【イベントレポート】スタートアップで力を発揮するためのヒント
短期的な転職ではなく中長期的なキャリア形成の場として、スタートアップにチャレンジする人を増やすことを目的に開設されたCareer Academy。2021年11月12日(金)に開催された第6回講義の模様をご紹介します。(前回レポートはこちら)
登壇者の紹介
―― 金沢 それでは、登壇者の自己紹介からお願いいたします。
佐藤 ACALL株式会社の佐藤です。ACALLはWorkstyleOSやワークスタイルをDXするという働き方改革の一丁目一番地に取り組む企業でして、ウェルビーイングやSDGs等、2030年だけでなく今後の30年後を見据えた持続可能な事業として、働き方改革へのチャレンジを続けています。私自身のキャリアとしては大企業勤務が多く、スタートアップはACALLが初めてです。そんな人間がスタートアップで毎日どのようにもがいているかのお話をさせていただきます。
高橋 Baseconnect株式会社の高橋です。Baseconnectは人が何かを知りたい、調べたいという欲求に対して、世界中のデータを繋げることで、ダイレクトに必要な情報にアクセスできる世界を作ることを目的とした会社です。直近では『Musubu』という法人営業を支援する企業情報のデータベースサービスに注力しています。私自身のキャリアとして、新卒は大手消費財メーカーにて商品企画・開発を担った後、メガベンチャー、コンサルティング会社を経て、スタートアップの世界に転職しました。大企業時代に培ったスキルや経験がスタートアップにも活きるという実感を持っておりまして、そんな観点でのお話もできたらと考えております。
内村 株式会社スリーシェイクの内村です。スリーシェイクは、日本初のサイト信頼性エンジニアリング(SRE:Site Reliability Engineering)特化型コンサルティング事業として、データ連携プラットフォーム、セキュリティ脆弱性チェック、サイバーセキュリティ対策等を手掛けています。私自身のキャリアとしては、トランスコスモス(DoubleClick社)でweb広告商品企画を担当後、ブレイナ-、ヤフー、フリークアウト等を経て、組織構築やエンゲージメント施策を担当する内容に現在は従事しています。
テーマ①:スタートアップで力を発揮している人の特徴と各社の工夫
これまでのキャリアで培った基礎力を活かしつつ、新たな環境を楽しみ、順応し、歩みを止めない人が、スタートアップでも力を発揮する。
―― 金沢 それでは、最初のテーマに入らせていいただきます。現在ではいろいろな方がスタートアップでも増えてきましたが、ズバリ、スタートアップで力を発揮している人とそうでない人の違いは何でしょうか。
佐藤 発揮できる人は「過去の経験をベースに勝負する人」、発揮できない人は「過去のプライドをベースに勝負する人」ですね。前者は「歩みを止めない、常に学び続ける人」ですが、後者は「歩みを止めてしまう、過去の栄光を引きずる人」です。スタートアップに再放送はなく、高速瞬間的に対応しなくてはいけないため、必死に勉強しながら進めるしかありません。
この「歩みを止めてしまう人」についてもっと言及すると、働く姿勢は勿論のこと、服装や社内での共通用語の使い方も含めて「前職の物差しで語る人」でしょうね。スタートアップでは残念ながらそれは通用しないんですよ。
高橋 発揮できる人は「思考力や仕事の進め方等、基礎がしっかりしている人」です。特にアーリーステージ序盤までのスタートアップでは、会社全体としての優先順位が目まぐるしく変化するので、その都度必要なことをやらなくてはいけなくて、ビジネスサイドでジョインした場合、マーケターとして集客、コンテンツ作り、営業として、アポイントメント、クロージング等、かなり幅広いテーマに対応してく可能性があるので、ビジネス全般に対しての基礎がしっかりしていないと、価値がでにくいという印象を持っています。
