、こうした説明を省き「お金を払うんだから頼んだとおりにつくってくれればいい」という姿勢で臨んでしまうベンチャーも少なくないように思います。製造業からすれば、余計な負荷やリスクを抱えかねない話なのに、これでは……となってしまいますよね。
さらにいえば、製造業の方々は、自分たちのつくったモノがどのように受け入れられたのか、それによってパートナーの事業がどう成長できたのかなども知りたいものです。
これが大手企業との仕事だと、守秘義務があったり、そもそも発注先に成果を共有するという文化が無いので、自分たちの成果がどう役に立ったのかが分かりません。
しかし、ベンチャーとの案件で、そこまでがんじがらめにする必要はないですよね。先に紹介した事例でもIT企業側は、展示会での評判や反響、多くの人から意見をもらえたことで見つかった新たな改善課題などをフィードバックしたそうです。
当然、製造側は、自分たちの仕事が本当に困っているベンチャーにとって役に立ったのだと実感でき、「やって良かった」となります。こうした成功体験によって、別案件が発生した際の可能性も広がりますよね。
つまり、契約上は受注者・発注者の関係でも、ひとつのプロジェクトに一緒に臨んでいるチームという雰囲気を醸成していけるかどうかが、ベンチャーに求められる重要な資質のひとつだといえます。
日本をモノづくりで再び輝かせるために、支援事業者の更なる連携を
もちろん、我々だけですべてをカバーできるわけではありませんから、モノづくりを支援するプレーヤーにもどんどん増えて欲しいと思っています。
また、支援事業を通じて得た知見やノウハウは、全部オープンにしていく必要があると思いますね。多種多様なプレーヤーに、公開されたノウハウを参考にして新たな事業を組み立てていってもらいたいですし、ひいては生み出した事業を大きくしていってもらいたい。日本がモノづくりで再び輝きを取り戻すためには、さまざまな垣根を超え、異業種の方が一緒に活動していくことが大事だと思いますね。
初期はバラバラだったとしても、最後はどこかで繋がって一緒にやっていく。各事業者が強みや弱みを補完し合うような仕組みを、国がリードしていくといった大きな絵も必要じゃないかと思いますね。
私見ですが、日本には、単品のモノやサービスをつくることよりも、エコシステムをつくることが得意なベンチャーが多い気がしています。IT機器で情報を集めるという仕組みだけでなく、集めた情報を広告業界や流通業界で活用する方法まで視野に入れるような感じですね。
我々の力不足もあって、最後に資金不足などお金の問題になってしまうと、頓挫しがちですが、きちんとネットワークをつくって支援するような仕組みがあれば、世界をリードするビッグビジネスに育つかもしれない。
先ほど、多くの事業者さんの参入が必要だといいましたが、ベンチャーの良さをみんながシェアし、どんどん集積し大きくしていくような仕組みが必要だと思いますね。それがまさに「Startup Factory構築事業」ではないかと期待しているところです。
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