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【討論】スタートアップ支援者なら聞いておきたい! 知財ナレッジセミナー|イベントレポート

独立行政法人INPIT主催で『スタートアップ支援者なら聞いておきたい! 知財ナレッジセミナー』を開催しました。

本イベントでは、2023年度に実証的に行ったスタートアップ支援者向けの『IPモチベーター研修』で得られた知見を基にして、「スタートアップ支援者が知っておくべき知財ナレッジ」について、スタートアップ経営者や知財専門家でもある研修講師陣とディスカッションしました。

本記事では、その様子をレポートしていきます。

【登壇者】
・鮫島 正洋 氏(内田・鮫島法律事務所 代表パートナー)

弁護士・弁理士。弁護士法人内田・鮫島法律事務所代表パートナー 。
東京工業大学金属工学科卒業。藤倉電線(株)(現 (株)フジクラ)にてエンジニア(電線材料の開発)、92年弁理士登録後、日本アイ・ビー・エム(株)にて知的財産業務を経て99年弁護士登録。2004年内田・鮫島法律事務所を設立、現在に至る。弁護士業の傍ら、知財戦略、知財マネジメント、知財政策など多方面に向けた発言を行い、その貢献に対して2012年知財功労賞受賞。「下町ロケット」に登場する神谷弁護士のモデル。

柿沼 太一 氏(STORIA法律事務所 代表)
専門分野はスタートアップ法務及びデータ・AI法務。現在、様々なジャンル(医療・製造業・プラットフォーム型等)のAIスタートアップを、顧問弁護士として多数サポートしている。経済産業省「AI・データ契約ガイドライン」検討会検討委員(~2018.3)。日本ディープラーニング協会(JDLA)有識者委員(2020.5~)。「第2回 IP BASE AWARD」知財専門家部門グランプリを受賞(2021)。

・竹崎 雄一郎 氏(Fairy Devices株式会社取締役 CSO / CFO)
2003年、東京大学法学部卒、モルガン・スタンレー証券株式会社投資銀行部門に入社。テクノロジー・メディア・テレコム業界のM&AやIPOのアドバイザリーに従事した後、米国機関投資家Perry Capitalの日本・アジアにおける投資運用業務を経て、世界最大のテクノロジー投資ファンドSilverLakeの日本法人を立上げ、対日投資を担当。日本が誇るテクノロジーのグローバル展開を実践するためにFairy Devicesへ参画。

【ファシリテーター】
・高田 龍弥 氏 (独立行政法人INPIT 知財戦略部 主査)
特許庁入庁後、経済産業省、外務省などを経て、2022年4月より現職。知財を切り口にした中小企業・スタートアップの支援に約9年間従事。特許庁ではオープンイノベーション関連施策の企画から運営を担い、特許情報を活用したマッチング事業やオープンイノベーションを促進するためのモデル契約書事業等を推進した。現在もスタートアップ・中小企業の知財支援に携わっている。


「IPモチベーター研修」の開催報告

受講者全員が「今回の研修は、自分の業務の役に立つと思う」と回答!?

はじめに独立行政法人INPIT 知財戦略部 主査 高田 龍弥 氏(以下、高田氏)から、「IPモチベーター研修」の開催報告がされた。

ここで「IPモチベーター研修」とは何か補足しておきたい。

「IPモチベーター研修」は、2023年度に独立行政法人INPITが実証的に行った『スタートアップ支援者向け知財研修』事業だ。

特徴的なのは、対象が『スタートアップではない』ことだ。対象は、これからもどんどん新規で立ち上がるスタートアップではなく、エコシステムで大きな役割を果たし、スタートアップへ働きかける『支援者』であり、その知財ナレッジを引き上げることを目指している。

「どこまでスタートアップ支援者の知財ナレッジを引き上げるのか?」というと知財専門家(弁理士など)のレベルまでではなく、「スタートアップの状況を鑑みて、知財の重要性や必要に応じて知財専門家へ繋げることができるレベル」ということだ。

「スタートアップ支援者が、スタートアップの知財リスクにいち早く気づき、適切に知財専門家とも連携できる「IPモチベーター」を目指すことを目的とした研修として執り行いました」(高田氏)

研修講師には、知財の最前線で戦っているスタートアップからVC、弁理士などの顔が並ぶ。

最終的に目的とするところは、スタートアップエコシステムに企業の急所になりかねない『知財』をフォローアップする仕組みを構造的に実装することにある。

もちろん、こうした目的意識に対して多くの仮説検証が必要であり、2023年度に行った「IPモチベーター研修」は“パイロット版”と銘を打たれている実証的な取り組みとなる。大上段のところでは「そもそも、スタートアップ支援者はどれくらい知財に興味関心があるのか?」というものもあり、この不安は研修開催の直前まで企画運営側には付き纏った。