また、「理由を深掘りできる」ことも重要です。新しい環境では、これまでの自身の経験とは違った事が数多く行われているので、自分のやり方が正しいと思い過ぎても良くないし、周りの様子を見過ぎても良くないのですが、今働くこの場がどうしてこのやり方になっているのかを自分で深掘りして、最適な行動を選択できることも大事です。
逆に発揮できない人の例として、前職でキャラクターも含めてメンバーから信頼が厚くマネジメントが上手くいっていたタイプの人材が、自分には汎用的なマネジメントスキルがあると思ったままスタートアップにきて、いきなりマネジメントで価値を出そうとしてしまい、力を発揮できないケースを目にします。非常に勿体ないと思います。どんなに過去の成果が大きかったとしても、スタートアップでは、ある一定は自ら手を動かして成果を出さないと周りから信頼されない場合が多いと思います。最悪、「実務能力ないのに、指示だけ出す人」という、周りからの文句も出てしまいますし。
内村 発揮できる人は「割り切れる人」です。スタートアップって本当に何もないんですよ。サービスにバグがある、企業ブランドではアポイントメントが取れない、営業資料もない・・・、こういった環境を楽しんだり、ゼロベースで作ったり、自身が決めたキャリアとしてやり切れる人が、発揮できる人です。会社や経営者への愛を持てるかが大事ですね。
発揮できない人の例として、ヤフーからフリークアウトに転職した過去の私もそうでした。ヤフーは企業ブランドの高さもあり、営業がものすごく楽だったり(お客様から会いたいという声掛けも多数)、毎年一定の売上をあげることもできて自分自身がまさに、「プライドが高い状態」でした。ただ、物が揃っていることが前提になっているため、フリークアウトに転職後、サービスにバグが見つかったらそのプロダクト・サービスへの愛がなくなってしまったり、ヤフー時代と何かと比較してしまっていたことが自分自身の反省です。
―― 金沢 3名からお話いただいた「発揮できる人」に共通点があることに面白さを感じました。では、このような「発揮できる人」は、実際にはどのくらいいるのでしょうか。
内村 即戦略人材は5名採用して1名いるかどうか、ですね。半年後・数年後に発揮できる人になる人材は比較的多くいらっしゃいますが。
高橋 採用方針にもよりますが、結論10名中3名が「発揮できる人」というイメージです。
佐藤 10名と面接して、そのうち3名を採用して、さらにそのうちの1名が即戦力、だと思います。採用した3名のうちの2名はもう少し伸びてほしい人材でして、数ヶ月後・半年後・数年後という時間軸の中で徐々にフィットしていく人材です。
密なコミュニケーションとオンボーディング。会社のHR部門にはバランサーとして、御用聞きでも押し付けでもなく、現場の補完をすることが求められる。
―― 金沢 では、スタートアップを運営する側の視点として、新入社員に活躍いただくための工夫を教えてください。
高橋 当社ではマネージャーとの1on1でのやり取りを大事にしています。現場がオンボーディングを試行錯誤してくれており、社員のタイプに合わせてオンボーディングの方法を変えるべきという意識が現場のマネージャー層に醸成されているのは良いことだと感じています。
内村 1on1の大事さは同感です。上手くいっていること、上手くいっていないこととその理由、将来のビジョンを話す時間を意識的につくることが、新入社員にとっても有意義なものです。「1on1で何を話した方が良いのか?」と質問されることが多いのですが、テーマは自由で良いと思います。プライベートの話でも良いですし。また、Slackを使って日報感覚で連絡を取り合うでも良いと思います。
佐藤 10名のうち3名を見極めるのは採用の仕事ですが、育成は別物。スタートアップは総じて育成力が弱かったり、社員は勝手に育つものだと思っているところもあります。採用した3名のうち1名は勝手に育つのかもしれませんが、残りの2名を即戦力にできるかは会社の腕の見せ所。
当社では、試用期間終了後にCEOから感謝を伝える場を設けています。まだ半年間だけの取組なのですが、CEOにとって現場やその社員をきちんと見るという意識が働きますし、耳の痛いことも含めたフィードバックをできる環境が醸成されるという点で、私自身、良い取組だと思っています。
