【イベントレポート】「Venture café Tokyo」にて、ものづくりスタートアップ関連イベントを開催しました J-Startup Hour #43~「ハードウェアスタートアップの資金調達と投資事情」~
Venture caféTokyoでは、J-startupを始めとする先進的な取組を行うスタートアップのコミュニティ作り・情報交換を促すイベントとして、”J-startuphour”が開催されています。
今回はハードウェアスタートアップ特集として、「ハードウェアスタートアップの資金調達と投資事情」について、ものづくりスタートアップ、ベンチャーキャピタルが事例を踏まえてディスカッション頂きました。
事業紹介
ANRI 3号投資事業有限責任組合
2012年5月に佐俣アンリ氏が立ち上げた、独立系ベンチャーキャピタル。設立以来、インターネット・ハイテクノロジー領域100社以上に投資を実行しており、シードファンドとして日本最大規模となる100億円規模のファンドを運営。
2019年6月、渋谷にインキュベーション施設「Good morning building by anri」を正式オープン。起業家同士が高め合い、未来を共創するコミュニティづくりも進めている。
株式会社Genics
2018年4月に創業者の大学所属研究室での研究成果をもとに起業したロボティックスベンチャー。ロボット技術を応用した製品で人々の豊かな生活をサポートすることを理念としている。
ANRIからシード期に出資を受け、「次世代型全自動歯ブラシ」の開発・製造を始動。2019年6月、経済産業省事業「ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業」に採択され、量産化に向けた試作を進めている。
当日の講演はこちらの動画でご覧いただけます
自己紹介
―― 中間 まずは簡単に自己紹介をいただけますでしょうか。
鮫島 こんばんは。僕はベンチャーキャピタルのANRIで、主に大学発スタートアップへの投資を担当している鮫島といいます。ANRIはハードウェアに特化したベンチャーキャピタルというわけではないですが、ライフサイエンス・ロボティクス、IoTなどハードウェア要素を含む領域も幅広く投資をしていまして、栄田君のGenicsにも初期に投資させて頂いて、色々とサポートしています。今日は、宜しくお願いします。
栄田 こんばんは、genicsの栄田と申します。現在早稲田大学先進理工学研究科の博士課程に在籍しており、ロボティクスが専門の研究室で研究をしています。修士から進めてきた研究を、製品化しよと思うとやはり大学だけでは難しくて。製品化までして、ロボット技術をもっと人々の生活に入れていきたいな、という思いで、Genicsを起業しました。
今は主に何をやっているかというと、全自動歯磨きロボットを作っています。みなさん毎日歯磨きしていますか?面倒くさくないですか?(笑)もともと自分も面倒くさいと思ったことから始めました。実は、そういったニーズ以外にも、介護施設など歯磨きに関するニーズはたくさんあって。今年の1月にプロトタイプをCESに出展して以来、色んな方からお問い合わせえを受けています。
HWスタートアップ(特にシード期)にとっての資金調達の難しさ
―― 中間 さっそくですが、HWゆえの資金調達の難しさって、どういったところにありますか?
栄田 プロトタイプがないと資金調達ができないところですね。何をもってプロトタイプと定義するかは難しいですが、完全に「無」の状態だと、その段階での調達はほぼありえないと思っています。
僕たちが運よかったのは、大学発スタートアップなので、「研究費」という形で初期の試作費用が賄えました。色々な研究費に応募して、採択されて、試作改良を進めて、というのをどんどん繰り返していって。その採択していただいた研究費の発表会で運良く鮫島さんにお会いして、興味を持って頂いて、出資いただいたっていうのがGenicsの資金調達の流れになります。
―― 中間 今までその製品を形にするまで、何回くらいプロトタイプを作られてきたましたか。
栄田 ゼロベースから作るとなると、10回くらい作り変えています。今は、3Dプリンタがあるので、形状等も細かく改良しています。新しいモノを作るとなると、世の中にないものを作ることになるので、検証等も含めて色んなことをやらなければいけません。
みなさんも毎日歯磨きすると思いますが、どのように歯を磨くか、恐らく正確に教えてもらったことないと思います。実はどういった磨き方が正しいかを判断できる人は世の中にはほぼいないので、手磨きの動きを機械に置き換えて、定量的に数値で測って、自分たちの感覚で、どんどん作り変えています。
―― 中間 どのタイミングのプロトタイプで、資金調達の話が始まりましたか。
栄田 4~5回くらい作ってからです。開発期間は1年半です。
―― 中間 資金調達にあたっては、プロトタイプを使ってどのように説明していくのがポイントでしょうか。
栄田 まずは、世の中に「無い」ものを「有る」ものとして見せることが、最初のポイントかと思います。
次の段階として、「有る」ものをどういう形にして市場投入するか、が次のポイントです。今はまさにGenicsはその段階で、プロトタイプを使った実証実験をして、世の中に有益なものになっているか、人々がどういう風に感じるか、などと色々と検証を行っているところです。
―― 中間 シード期の資金調達と、これから量産期の資金調達では、難しさは違いますか?