ただ、結果として「大成功だった」と本事業のプロジェクト担当者である高田氏は語る

それを表す数字として、「今回の研修は、自分の業務の役に立つと思う」と回答した割合が100%だったことを示しつつ、当日の様子やその他にもポイントとなったアンケートの声を説明した。

「グループワーク中心で設計した研修で、こうした結果が伴ったのは受講生のみなさんの主体的な姿勢があったからこそだと思っています。そして、講師など研修を支えて下さった方々へ感謝申し上げます」(高田氏)

興味深いと感じたのは、『有料でも受講する』と回答した受講生が90%以上というところだ。0円でもいいと明記してアンケートを取ったと言い、そうしたケースで0円以外が殆どというのは珍しい。

また、本研修を知り合いに紹介したい受講生が85%以上いたという。本研修後に個別ヒアリングを受講生へ行った際に「社内研修を行った&企画している」「社内へ学びを共有した」という嬉しい声もあったそうだ。

総じて、受講生の満足度が高かったことが伺える

(受講生の声から抜粋)
「投資家としての特許に対する考え方、位置づけ、関わり方の全体像から実務的に気をつけるべき点まで、非常にバランス良く設計されたプログラムで満足しています」

「投資検討先の知財戦略を確認しはするが、評価ができず、困っていた。本研修を経て、弁理士に依頼するまでの前処理・重みづけはできる見込みがついた」

一方、今後の課題として、本研修を通して『理解している』ところまでは多くの受講生が引き上げられた、もしくは自身の知識を拡充できたと感じているものの、『(スタートアップへ)気づきを与えられる』というところまでは2日間では到達した受講生は少なかったという点が挙げられていた。

これらの他にも今回の実証的な研修事業を踏まえて、継続・発展していきたいと高田氏は意気込みを熱く語った。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、研修講師から代表して3名の方々に登壇いただき、Sli.doを用いた双方的な形式で行われた。

各トークテーマで会場の頷きや筆者の興味深いと感じたポイントを抜粋していく。

講師から研修後の所感・ネクストアクションの期待

トークテーマに入る前に研修を行なった講師から研修後の所感、「今後、こうしたことにチャレンジして欲しい」というネクストアクションへの期待が語られた。

「スタートアップの立場として、100件以上の特許申請に関わり、その経験や学びを研修で伝えました。これからのスタートアップの知財コミュニティの活性化の兆しの見える研修だったと感じました。ネクストアクションとしては、「まず、特許の請求項を(弁理士へ相談しながら)書いてみる」ということだと思っています」(Fairy Devices CSO / CFO 竹崎 氏)

「研修でワークショップを担当して感じたのは、VCならではの企業価値向上に着目した、知財交渉の着眼点が素晴らしかったという点です。ネクストアクションとしては支援先スタートアップで知財戦略に取り組むところにじっくりと特許やOIの悩みを深めにやってみると良いのではないでしょうか」(STORIA法律事務所 代表 柿沼 氏)

「昨今、ディープテックが盛んになってきて、それぞれの特許戦略を支援していますが、基礎的な知識の欠如で非常に損をしているスタートアップ、VCがいると思っています。もっと、企業価値を底上げしたり、損ねないようにしたり…とか。それにフォーカスした基礎的な実務の研修を行うべきと主張したら、それを担当することになりました(笑)

ネクストアクションとしては、INPITさんにはスタートアップや金融機関などに広げていってもらい、受講生には支援先スタートアップの実際の特許出願に関わるなど実践してほしいと思います」(内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 鮫島 氏)

それを踏まえて、4つのトークテーマについて実践者、専門家の観点から忌憚のないディスカッションが行われた。

テーマ① 知財専門家には、どのようなタイミングで相談すべきか?

