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量産化の壁を超える4つのサービスを提供する『Makers Boot Camp』

※本記事は、当団体が制作したWebサイトの掲載記事を再編集後、移設しており、肩書・内容は掲載当時のものとなります。

2017年9月、京都の京都中央卸売市場の場外で、ものづくりスタートアップのコワーキングスペース”Kyoto Makers Garage(KMG)”が誕生した。KMGの責任者であり、ものづくりスタートアップの支援プログラム”Makers Boot Camp”を運営する、Darma Tech Labs牧野氏に、話を伺った。

シリコンバレーで知った、ものづくりスタートアップの量産化の壁

前職はベンチャーキャピタルに勤務していました。当然、国内だけでなく海外の有望なスタートアップもターゲットになるわけですが、例えばシリコンバレーで面白い会社を見つけても、競合が多いため、なかなか投資させてもらえません。

「あなたの会社は、お金以外に何を提供できるの?」とベンチャーキャピタルの業界にも差別化の必要性を痛感しました。こんなジレンマを感じていた2010年ころのシリコンバレーでは、ものづくりスタートアップが増加していました。

しかし、その多くが「量産化の壁」にぶつかっているケースが多いことを知りました。さらに調べてみると、当時、量産化試作を中小企業のネットワークでサポートするのはドイツの事業者や「京都試作ネット」など非常に少ないことが判明しました。

京都試作ネットとは、機械金属関連の中小企業10社が起ち上げたグループで、試作に特化したソリューション提供を展開しています。

彼らと連携して、量産化の壁をクリアできる道筋を提供できるようになれば、自分たちならではの強みとして世界中の有望なスタートアップとも付き合うことができるのではと考えたことが、「Makers Boot Camp」設立のきっかけでした。

4つのサービスを軸にMakers Boot Campが始動

京都試作ネットとの連携体制を整えた私たちは、2015年8月に「Makers Boot Camp」をスタートさせました。私たちが提供するサービスは大きく4つあります。

  1. 試作のためのコンサルティング

  2. 試作のための資金調達支援

  3. 量産化試作

  4. サプライネットワークの提供

まずコンサルティングですが、もともと、京都試作ネットは、オムロンや島津製作所、京セラなど大手メーカーの下請けだった企業の集まりです。発注側もものづくりのプロだったわけですが、これがものづくりに明るくないスタートアップになると、打ち合わせなどがスムーズに進みません。

一方で、ベンチャーにはベンチャーなりの想いがあります。そこで、私たちがテクニカルなメンバーを擁し、お互いの発言を翻訳するような形で両者の仲立ち役を担っています。

次に資金調達。試作をするには、当然コストがかかりますが、スタートアップには資金力がないケースが大半です。これは、京都試作ネットに連携を呼びかけた際も課題として浮上しました。「資金力のないベンチャーを相手に、ボランティア的に対応するのでは、継続性を見込めない」となったのです。

そこで、2017年の7月に「MBC試作ファンド」という投資ファンドを起ち上げました。ファンドとして資金調達できるなら、ベンチャーは助かるわけですし、京都試作ネット側も安心して手を組めるというわけです。

現状では、京都銀行、京都信用金庫、京都中央信用金庫などの金融機関やDMG森精機、島津製作所、マクセルなどの大手メーカーに出資者になっていただいています。従来のベンチャーキャピタルとは異なり、地域経済活性化の可能性があるという点に注目してくださったようです。

3つめの量産試作(小ロット生産)が京都試作ネット等によって成功すれば、ベンチャーは量産化に乗り出します。量産していくには、工場選定・部品選定・部品供給・販売店契約などが必要です。このような機能を備えているのは大手メーカーです。そこで、大手メーカーには、先述のファンドへの出資と同時に、サプライネットワークにも加わっていただいています。


ものづくりベンチャーの戦略拠点「Kyoto Makers Garage」の開設

「Makers Boot Camp」の活動を展開するなか、私たちが課題と感じるようになったのが、ものづくりを実践するためのスペースがなかったことです。

当初、「Makers Boot Camp」は工場とスタートアップの間に立つハブの機能を担うことを想定していたので、シェアオフィスの一角でコンサルティング業務を行い、試作品製作の場としては連携している中小企業の工場を借りればいいという考え方でした。

しかし、製作現場のすぐ近くで打ち合わせができたり、関係者が集まれる拠点の必要性を感じるようになりました。

このころの京都市では、街のさまざまな課題について一般市民から提案を募集する「まちづくり・お宝バンク」という制度を展開していました。京セラやオムロンなど、京都が誇る大企業も、もとは京都発のベンチャー企業ですし、現在でも大学や大企業から数多くのベンチャー企業が生まれています。

