【出向起業|体験談】株式会社はまさと代表取締役社長 南村 真衣
Q.これまでのキャリアについて教えてください。
新卒で島精機製作所に入社後は、主力事業であるコンピューター横編機の稼働管理ソフトの販売・導入支援をメインで担当してきました。学生時代に英語や中国語を専攻していたこともあり、主に海外のお客様の講習や現地工場での導入支援、導入後の稼働状況の確認などに従事しており、コロナ前は出張で海外に行くことも多かったです。
入社2年目の2019年後半から「社内新規事業創出プログラム」がスタートしました。当時の所属部署である経営企画部が事務局を務めており、私も約半年間事務局の運営メンバーを務める中で「自分ならこういう事業をやりたいかも。」と想像するようになりました。そこで、アイデアがまとまったタイミングで事務局メンバーを外れて、自分が応募する形で社内新規事業に挑戦しました。
私は和歌山県の有田市初島町というところ出身なのですが、この初島町には「はま(浜)」と「さと(里)」という2つの住所区画しかありません。浜では海の仕事、里では農の仕事をされている人が多く、町民全員が大なり小なり一次産業に関わっているような地域です。
新規事業として取り組むのは「農業や漁業に参入する」ということではなく、すでに地元で頑張っている方々をサポートする形でなければならないと思い、社内で企画したのが「県内一次産業PRプロジェクト」でした。
まずは販売支援をしよう、と2020年に産直プラットフォーム「5STAR MARCHE」をスタート。商品そのものからは伝わり切らない、生産者さんの取り組みやこだわり、それぞれの環境に対するアクションなどを取材し、ストーリーとしてのせあげることで、適正価格で商品を販売できる仕組みを作りました。
約2年半、運営責任者として生産者さん開拓や取材、価格の商談や受注管理・伝票発行など販売に関わる業務全般を担当し、現在に至ります。
Q.アイデアを事業化、出向起業へと行動に移された理由を教えてください。
これまで社内新規事業として販売支援の傍らで、テスト的に生産者さんの「挑戦したい」ことをお手伝いする機会がありました。例えば「東京で手売りをやってみたいけど、農家1人で行ってもなかなかきびしそうで挑戦できない」「自分ところは小規模生産者だが、一度輸出に挑戦してみたい」というような、1人では挑戦しづらい、でも一緒にやってくれる人がいるなら挑戦したいというようなことです。こういった要望に応える形で、一歩目のハードルが小さくなるようにお手伝いをする中で、「もう少し計画的にやれば、もっと売れたんじゃないか」「これをシステム化すれば、他の一次生産者さんも利用しやすいんじゃないか」といったように、「ちゃんとやれば、もっとイケるんじゃないか」という感覚がつかめたんです。
また、社内新規事業のルールとしては、あくまで本業との兼務。得意の語学を生かして海外のお客様と関われる本業も好きだったのですが、新規事業を通じて生産者さんや、行政の方々、外部の民間事業者さんとの関わりが増える中、本業のボリュームが多い時期は兼業状態では活動がしづらいなという思いもあり、社内新規事業の枠を超えてフルコミットで挑戦したい、と、今回の起業に至りました。
Q.出向起業制度の活用にあたって、社内調整はどのように進めめられたのでしょうか。
実は昨年からこの制度自体には興味を持っていましたが、当時はどのようなことを実証実験したいか、というイメージが明確にはなく断念しました。その後の取り組みを通じて方向性が明確になったタイミングで改めて、実際にやりたいことをイメージしながらこの制度についての説明を聞き、出向起業こそが今やろうとしている事業にぴったりの制度だと確信しました。その後、社内新規事業の審査会の場で、本プロジェクトを社内新規事業としてではなく、出向起業として取り組んでいきたいという想いを伝えたところ、前例はないが、そのような制度があるのなら取り組んで見てもよいのでは、と賛成を得ることができました。
賛成はいただいたものの、子会社や関係会社ではなく、新しく作った別会社に社員を出向させる流れについて、正直全員にとってイメージがしにくいところではありました。せっかく社内で育てた新規事業を、別会社として外に出すことでコントロールが効かなくなることのデメリットも懸念されていたかと思います。
