【出向起業|体験談】株式会社レジリエンスラボ 取締役COO 伊東 未来/代表取締役CEO 沖山 雅彦
明電舎のBCPを構築するプロジェクトチームが、燃料備蓄のシェアリングサービスを企画
―― まずは事業の概要をお伺いできますか。
伊東 日本は地震・風水害等の発生が多い災害大国です。首都直下地震や南海トラフ地震が切迫してきているなか、災害時における事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の重要性は高まってきています。
特に⻑期停電が発⽣すると、多くの自治体・事業者では業務・事業の継続が困難になります。この対策としてバックアップ電源の配備が必要ですが、中小規模の事業者はなかなかそこに向けてコストをかけることができていません。本事業では、長期停電対応に必要な燃料や非常用電源の備えを、多くの事業者でシェアリングすることで、1社あたりの負担額を削減できるサービスの提供を進めていきます。
―― どういった経緯で、この事業の立ち上げに至ったのでしょうか。
伊東 共同経営者の沖山と私は、出向元である明電舎のBCPを構築するチームのメンバーだったんです。沖山は日立物流にてBCPを構築したスペシャリストであり、4年前にBCP策定のために明電舎に入社しました。私は総務などのバックオフィス部門のキャリアだったのですが、BCPのプロジェクトが立ち上がり、チームで明電舎のBCP構築を進めていました。
沖山 前職は物流会社だったので、BCPにおいて燃料備蓄が重要でした。そこで燃料備蓄スキームを構築したのですが、何も起きなくてもかなりのコストを年間計上しなければなりません。これは資本力がある会社ならできても、中小企業にはできないなという課題感を持っていました。そんな中、社内の新規事業プログラムの公募があり、かつてより感じていた燃料備蓄に対する課題を解決し、災害に強い社会づくりに貢献したいという想いで、伊東さんと一緒に応募しました。
―― シェアリングという発想はどこからきたのでしょうか。
沖山 重要なのは、BCPは1社では完結しないということです。例えば明電舎は製造業ですが、自分の会社だけが被害や停電を免れたとしても、部品を作ってもらっている工場や製品を運ぶ運送会社など、様々な取引先が機能しなければ、事業継続はできません。自社の事業継続には、中小企業も含めたサプライチェーン全体のBCPが必要であり、1社あたりのコストを下げるシェアリングという発想に至りました。
多くの関係者を巻き込む必要がある事業。自分の判断で外部にアプローチできる出向起業のスキームを選択
―― 社内の新規事業プログラムではどのように進めてこられたのでしょうか。
伊東 約400件の応募から30件ほどの検討テーマの一つに選ばれました。社内予算をつけてもらい、自社のBCP構築の業務と並行して、BCPチャージについても検討していました。
ただ、どちらかというと技術開発テーマが中心のプログラムであったため、我々の事業案は、サービス寄りで、かつバックオフィス部門からの応募だったので、その中では少し異質でした。ヒアリングや市場調査などはできるのですが、それ以上に踏み込んで情報発信や仮説に対する実証などをする場合、社内のルールが無くて関係者の調整に時間がかかったり、自分たちの意思決定で進められなかったり、なかなか思い切った取り組みができていませんでした。
―― そこで、出向起業というスキームの選択に至ったのですね。外に出てみてどのように感じますか。
伊東 実際の市場に出て思い切った挑戦をしたいと考えていたところ、出向起業制度についての新聞記事を見かけて、経済産業省に問合せたのが1年ほど前です。そこから、会社を作って出向するところまで調整して、2021年10月からフルコミットでBCPチャージの事業開発に取り組める体制になりました。
まだ始めたばかりで、未熟ではあるのですが、何より重要なことを自分達で考えて決められる環境にあることが非常に大きいなと感じています。
