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【爆速】「1日で設計から成形品まで出来る」、スタートアップ×製造業の連携事例

※本記事は、当団体もしくは関連団体にて制作・掲載した記事を再編集し、移設したものとなります。

2020年3月19日、新型コロナウイルスの影響から当初の予定を変更し、無観客で開催された『JAPAN INNOVATION DAY 2020 by ASCII STARTUP』。本イベント内で実施され、当日動画配信された「カンファレンスセッション」の模様をダイジェストでご紹介します。

本カンファレンスディスカッションは、『JAPAN INNOVATION DAY 2020 by ASCII STARTUP』イベントで行われたものです。

テーマ:「ソフトとハードの融合領域におけるスタートアップと製造業の爆速連携事例」
今年1月、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大の電子機器見本市『CES 2020』に出品され、高い評価を得た日本製IoTデバイス「CryAnalyzer Auto」。

この製品は、AIを用いて赤ちゃんの泣き声から感情を分析するというベビーテックであり、スタートアップファクトリー構築事業を通じて連携した3社の共創によるもの。驚くべきは開発から完成まで約半年という短期間、まさに爆速で実現した点です。

その爆速を可能にした仕組み、スタートアップとスタートアップファクトリーの理想的な関係について熱い意見が交わされました。

パネリスト
服部 伴之氏(株式会社ファーストアセント代表取締役社長)

橋爪 良博氏(有限会社スワニー代表取締役社長)
山田 祐輝氏(株式会社ノエックス代表取締役社長)

モデレーター
中間 康介氏(一般社団法人 環境共創イニシアチブ)

パネリストの自己紹介

中間 まずは、皆さんに自己紹介をしていただきたいと思います。服部さんからお願いできますでしょうか。

服部 株式会社ファーストアセント代表取締役の服部です。当社は2011年に設立以来、「テクノロジーで子育てを変える」をミッションとして、ずっと子育て関連のビジネスをやってきました。今回は、アメリカの『CES』でも紹介させていただきました解析デバイスの爆速の事例を紹介できればと思います。

橋爪 有限会社スワニーの橋爪と申します。当社は長野県伊那市の田園風景の中にある創業50年の会社です。「人の心を動かすカタチ作り」をコンセプトに、最新の3次元CADや3Dプリンターなど最新のデジタルツールを駆使した製品設計を中心に、筐体と機構作り、試作から小ロット生産、量産化支援を行なっています。

山田 ノエックスの山田です。当社は茨城県つくば市で基盤などの開発をしている電気系の会社なんですけれども、今日はIoT系のデバイスを「こうやれば速く作れる」という事例を皆さんに聞いていただきたいなと思います。よろしくお願いします。

中間 ありがとうございました。まず最初にファーストアセントの服部さんから、今回の製品のご紹介をお願い出来ればと思います。

服部 はい。8年前に『パパっと育児@赤ちゃん手帳』というアプリを作りまして、これまでに累積で60万人くらいにご利用いただき、いろいろなアワードを受賞しました。

そこで集めた育児記録データをもとに研究を進める中、さらに2万人以上のモニターユーザーから集めた赤ちゃんの泣き声データとAIを掛け合わせ、泣き声から感情を分析する「泣き声診断アルゴリズム」を開発しました。診断結果の精度は80パーセント以上なんです。

ただ、都度アプリを起動して診断する作りですとユーザーが大変な思いをしてしまいます。なので、アプリを起ち上げることなく勝手に泣き声を解析し続けてくれるものを作りたいなと。そうすると、どうしてもハードウェアが必要になります。

そこで、以前お取引のあったノエックスさん、「スタートアップファクトリー構築事業」通じて知り合ったスワニーさんとのラッキーな良い出会いがあり、今回の製作につながりました。

当日に設計~成形品まで完成

中間 「CryAnalyzer Auto」は昨年の6月から開発が始まり、12月には『CES』への出品が決まりました。ちょっと考えられないスピードなのですが、この考えられない爆速を担ったお二人に、その背景をお話しいただければと思います。

山田 服部さんから発注いただいたのが6月末で、8月にはかなり形になっていました。

服部 7月末ぐらいには基本的なところは、全部できていましたね。

山田 そうでしたね。でも、無理して作ったわけではないんです。うちもスワニーさんの両社とも、速く作る仕組みを持っていたから実現できたわけです。

橋爪 スタートアップの方は、最初は予算が少ないこともあり、資金を集めるために、とにかく速く形にしたいところがあるんですね。山田さんがおっしゃったように、我々には爆速で作る仕組みがある。それが今回うまく生きたかなと感じています。