―― 金沢 オンボーディングを現場が担うか、HR部門が担うかというお話が出ましたが、実際のところはいかがですか。
佐藤 オンボーディングというと、KPIは何にするか、期間をどの程度とするか等の話に発展しがちですが、新入社員で初めからホームランを打てる方はいないので、各社のビジネスモデルに沿った、オンボーディングや成功の定義をまずは定める必要があると思います。
内村 オンボーディングは、現場もHR部門も両方が頑張るべきです。私自身として、HRのミッションは「従業員が楽しく健康で暮らせる環境を整えること」と捉えており、新入社員へのオリエンテーション時には、このミッションを伝えた上で、「会社に違和感を持った際には気軽に相談してほしい、忙しかったとしても相談を受ける時間は絶対につくる」と伝えています。スタートアップへの転職は人によっては不幸なくらい失敗して、メンタルがやられてしまう方もいらっしゃるので、HRのこのミッションだけは貫いています。
高橋 当社では、創業時から採用を中心として人事も現場でコミットするという方針でして、チーム人事という役割が明確にあった時期もあります。現場が採用の意思決定権とオンボーディングの責任をセットで持つことで、一貫性のある動きになっている印象です。今後は、オンボーディングの役割分担を現場とHR部門で進めていく必要性も感じていますが、原則は現場のマネージャーの考えを尊重して、HR部門が過干渉することは避けるべきだと思いますね。
内村 HR部門の担当者のキャラクターは確かに大事ですね。HRから現場への働きかけを過度に頑張ってしまう方って結構いるんですよ。
佐藤 バランサーとしての立ち振る舞いが大事ですね。現場マネージャーですべてを回す組織もあればそうでない組織もある。HRはそれを見て現場の補完をどうするか、その見極めが大事になります。この考えがないと、単なる御用聞きになったり、過去の経験を現場に押し付けることにもなってしまいます。
―― 金沢 「HRとしてのコミットメントの意識」、「サポーティブなHR」等、重要なキーワードをいただいたと思います。お話に挙がった「バランサー」についてもう少し教えてください。
佐藤 HRの役割として「社員を孤独にさせない(社員と社員をつなげる)こと」があると思っています。これがないと、社員は会社との距離感を感じてしまうので。HRがその仲介役となるか、つながる相手としての立場となるかの見極めがバランサーということですね。
内村 スタートアップ志望者ってものすごく野心が大きいのですが、同時に不安も結構抱えていて、その心理的安全性をもたらすHRは大事だと思いますね。
テーマ②:転職後にスタートダッシュを切るためのポイント
会社の成長の中心として、やりたいことは何でもできる環境はある。スタートアップでは、「何をやりたいのかという意志」と「短期間で成果を出す意識」が必要。
―― 金沢 それでは、次のテーマに移ります。転職後にスタートダッシュを切るために、転職者が意識すべきポイントは何でしょうか。
佐藤 大企業だと「初めの半年が勝負」「最初のプロジェクトが終わってみないと分からないよね」と言われるのですが、スタートアップでは「初めの一か月が勝負」です。スタートアップでは、毎日ヒットを打たないといけないし、自分が稼いでこないといけません。
内村 会社の経営状況を把握する意識は大事だと思います。私自身の経験からも、会社がいつ潰れてもおかしくないという状況下で必死に稼ごうとしましたね。
スタートアップへの転職を考えている方に対しては、「この環境を楽しむことができるか。報酬は後から付いてくると割り切って行動できるか。」という点はアドバイスしたいですね。
高橋 お二人の意見に大賛成ですが、一方でアンラーン(学び直し)って結構難しいとも思っています。なので、なんでも良いので「まずは現場の顕在化している課題を一つ見つけて、それを解決し成果を作る」、そうしないと周囲も大きな変化を求める提案には耳を傾けてくれなかったりするものです。ミドル世代の転職者の中には、頑張っていきなり現場を変えようとして、まだ周囲からの信頼がない中で、大きすぎる課題に着目して中々成果を上げられなかったり、本質的に課題へアプローチしたいと考えすぎて、延々と現場へのヒアリングを続けてしまう方がいたりするのですが、もっと小さなこと・簡単なことから始めて良いのです。