「新規性がないと特許出願できなくなる。プレスリリースとか学会で発表したり、ピッチで話すとか、それをするだけで(特許を)取れなくなったりするので、なんか特許を取った方がいいかもってよぎった時点で相談してほしい。

やることいっぱいあるスタートアップから取り組むのが難しいことも多いので、バリューを高めるためにもVCからも働きかけてほしいですね」(内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 鮫島 氏)

「大学発スタートアップなどは特にそうですが、起業前から知財がすでにあるというパターンもあると思います。そうした際は起業前にでも来てほしいです」(STORIA法律事務所 代表 柿沼 氏)

「シード期に会社作ったタイミングで一度相談して、戦略や予算をとるか等を考えるのが良いと思います」(Fairy Devices CSO / CFO 竹崎 氏)

スタートアップによって、知財の重要度、予算の掛け方も異なる。その舵取りを決めるためにも「知財があるorこれからできる予定があるなら、まず相談をしてみる」というのが良いようだ。

ただ、「出願をして稼ぐ」という弁理士もいる中で「スタートアップのための戦略から考えてくれる弁理士」に出会えるかは中々難しいというのが会場では話題になった。

また、そもそも海外進出では、ディープテックの場合、海外VCから「特許取ってないなら、金出さない」と言われると竹崎氏は語り、それが知財を取り組む必然的なきっかけだったと言う。

テーマ② 知財専門家からみた、連携しやすいキャピタリスト・支援者とは?

これは鮫島氏が率直に「知財にコストを(スタートアップに)割いてほしいと思うVC」と言い、柿沼氏は重ねて「その上で細かい知識はいらないので、スタートアップのフェーズごとに起きる知財の困りごとを把握していると良い」と語る。

そのためには「知財にどのようにコストを掛ければ、どれくらいバリエーションが増えるか計算できるVCでないとできない」と鮫島氏は指摘する。それができないが故に一千万円の特許をケチった挙句、何十億円のリターンを失ったということになりかねないという。

高田氏が「日本はディフェンスにお金を払わない風潮がありますよね」と軽く差し込んだのにも非常に共感を覚えた。リスクは取りたくないが、防衛のために掛けるコストを渋るという現場は筆者も実体験として頷きが大きい。

テーマ③ スタートアップ“知財担当”の決め方・育て方・採り方、役割とは?

竹崎氏は、知財担当を「(創薬や素材、ケミカルなどのレシピが必須な領域はこれがないと成り立たないと前置いた上で)知財人材は非常にレアであるという前提で、初期はCFOが兼任しつつ、上手く行き始めたら担当者設置を考えないといけない」と言う。

そして、「知財周りのロジ(出願、分割、PCTなど)をする管理部門の人、特許の中身を開発者として弁理士と見る人のように2つの役割が必要です。専任はかなり(採用や懐事情として)ハードルが高く、うちも兼任です」と付け加えた。

テーマ④ 大企業とのオープンイノベーションで支援者がアドバイスすべきことは?

知財というと特許のイメージも強いが、契約周りのトラブルも非常に多い。その中でもよく聞くのは大企業とスタートアップ間のOI(オープンイノベーション)だろう。

「交渉が暗礁に乗り上げるのを防止するために、OIモデル契約書などを活用したり、弁護士に相談したりちゃんとする必要がある」(STORIA法律事務所 代表 柿沼 氏)

「ひとつの契約書で企業価値がふっとぶことはありますからね。契約は怖いですよ」(内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 鮫島 氏)

「敵だと思わず、相互に歩み寄るポイントを見極めるのが重要です」(Fairy Devices CSO / CFO 竹崎 氏)

スタートアップからすれば、大企業とのOIはキャッシュ・実績・トラクション・リソース活用など様々な期待ができ、浮き足立ってしまうこともある。ただ、知財を持っていかれるような下請けなのか、聞き耳を持ってくれる大企業なのか、見極めも重要になってくる。

一方、「OIは双方向の取り組みであり、スタートアップ側にも、大企業側の担当者が所属している組織の力学、発言や行動の背景を理解し、寄り添っていく姿勢が必要である」と竹崎氏は付け加えた。

おわりに

今回、筆者は本イベントだけでなく、研修当日も同席したが今まで参加したどの研修よりも受講生・講師の皆さんの主体性や熱量が高く、驚いた。

受講生・講師の皆さんから「継続してほしい」「この領域に特化したバージョンも受けたい」「自社で行う研修の支援をしてほしい」などの嬉しい声も多く聞こえた。

知財という複雑性の高い領域のナレッジは、一朝一夕では身につかず、日進月歩の変化を追う必要もある。一方、スタートアップはもとよりVCなどの支援者においても「それだけをする」訳にはいかないカオスな状態で、今回の研修やイベントのような外部支援に価値はあるのではないだろうか。

イベントのネットワーキング内でも非常に熱気に満ちており、今後「IPモチベーター研修」の実証成果を基にした継続・発展によってスタートアップエコシステムの寄与に大きく期待したい。


・協力|独立行政法人INPIT、野村総合研究所
・文責|一般社団法人社会実装推進センター 理事 深山 周作
・写真|一般社団法人社会実装推進センター 理事 猪股 涼也

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