中間 その仕組みについてご紹介頂けますでしょうか。

橋爪 当社では製品設計から試作の金型まで作るのですが、通常は金型を作ってしまうと、もう取り返しがつかないんですよね。

そこでポイントになるのが当社の特許技術「デジタルモールド」です。簡単に説明しますと、設計者が3Dプリンターで樹脂の型を作り、それを社内にある小さな成形機にセットして射出成形するという技術。

金形作りは中国でも2週間くらい、日本では3週間は必要になると思いますが、当社の場合は朝から設計して夕方には成形品を持っていけます。本当に”爆速”なものづくりが可能です。

そして、もう一つのポイントは量産と全く同じ材料で部品を作れるということですね。

中間 ファーストロットぐらいの数量なら作れてしまうわけですか?

橋爪 いけますね。形状や大きさにもよりますが200ショットくらいは樹脂型でいけます。スタートアップの方々からお話が来る場合、最初は50個欲しい…というような小ロットのケースが非常に多いので、そういった規模感で作りながら修正していく場面には、うってつけだと思いますね。

中間 こうしてスワニーさんが筐体を作っていくのと並行して、ノエックスさんでは基板を作っていかれるわけですね。

橋爪 はい。基板をすべて1から作ろうとすると、すごく時間がかかりますが、IoTの基板で必要なものはCPU、メモリ、LAN、Wi-Fiとだいたい決まっているんですね。

当社では独自に開発したベース基板を持っているので、お客様が何か新しいことをしたいと希望された時でもカスタムが簡単ですし、費用的にもずいぶん抑えることができます。

これが当社の「FAB TOPE」という仕組みになります。また、今回であればベースファームウェアは当社のものを使っていただけるので、服部さんにはAIに集中していただく。

それぞれが得意分野に集中できるわけです。製造装置も内製していて、2~3畳くらいのスペースでセル生産ができるので、試作がうまくいけば、そのまま営業日昼8時間だけで月産2,000台くらい生産できます。(※24時間稼働 土日生産 3ライン生産を組み合わせるともっと多く生産可能とのこと)

中間 なるほど。スタートアップから良く聞く悩みとして、最少ロット問題があるのですが、スワニーさんとのノエックスさんはこういった仕組みで、少ロットにも対応が可能になるんですね。

橋爪 少ない時は5台とか、そんな話はよくあります。それでもやりますから。

山田 やります、やります(笑)。

服部 お二人とも「面白そうだから」と言って、やってくれるんですよ(笑)。

橋爪 そこが一番のポイントじゃないですかね。


爆速の鍵は『失敗を繰り返せること』

中間 まず、製造業のお二人に伺いたいのですが、スタートアップとお付き合いする際に大変なこと、こういうスタートアップならうまくいく。あるいは、うまくいかないというケースを教えていただけますか。

橋爪 うちの場合、初期のアイデアから問い合わせが来るんですが、仕様がはっきりしていない…というケースは苦労します。服部さんの場合は、歩く仕様書ぐらいにはっきりしていたので、すごくスムーズでした。

山田 最初の打ち合わせはスワニーさんで行ったんですが、仕様書を起こすのではなく「これはどうですか?」と話しながらホワイトボードに書き込んでいって、その場で詰められたことも爆速につながりましたね。

中間 仕様が明確というのと、仕様書があるというのは違うのですか?

山田 やりたい事がはっきりしているかどうか、ということですね。

橋爪 想いがしっかりしていて、こういったターゲットにこういう評価をして欲しい…といった仕様を持っているなら、いわゆる昔ながらの”仕様書”が無くても、我々の仕組みを用いればスピーディーにクリアできるかなと思います。今回は最初の打ち合わせ後に筐体の設計をして、3Dプリンターで試作したものを1週間以内に服部さんに送ったと思います。「こんなイメージです」と絵を持参されていたので、やりやすかったですね。

服部 すぐに試作品が届いて、もちろん細かいところではいろんな課題はでてくるんですが、社内では「このままCES出せちゃうね」なんて話になって。それもあって安心してお任せできました。

中間 服部さんはこれまでにスワニーさん、ノエックスさん以外の会社ともお付き合いしてきたと思うんですが、このお二人だから助かったと感じていることは何でしょうか?