また、小手先のテクニックですが、転職直後は関係性への投資だと思って朝早くから出社したり、少し長めに職場に残ることで、短期間で多くのメンバーとの会話の機会を得る、というテクニックもあります。
佐藤 スタートアップで働く感覚って、「初日から試合が始まっていて、練習試合はない。自分は何屋さんなのかわからないけれどもいろいろやっている。周りよりも多く打席に立ってバットを振る。」に近いのではないでしょうか。
―― 金沢 皆様のお話を伺うと転職者が意識すべきポイントは「意識面」で、「スキル面」のお話が出てこない印象を持ちましたが、やはり「意識面」が大事なのでしょうか。
内村 そうですね。自分で動く・調べるという意識面が大きいかもしれません。
高橋 ビジネスチャットツールを全く使ったことがないなど、基本的な社内コミュニケーションで戸惑ってしまうともったいないので、ITリテラシーでの最低限のスキルの必要性はありますが、それ以外だと意識面が大きいですね。
佐藤 「どれだけ幼少期に揺さぶられてきたか」は面談時に見るべきポイントかもしれません。私は小学生時代に3回の転校を経験したのですが、環境が一変する中で、「いかに生きていくか」という一種のサバイバル精神が自然と身に付いたのかもしれません。
内村 Googleでは「ハードな経験をしてきたか」を採用時に見ているという話もあり、それと共通しますよね。
内村 スタートアップでは、何か事業を立ち上げる、サービス戦略を考える…、考れば考えるほどなんでもできますし、会社の中心になって、「アレオレ(あれは俺がやりました)」が増えることは、まさにスタートアップならではの醍醐味ではないでしょうか。
佐藤 なんでもできる裏返しに、スタートアップでは「あなたは何をやりたいのか?」が大事になります。その意味では自分のこれまでの経験を全解放したいと感じている方向きの業態かもしれません。ただ、上手くはまれば、いろんなことをスピード感もってやれるのが良い点です。
―― 金沢 あっという間にお時間になってしまいました。最後に登壇者の皆様から一言ずついただきたいと思います。
内村 スタートアップは、大変そう・面倒くさそうという面も確かにあるのですが、毎日が刺激的で波乱万丈。経験するとハマってしまう世界観でして、自分自身がまさにそうなっています。本日の講義が皆様の参考になれば幸いです。
高橋 本日のディスカッションをさせていただく中で私自身もいろいろと考えさせられました。大企業では仕方ないね、で半分諦めていたこともあるかもしれませんが、スタートアップでは全てに口出しできる機会があります。意図せぬアサインも多いかも知れませんが、その結果として自分が変わる、新しい可能性が開けることもあります。皆様もそんなチャレンジを続けていただければと思います。
佐藤 「45歳定年制」が話題になりましたが、これは「45歳になったら自分で泳ぎなさい」なんだと私は解釈しています。スタートアップは自分で泳ぐには良い環境ですし、やったことがそのまま「作品」になります。そのような環境下に身を置きたい方には、ぜひ積極的にチャレンジしていただければと思います。
―― 金沢 本日のキャリアカデミーは以上となります。誠にありがとうございました。
今後のCareer Academyについて
Career Academyは月に2回の頻度で開催しています。次回は12月17日はエンジニアのキャリアに特化。大企業や外資系企業からスタートアップに関与する中で、活用できた知見や得られた経験などを扱う『<ロールモデルを知る>大企業からスタートアップへのキャリアパスを知ろう!~エンジニア編~』をテーマに開催いたしました。(記事はこちら)
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