沖山 BCPチャージは、様々な事業者と連携して進める必要があるため、対外的なアプローチが自由にできるようになったことは大きいですね。早速、保険会社、燃料事業者、リース会社等と連携して、顧客開拓と燃料供給スキームの構築を進めているところです。
―― 事業に対する反応はいかがでしょうか。
伊東 現状ですと、中小事業者の中でも、病院や介護施設など、人の命や安全に直接大きく関わる事業者から良い反応をいただいています。例えば、民間の透析病院では、電気の有無は、患者の生命に関わります。でも、一組織で非常用発電機やそれを動かす燃料を確保しようと思うと、価格や運用面の問題から難しく、なかなか対策が進んでいないという現状があります。これらの課題に対し、具体的なニーズをお伺いし、解決に繋がるサービスを開発していきます。
長い構想期間から、やっと実践できる場に。2022年4月のトライアル開始を目指す
―― 今後はどのように事業を展開していく予定でしょうか
伊東 当面は、顧客ヒアリングと備蓄アイテム選定、災害時供給フロー策定などを行い、2022年4月からテストユーザーによるトライアルを開始したいと思っています。
沖山 スタートは、災害時の電源供給のための燃料備蓄をシェアリングするサービスですが、蓄電池自体の技術進歩は目覚ましいものがあるので、蓄電池自体のシェアリングやEVを絡めた電源供給など、電気の供給をあらゆる方法でシェアリングし、BCPにかかるコストを低減していければと考えています。
―― 伊東さんと沖山さん、バランスが取れていてよいチームですね。
沖山 BCPを専門的に行ってきた私と、明電舎のカルチャーも分かったうえで実務をコツコツと行ってきた伊東さん。年の差があって個性も違うコンビですが、こういうチームだからこそ社内のBCP構築も進められましたし、BCPチャージの取り組みも上手く進められるのではと思います。
―― 最後に、出向起業にあたっての意気込みをお聞かせください。
沖山 今までやっていないことをやるということで、これからの挑戦が非常に楽しみで、日々新鮮です。BCPに限った話ではないですが、SDGsもESGも、会社としてキャッチフレーズだけでなく行動に移す部分を体現していきたいと思います。
伊東 出向起業という選択肢を取り、外に出てチャレンジできる機会を得られていることは、非常に恵まれていると思います。できるできないを頭の中だけで考えて悶々としていた期間が長かったので、実践して試せる舞台に立てたことがとても嬉しいです。とにかく行動して、仮説検証して、このチャンスを最大限活かして頑張っていきたいです。
伊東 未来(いとう みく)氏
株式会社明電舎入社後、全社および生産拠点の環境管理業務を経て、防災・BCP(事業継続計画)の推進を担当。
BCPに関する体制構築から運用までを経験したのち、2021年8月に企業・組織の防災・BCP対策を支援する株式会社レジリエンスラボを設立。防災士
沖山 雅彦(おきやま まさひこ)
電機メーカーの人事・総務・法務・広報、リスクマネジメント業務を担当後、物流会社及び明電舎において、防災・BCPの構築・推進を担当。
企業における防災・BCPの事例について、多数の講演実績あり。
2021年8月に、株式会社レジリエンスラボを設立。
一般社団法人レジリエンス協会理事(兼務)、防災士
「企業向け非常用電源・燃料等の備蓄シェアリング ”BCPチャージ”」について
防災・減災、国土強靱化の取組の加速化・深化を図るため、国では予算確保しているものの、⻑期停電に備えた備蓄を行う自治体や事業者は少数となっています。
本事業では、大規模災害時において、各企業や自治体の事業(業務)継続に⽋かせない「燃料」「電源」等の備蓄について、優先的に提供をうけることが出来る会員向けの「共同備蓄サービス事業:BCPチャージ」を展開するものです。
特に、災害時でも停止できない事業者(重要電源の発電容量が中容量以下)に対して、「シェアリング」のスキームにより、「費用」および「設置場所」の課題を解決し、市場導入の促進につなげていきます。
*BCP(Business Continuity Plan):事業継続計画
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