栄田 シード期はもう「あっ、これは世の中を変えるかもしれない」という、ある種「夢」みたいなものを見せていく部分があります。一方、量産期に入ると、大量に金型等も作るとなると、一気に資金が数千万円以上必要になります。実証実験を進めて製品の改良を進めていくうえで、「ここまで達成したら絶対に買ってもらえる」というポイントを見極めるのが次の難しさだと思っています。
VCにとっての、HWスタートアップ(特にシード期)への投資の難しさ それでも投資をする理由
―― 中間 anriさんがGenicsさんに出資した際の、その出会いやきっかけをお話し頂けますか。
鮫島 栄田君とお会いする半年前くらいですかね。2017年頃、Amabrushという米国スタートアップが、キックスターターで1分間で自動で歯が磨けるというコンセプト動画を出して、目標金額の60倍である3~4億円の調達を達成した。ただこれもよくある話ですが、最終的にハードウェアが出来上がらなかったんです。
僕らはそれらをみていて、オーラルケアへのニーズは結構あるんじゃないかなと感じていました。栄田君のサービスを見た時に、ハードウェア自体のニーズがあるのだろうなっていうのと、唾液分析や歯の矯正など、プラスアルファのビジネス展開ができると面白いなと思いました。
当時栄田君はまだ早稲田大学の院生だったので、本当にこの人がビジネスできるのかは、未知数でしたが。「SXSWに行くけど、栄田君どうする」って聞いたら、すぐ「行きますっ」て即決して身一つで乗り込んできたので、気合はいっていることを感じたから、栄田くんにかけてみたいと思いました。
―― 中間 その時点では技術や市場というより、社長となる『ヒト』が決め手だったと。
鮫島 よく言われていますがシード期のほうが、より「ヒト」の比重が高く見極めて、後半は市場や製品について定量的な見極めが多いですね。
VCがHWスタートアップに投資する際の基準、ポイント
―― 中間 ハードウェアスタートアップへの投資リスクは高いという声が聞こえてくるが、それでもハードに投資する意義・理由はどこにありますか。
鮫島 もちろんソフトの方が投資対効果は良いのですが、ソフトの領域が成り立っているのは、ハードウェアがあってこそ。インターフェースとしてのハードの必要性が今後増してくるのは疑いようがないです。そこに対して、日本はちゃんと技術があるしスタートアップも出てきているから、ハードウェアでも勝負しないといけないと思っています。
そこでちょっと問題だなと思うのは、ひとつの失敗をあまりに大きく取り上げすぎる日本の風潮ですね。1社の事例だけで、「ハードはやはり駄目だ」といった論調がでてくるのはおかしいですよ。それこそアメリカの有名なスタートアップ(Rethikn Robotics、Anki等)ですら倒産する状況なので、それは常に想定されること。まずハードとソフト関係なく、ひるまず挑戦してほしいです。
―― 中間 大企業の新規事業の方向けに、スタートアップと協業するうえでのポイントをお伺いできますか。
鮫島 一つ目は、スタートアップのスピード感に合わせて意志決定をして欲しいという点です。よくあることですが、大企業との打ち合わせに、担当者が5~6人いらっしゃるが、意思決定権を持つ方がその中にいないことが多い。また、その打ち合わせも、何を検討して、いつまでに返答するかを、スタートアップに伝えないまま終わってしまうことも多い。
私も以前は日本の商社で働いてましたので、大企業の事情は理解していますが、本当にスタートアップと組みたいなら、意思決定権がある人が直接いかないとだめだと思います。
二つ目は、販路開拓・流通網構築の支援をして欲しいという点です。スタートアップにとって、この2つは自社で行うのは非常にハードルが高い、特にハードウェアスタートアップの場合、いいものが出来たあとに、最終的に届けるまでの物流とかアフターとかのサービスを支援いただけると投資よりも圧倒的に助かります。
栄田 調達も助かりますね。例えばバッテリーの調達などが今は困っていて、自分達で探せる範囲では仕様に合うものが見つけられず、またどの仕様が必要かも探り探り。そういった部分の技術的支援や調達先の紹介などで支援いただけると嬉しいなと思います。
HWスタートアップにとっての、資金調達と採用の関係
―― 中間 ハードウェアスタートアップ共通の課題として、採用面の難しさをお伺いしたいです。
鮫島 ハードウェアエンジニアは、最初の一年間は全く人が見つからなかったですね。なぜかというと、ハードウェアエンジニアは殆どが大手に入ってしまっている。
ヒト型ロボットを作りたいとか、空飛ぶ車を作りたいとか。そういうのだと分かり易いんですが、歯磨きっていうテーマがニッチじゃないですか。なので、世界を変えるんだっていうのをみんなに説きながら、集めていかないといけないところが難しいですね。
―― 中間 ANRIさんでは、採用についてはどのような支援をしますか
鮫島 他のハードウェアスタートアップにも支援しているので、そこの社長を紹介しつつ、いい人がいれば、人づてで紹介。また、ハードウェアに特化した人材エージェントを紹介したりもしています。
―― 中間 どういう属性の人を採用してきましたか
栄田 スタートアップとして欲しいのは、量産化までの経験のある方ですね。ただスタートアップとして、そこまで高いお金を継続しては払えないので30~40代の方が大手を辞めて来るのは結構ハードルが高い。そうすると、ある程度高齢の、いわゆる役職定年のタイミングの方で、量産化の経験がある方を採用させていただきました。
―― 中間 30代~40代のエンジニアは市場にでてこないですか。
鮫島 市場にでてこないのもあるが、最近の製造業の会社は相当分業化しすぎてしまっていて、30代の方よりも、かつて分業化される前のシニアの方が、モノがつくれるという点もありますね。
あとは、最近は大手に入らず、卒業してそのままスタートアップに行くというルートも増えてきている。
栄田 うちには5~6人の学生アルバイトがいるんですが、コンビニのアルバイトよりも、勉強になるということで、興味を持って手伝ってくれています。今時の学生は、飲み込みも早いですし、実は結構モノもつくれる。大学発スタートアップは意外と身近の学生を巻き込むのが良いかもしれません。
ソフトとハードの融合に向けた経済産業省政策
Startup Factory構築事業は、ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業として、スタートアップとスタートアップファクトリーの連携事例の創出・試作補助を行っております。創出された事例を調査することで、Startup Factory構築事業にて作成した契約ガイドライン、ケーススタディを更新していくことを予定しています。
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