そこで、京都試作ネットなどとの連携を通じてハードウェアベンチャーを支援する体制を構築し、「ハードウェアベンチャーの都・京都」の実現を目指すという提案を投稿しました。これが京都市に認められて「モノづくりベンチャー戦略拠点」として予算がつき、2017年9月に「Kyoto Makers Garage」の開設にいたりました。

ただし資金的には3Dプリンタ2台を購入するのが精いっぱいで、それに借りもののレーザーカッターを加えるという形でのスタートでした。今では、Startup Factory構築事業の補助も受けられたので、自前のレーザーカッターやフライス盤、切削加工機などをそろえられました。

なお、「Kyoto Makers Garage」のようないわゆるファブ施設には、主に2タイプの運営法があります。一つは、工作機械などの設備を整えて自由に使ってもらうというタイプですが、これだと、設備の使い方を分かっている人だけしか活用できません。

もう一つが、機械・設備の使い方を熟知したスタッフが常駐していて、利用者にアドバイスするタイプ。私どもは、裾野を広げたいという意味で後者を目指しているので、利用者にアドバイスできるマネージャーを常駐させています。


「Kyoto Makers Garage」から裾野を広げていく

シリコンバレーからは、優秀なスタートアップが多数輩出されていますが、大きな要因のひとつは、人材の裾野の広さにあると考えられます。

一方で、「Makers Boot Camp」の活動はスタートアップの支援になるわけですが、そこだけに注力しているのでは、なかなか裾野を広げることにつながりません。そこで、「Kyoto Makers Garage」には、ものづくりに興味や可能性を感じる人を増やすための発信源としての機能も付加しようと考えています。

その一環として、「Kyoto Makers Garage」は、学生には無料で使ってもらえるようにしています。先述のとおり、機械や設備の使い方は、常駐しているマネージャーが教えますので、すぐにものづくりの面白さを実体験できるわけです。

現状でも同志社や立命館などの学生も多く集まるようになっていますが、いずれは、学生にスポンサー企業の課題解決に取り組んでもらうような仕組みを整えていきたいと考えています。これについては、京都工芸繊維大学が、企業から提示されたテーマに沿って学生が課題解決に取り組むというプログラムを実施し、現実に成果を出しています。私たちとしては、同大学とも連携しながら、取り組みの幅を広げていきたいと考えているところです。

また、サービスも拡充できています。今までは「つくる」という文化を広げる点に注力してきましたが、「買う」という部分もカバーするようになりました。試作するだけでなく、商品としてつくってほしいというニーズも出てくるようになったので、製造販売というサービスも提供しはじめました。

世界を視野に入れて活動を展開。AIベンチャーのハード開発支援にも今後注力。

「Makers Boot Camp」のスタート当初は、なによりも認知していただくことが大事と考え、月に1回くらいの頻度でイベントを開催しながら、スタートアップや中小企業、大企業のエンジニアなどを集めていました。

以前は開催のたびにスペースを借りていましたが、「Kyoto Makers Garage」の開設後は、主にここを活用しています。ちなみに、イベント中のプレゼンやパネルセッションでは、全員英語を使っていただくことにしています。

ものづくりの場合、国内だけでなく海外で勝負できる可能性に満ちていますから、スタートアップには、少しでも海外に向けた足がかりにしてほしいと考えているのです。

なかには英語が苦手という人もいますが、ツイッターの同時通訳機能を使うなど、悪戦苦闘しながらもルールを守っています。

実際、海外からも人が来てくれるようになっていて、シンガポールの投資家と関西のものづくり起業家のミートアップを実施するなどしています。

投資家だけでなく、海外のスタートアップが来ることもあるので、その場合は、中小企業や大手メーカーの工場などをまわる「ものづくりツアー」を開催しています。

特に海外からくる方は、ものづくりだけでなく京都の文化にも興味を持っていらっしゃいます。例えば、京都市の南部には大手メーカーや中小企業が多く集積していますが、日本酒の蔵元などもあるので、視察の合い間に観光地巡りなども組み込むようになりました(笑)。

また、最近は量産化試作より手前の、コンセプト段階の支援にも注力しています。私たちは、デモ用試作品があるという前提で、そこから先の量産設計以降をサポートするというイメージで事業をスタートしました。

しかし、実際にやってみると、デモ用試作品とは呼べないようなレベルであったり、アイデアだけがあるというケースのほうが多いことに気づきました。

特に最近多いのは、AI関連のスタートアップなのですが、AIそのものでは差別化を図れないので、彼らは自分たちの着想に基づいた独自のデータを集めようとします。

そして、独自のデータをとるためのハードが欲しいとなるわけです。ところが、彼らはソフトウェアの世界の人たちなので、ハードについては全く分からない。

「こんなデータがほしい」というアイデアだけがある。従前は対象外と考えていましたが、AI関係のベンチャーには将来有望なところが多く存在します。AIベンチャーのコンセプト段階の案件もターゲットにして注力していこうと考えているところです。

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