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【Interview5】大企業のスタートアップ投資・新規事業開発に必要な「橋渡し」機能

※本記事は、当団体が制作したWebサイトの掲載記事を再編集後、移設しており、肩書・内容は掲載当時のものとなります。

「ソフト・ハード融合」スタートアップと​共創パートナーの連携ケーススタディを取りまとめるにあたって、ソフトウェア・ハードウェア融合領域に関するスタートアップに豊富な支援実績・専門性を持つ有識者にインタビューを実施。
今回は、株式会社Monozukuri Ventures 代表取締役 牧野 成将氏に話を伺った。

スタートアップ連携を通じたオープンイノベーションの存在感は高まる

―― 大企業のイノベーションを進めるために、スタートアップ連携の重要性は高まってきているでしょうか。

イノベーションはスタートアップの専売特許ではなく、むしろ、現代の大企業の成長にとっては、「エクスターナルテクノロジー」をいかに自社に取り込むかが重要です。例えば、現在好調のPhilipsもかつて赤字に転落したことがあり、その際にオープンイノベーション(OI)により、技術の半分を社外調達するという意思決定を行い、業績を回復させています。
スタートアップ連携は、大企業側の課題をスタートアップが補うというパターン、大企業のプラットフォームの中でスタートアップが活動するパターン等もありますが、SH融合領域では、お互いのリソースを使って互いのミッシングピースを補い合うというパターンが増えています。
例えば、今回のガイドラインで取り上げられているORPHEの事例は、アシックスはスマートシューズ化を自社単独で実現することは難しく、ORPHEは靴を量産化するノウハウがない中でお互いのノウハウ・リソースを補い合っています。


―― そうしたスタートアップとのオープンイノベーションにおける難しさはどのようなところにあるでしょうか。

こうした連携では、スタートアップと大企業で事情が異なる中で、双方にとってプラスの落としどころを見つけていくため、互いで課題になっている「ミッシングピース」を深堀りして戦略を作る必要があります。
そうした大企業とスタートアップのオープンイノベーションで課題となるポイントは大きく3つあると考えています。1つ目は「会話の難しさ」、2つ目は「資金+αのマインドセットを持つことの難しさ」、3つ目は「成果が出るまで長期に及ぶこと」です。


”Mediator”を活用しながらお互いの落としどころを見つける

―― 大企業とスタートアップの会話の難しさはガイドラインでも触れているところです。連携においては、お互いどのような点に気を付けるべきでしょうか。

連携を円滑に進めるためにお互いが注意すべきポイントは大きく3つあります。
まずは、お互いがお金を出して事業にコミットメントすることです。連携の初期段階では、スタートアップと大企業のどちらにとってもお互いはone of themに過ぎないため優先順位が低くなりがちであり、この優先順位を上げる必要があります。
また、契約を行う際に、どの領域で連携して、どの領域で連携しないのかという範囲を明確化しておくことも重要です。この切り分けを実施しないと、大企業の進捗度合いにより、スタートアップの成長が規定されてしまうことになりかねません。
最後に、連携の次のステージとして、どのような状態になったら次のステージに進むのかというゴール感・ステップ感を明確にすることが大切です。


―― こうしたポイントに注意して連携を進めるため、ガイドラインで触れているMediatorの役割は大きいように感じます。

その通りだと思います。大企業とスタートアップが互いを知らない中でこうした取組を進めることは難しいため、当社(Monozukuri Ventures)がお互いの間に入って戦略づくりをサポートしています。
特に、Mediatorがスタートアップと大企業との間に入り、契約時に用途や期間を限定することが重要です。もしこの限定ができていれば、仮に連携がうまくいかなかったとしても、スタートアップとしては次の協業に向かうことができます。
日本の場合は大企業があまりお金を支払わない中で連携策を模索してしまうので、もし連携がうまくいかなかったときにスタートアップとしては時間を失った感覚を持ってしまいます。


事業化に結び付けるためのカギはOI向けのミニ事業部門の存在

―― 「資金+αのマインドセットを持つ」ためには、具体的にどのような組織体制が求められるでしょうか。

CVCの内部にインキュベーション機能を持つ小さな事業部門を作り、事業化への橋渡しをすることが成功の秘訣です。
SalesforceやSIEMENSなどは、CVCの中に小さな事業部門が存在しています。一方、日本のCVCは人数が少なく、事業部門は日々利益を追っているためスタートアップの案件に手を付けられない状況になっており、スタートアップ連携が事業化に結び付きません。
国内でもOIを成功させているSONYは、インキュベーションを行う組織としてSSAP(SONY Startup Acceleration Program)が事業部門と独立して存在しています。


―― 事業部への橋渡し機能を組織化することが重要なのですね。他にCVCに求められるポイントはありますか。

CVCとLP出資を併用することも重要です。CVCだけ保有している企業は、自社事業とシナジーが強い領域の情報は入ってくるものの、弱いところの情報は入ってこない状態になってしまいます。
OIの本来的な強みは自社のシナジーの弱い領域を他社のリソースを使って強化できることです。LP出資も活用しながら周辺領域も踏まえたナレッジを収集し、インキュベーション機能を持つCVCから事業部へ接続することが成功パターンと言えるでしょう。


ポートフォリオ化を通じて中長期的目線で連携を捉える

―― 3点目の課題として挙げて頂いた「成果が出るまで長期に及ぶこと」に対しては、どのような処方箋が求められるでしょうか。

複数のスタートアップと協業してポートフォリオを構築し、スタートアップとの連携を客観的に評価することが重要です。日本企業の場合、社内投資では分散投資を行っているにも関わらず、社外投資になった場合に急にロジックが変わってしまい、分散投資が認められなくなってしまっています。
一般的に大企業は前例をもとに稟議を通していく傾向にありますが、スタートアップとの協業については、1つ目の成功事例ができないためいつまでたっても連携が進まないということに陥っています。例えば、LP出資を検討する際、100%成功するとは言えないが、10件に出資し内1つは成功するとは言いやすいはずです。このように稟議の形自体を変えていくことが重要です。


―― 大企業としては、どのようにして複数案件のプロジェクトマネジメントを行い、ポートフォリオ化を進めればよいのでしょうか。

今までの話とも関連しますが、CVCを設立して複数社に投資することが1つの方策です。事業部門では、「投資が失敗するかもしれない」という金融面の問題への対処が難しいため、ポートフォリオの管理については、CVCに権限を一定程度付与することでチャレンジがしやすくなります。


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