そんな時、和歌山県庁職員の方が出向起業を活用されている南海電鉄さんとのミーティングをアレンジしてくださったんです。直接、制度活用実績のある南海電鉄の担当者からお話を伺い、出向契約などの相談にも乗っていただけたことで、かなり不安が払しょくされて具体的に進めることができました。
Q.出向起業への応募に対して、周囲の方の反応はいかがでしたか。
社内で新規事業として県内一次生産者の販売支援プロジェクトをスタートした時から、取り組み自体をすごく応援していただいています。生産者である農業や漁業をやっている家族や知り合いをご紹介をいただいたり、実際にサイトを利用した感想や意見を寄せていただいたりと、社員の皆さんが積極的に関わってくれています。また、私が出向起業に挑戦をすることがきっかけで、「社内新規事業にも興味を持った」と言っていただけることも増えました。
家族や友人も、私の挑戦をすごく喜んでくれていますし、私の取り組みにとって特に身近な地域の生産者さんたちからも今回の起業に対して、ポジティブに「これからもっと、面白いことができそうですね!」「本気で取り組んでくれて嬉しい」と喜んでくださいました。
地元企業である島精機製作所の新規事業としてこれまで信頼を寄せていただいていた方々は、別会社になっても契約を継続してくれるのか…という不安が少なからずありましたが、いざご報告をすると「法人化するなら手伝いたい」「いくらか出資したい」と言って下さる生産者さんも…。
プロジェクトをスタートしてから2年半、個人としても地域の生産者さんときちんとと良い関係を築けていたんだな、ということを感じることができて嬉しかったです。
Q.まず実現したいこと、目標やビジョンがあれば教えてください。
まず着手するのは地元生産者のもつ資源(生産の中で出る副産物などの素材や、農産品の加工機械など)を活用して取り組む、アップサイクル商品の企画・開発です。
今まで物売りの支援を行ってきましたが、「株式会社はまさと」として、実際にモノを企画・製造・販売という経験を積むことで、外部業者との関わりや販路の広げ方、売り先のつくり方などのさまざまな学びが得られる。こうした学びは販売支援の活動にも生かすことができ、その後取り組みたい輸出やCSAの取り組みにもつなげていけると思いますので、まずはアップサイクル商品の企画・販売を開始して1つオリジナル商品を作ることができれば、他の生産者さんからも新たなアイデアが生まれ、次の商品企画のアイデアにつながると思っています。
5STAR MARCHEにご参加いただいたことがきっかけで、他の生産者さんの取り組みを知り、刺激になったという声を多くの生産者さんからいただいています。当社の取り組み、何かを始めることが県内生産者さんの創造意欲を掻き立てるような形でつながっていけば嬉しいです。
Q.出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。
今回、出向起業への挑戦を決めたことで、今のプロジェクトが行っている範囲から一気に今後の活動範囲を広げていくこと、本事業にフルコミットし、とにかくスピード感をもって、やれることは何でもやってみようという意思が固まりました。
分かりやすく見えやすい、表面的な「いいこと」を続けるのではなく、生産者さんと一緒に成功していくために何ができるか。出向後も、生産地を訪問するということを大切にしつつ、本当に地元一次産業にとって「おもしろい」「楽しい」ことを生産者さんと共に、進めていければと思っています。事務所の所在地を和歌山市内ではなく、生産者さんとより距離の近い地元、初島町に置いたのもそのためです。
今後の和歌山県の一次産業の発展に期待してください!
株式会社はまさと代表取締役社長 南村 真衣
「「新」一次産業課題解決にむけた地元共創実証事業 」について
出向起業では、社内新規事業で取り組んできた「販売支援」から一歩広げて、新たな一次産業課題の解決を目指したいと考えています。
具体的には、副産物を活用した「アップサイクル商品の開発」や、小規模生産者むけの輸出支援、地域の企業が地元の一次産業を支える、企業支援型CSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)の仕組み構築などを検討しています。
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