【林業×異分野】国土の7割を占める森林の”価値”を開拓する『新規事業開発ガイドライン』
森林は、国土の3分の2(林野庁の統計を参照)を占め、防災、治水、生物多様性など、多面的な機能を持ち、文字通り日本を支える重要な資源です。しかし、林業従事者数の減少・高齢化などを背景として、今後異分野の新しいアイデア・技術等を導入・活用していく取組が重要視されています。
本記事では、林野庁の実証事業で『林業×異分野』による新事業開発を行い、植林・育林専門ベンチャーも創業している中間 康介から、そこで得られた知見をまとめたガイドラインの解説と紹介をいたします。
林業関係者で新規事業を検討されている方はもちろん、普段は森林と縁の無い異分野の方にこそ、ご一読頂けたら幸いです。
森林・林業の分野って、外からは分かり難い
初めまして、中間と申します。私はいま、『一般社団法人社会実装推進センター(通称:JISSUI)』という団体の代表理事を務めつつ、『(株)GREEN FORESTERS』の取締役として植林・育林専門ベンチャーの立ち上げに携わっています。
大学時代に林学を専攻して修了したあとは一度林業の世界から離れ、ビジネス・事業開発の世界に飛び込みました。
それから10年余りが経ち、ひょんなことから林野庁の新規事業政策の事務局に携わる機会を得て、森林・林業分野に戻ってきました。
この業界の中と外の両方を見てきた立場として改めて思ったのは、「やっぱり森林・林業分野って分かり難い!」ということ。
オープンな情報は(近年色々と取り組んでいるとはいえ)他産業と比べて圧倒的に少ない状況です。その上、複雑な商流や地域性については一度中に入り込まなければ分からないものが多く、非常に参入障壁が高い業界だな…と再確認させられました。
森林を活用した価値の生み方には”パターン”がある
林野庁の新規事業政策の事務局には、3年ほど携わってきました。
その中で見えてきたのは、森林活用には『価値の生み方のパターン』が存在することです。その裏返しとして、色んな方がそうしたことを意識せずに手探りで取り組むことで同じ失敗を繰り返しているようにも見えました。
『価値の生み方のパターン』は、最初に大きく『付加価値創出型(売上アップ)』と『業務効率化型(コストダウン)』の2つに分けられます。そこから、さらに幾つかのパターンに分岐していきます。
【4パターン】付加価値創出型(売上アップ)
異分野人材が新たな価値を創出する「付加価値型」は、4つの型に細分化できます。それぞれ概要を説明していきます。
森林コンテンツ活用型
森林に関する情報・素材をコンテンツ化することにより、森や地方への興味を喚起するもの。
単発のイベント・セミナーではなく、継続的にコンテンツを生成・発信し続けられる仕組みとビジネスモデルを有する事業を想定。
森林フィールド活用型
“森林を活用したい”ユーザーに対して、ニーズに合った森林フィールドに整備・マッチングしていくもの。
1箇所の森林フィールドの活用に留まらず、他地域や多用途への展開可能性を有する事業を想定。
未利用素材活用型
森林に存在する未利用素材を活用して、新たな高付加価値商品に転換させる事業。
バイオマス・燃料といった低単価で大量に消費するものではなく、最終製品側のニーズを捉えた、高価格帯で売れる商品企画を有する事業を想定。
木材機能改良型
木材に物理的・化学的処理を施すことで、高機能化した素材として展開する事業。
当該処理に必要な機器・プロセスの提供のみに留まらず、実際に木材商品として販売・提供していく事業を想定。
【2パターン】業務効率化型(コストダウン)
現場の本質的な課題を理解している事業者が異文化技術を活用して業務を効率化する「効率化型」は、2つの型に細分化できます。それぞれ概要を説明していきます。
機械化・システム化
既存の業務を機械・機器・ITシステム等に置き換えることにより、作業の能率向上、品質向上、安全性向上、標準化等を図るもの。
機械・機器・ITシステム等の研究開発事業ではなく、プロトタイプや現行品による現場実証を通じて、使い方を検討しながら機械・システムをアップデートしていく取組みを想定。
抜本改革・業務改革型
既存の業務を大幅に削減する、廃止するなど、特定の技術やシステム等を活用することで抜本的に業務のあり方を変えるもの。
単なる制度改革を訴えるものではなく、具体的な実証事業等を通じて、既存業務との代替性を証明しようとする取組みを想定。
パターン毎に連携すべきプレイヤーも異なる
パターンに分けて整理を進める中で分かったことは、パターン毎に、相性の良い森林・林業プレイヤーも異なるという点です。
相性の良し悪しは、大きく分けて機械化等を進めて標準的な業務を進める「大きな林業」と、小規模だが多角な業務を営む「小さな林業」の2つに分かれます。
例えば、業務効率化のツールを数名で活動している「小さな林業」のプレイヤーに提供しても、投資対効果が出にくいです。
他方、付加価値アップの活動を機械化・標準化された「大きな林業」に持っていっても、対応しにくいことが多いです。
異分野からの新規参入者は、このプレイヤーの性質の違いが分かるほど業界について詳しく知ることは難しいでしょう。ヒアリングすべき相手、適切な実証パートナーを選べず、結果として参入を断念するケースも多いなと個人的に感じています。
林野庁実証事業の事務局として、パターン毎の課題と事例をまとめてみた!
森林・林業分野の課題は根深く、もはや業界内のプレイヤーだけでは解決できない状況にまで来ています。
もっと多くの異分野から森林・林業分野への参入を促していくには、同じ失敗をさせないためにも、ちゃんとパターンを整理して、適切なアプローチに関する情報発信が必要だと考えました。
そこで、3年間に渡って実証事業の事務局として伴走してきた、17件の新規参入者の取組と成果を取り纏めたガイドラインを公開しました!
このガイドラインでは、前述のパターン毎に、ビジネスモデルの概説、課題、そしてその課題を解決している事例を紹介しています。
森林・林業分野への参入を検討されている異分野事業者のみなさん、または、異分野事業者と連携して課題解決を図りたい森林・林業関連事業者のみなさん、ぜひぜひ、一度本ガイドラインを読んでいただけたら嬉しいです!
オープンイノベーションで森林林業の課題解決を進めるうえで、何かのヒントになれば幸いです!
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