服部 ベンチャーがものづくりをする時は、チャレンジングなものを作ろうとするじゃないですか。うちの会社には「意味のある失敗をしよう」という行動指針があるのですが、その思いを共有できる仲間だと思っています。最初に3Dプリンターで試作を作っていただいた時も、完成品まで何回失敗できるかと逆算しながら進めていけたのが大きいと思います。

中間 発注する側が「失敗していいよ」と言うのも凄い勇気がいることだと思います。

橋爪 本当にそう思います(笑)。ただ、チャレンジングな事をやっているので、作る側もチャレンジングだと思うんです。なので、今までのものづくりの進め方をしても上手くいかないのかなと。途中何回か失敗して、形をつくっていく、ということが僕達がやるべきことで、今の時代このタッグならそれができるんだと思えたのが、一番衝撃でしたね。

橋爪 失敗失敗と話が続きますが、我々もプロなので、最後は成功品ですからね(笑)

橋爪 要はスピードが速ければ、やり直しを何回もできる。普通なら1回しかできないことを3回できるってことなんですよ。それだけ細部にこだわれるわけですよね。

服部さんがAI開発にこだわるための時間を、我々は自分たちの仕組みの中で作り出しているということ。より良くするための時間ですね。納期とコストに追われて「もう時間がないから出しちゃえ」というものではない。

今の日本にはすごく重要なことなのではないかと思うです。だから我々は、それを実現するためにスピードのある仕組みを作ったわけです。

中間 ハードの開発が早くなったら、ソフトの開発も早くなると思いますが、そこはどういう役割分担やプロセスを踏まれましたか?

山田 製品として動かすところのソフトはうちのエンジニアが作っています。(ファーストアセントさんには)一番得意なAIのところに集中していただき、マージ(※1つの製品として動くようにソフトを結合)しました。

服部 動作させるためには、色々組み込みで細かい作業があるんですが、そういった部分が整備されているので、安心して解析周りの開発に注力することができたのが、非常に良かったですね。

中間 マイク側がどういった音が取れるかによって、AI側が対応しないといけないことがでてくるとか、ハードとソフトの相互作用の部分はどう対応していましたか?

服部 最初に動いた試作品では、ノイズの問題で求めていた品質に到達しなかったんですね。その際は、音源ファイルは別撮りして、音が取れたよね、という後の段階から、一通り動くことをテストしていました。その後、ハード側が改良されたタイミングで、取るところだけ書けば動くようにしておいて、コアな部分の開発を先に進めていました。

山田 橋爪さんとやっている別の音系のIoTデバイスの話なんですが、ノイズ関係では結構苦労しますね。量産後に問題が発覚して、その原因探しを対応したり。

橋爪 ノイズ関係は一般的に、筐体屋さんとハード・ソフト屋さんの関係が深い領域です。通常ですと、自分は筐体屋だからそこから先は知らないよとか、設計が悪いよ、となるのですが、我々はいっしょにやります。

山田 逆に、こういった問題は筐体屋とソフト・ハードが皆で協力しないと絶対解決しません。筐体側だけで対応しても、ソフト的に問題が解決しているか分からないので。そういった課題がでてきた時は、うちとスワニーさんは2日間テレビ会議つなぎっぱなしで、問題を解析していた時もありました。

橋爪 結局、これを作る、という想いがあるから、何屋さんとかは言っていられません。全体責任です。まあ問題があったらすぐに対応して修正することですね。

服部 やはり最強タッグだと思います(笑)


ものづくりをしたいスタートアップは「まず駆け込もう」

中間 ありがとうございます。では最後にスタートアップでものづくりをしようと考えている方々に、一言ずつメッセージをいただけますでしょうか。

橋爪 スタートアップの皆さんは結構悩まれていますけれど、まずは「駆け込んでください」って想いが強いですね。相談に来ていただければ、たぶん1日のうちにいろいろジャッジして「ここまで出来ます。これは出来ません」とはっきり伝えられる仕組みが我々には出来ていますので。

我々も受託という思いではやっているのではなく一緒に作り上げる共創と考えているので、世界中に発信できるものを一緒に作ることができればと思いますので、よろしくお願いします。

山田 ほとんど言われてしまったので…。とにかく駆け込んでください(笑)。相談していただければ何かしらのことは言えると思いますので。うちもベンチャーなのでベンチャーの気持ちはよく分かります。「こういうことをやりたい」という熱い想いを持って駆け込んでいただければ、一緒に解決していきたいと思っています。

服部 私は本当にお二人のようなパートナーを見つけられて幸運だったと思っていますし、このようなパートナーがいると良いものづくりが進むのだと実感しています。何回失敗できるだろうという考えでやらないと、本当にいいものができません。そういったことを考えて、製造業側にちゃんと伝えて、これでいいからまず動かそう、というスタンスでやるといいものづくりができると思います。

中間 本日はありがとうございました。

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