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【出向起業|体験談】株式会社SaveExpats 代表取締役 岩田 竜馬

※本記事は、当団体が制作したWebサイトの掲載記事を再編集後、移設しており、肩書・内容は掲載当時のものとなります。

”始動”をきっかけに、海外駐在員の健康不安と未病を解消するサービスを起案

―― まずは岩田さんのこれまでのキャリアについてお伺いできますか。

岩田 大学では電力システムの研究をしていて、新卒で日揮に入社しました。入社後は中東、北極圏、アフリカなど海外へ赴任し、各プロジェクトのエンジニアとして、設計・調達・工程管理・品質管理や各国規制当局との調整業務などを行ってきました。

アルジェリアに赴任していた2020年コロナ禍が始まり、現地の医療環境を考慮して会社の判断で日本へ帰任しました。


―― プロジェクトマネジメントの職種から新規事業に関わるきっかけはあったのでしょうか。

岩田 帰任後、希望してDXを担う部署に異動しました。新しい部署では、DXに加え、ベンチャーと協業するオープンイノベーションも含めて、新しい取り組みに関わる機会が増えていきました。そんな中、一番大きなきっかけになったのは、上司・先輩からの勧めもあって参加した、経産省JETROの「始動」プログラムです。

プログラムへの申込には事業案が必須でしたので、海外赴任中に感じていた駐在員の健康不安を改善するアイデアを短期間で練り上げました。当初は歯の痛みに特化していたのですが、プログラムを通じてヒアリング重ねる中で、歯だけではないなと。健康全体の不安を拭うためのソリューションは何か、4ヶ月集中してブラッシュアップしていきました。

―― ブラッシュアップの結果、どのようなソリューションになったのでしょうか

岩田 海外駐在員の元へ指先自己採血キットを送り、採取した血液を分析ラボに輸送。結果の数値を本人と母国の医師に即時共有して、日本での過去の検査数値と比較しながら健康医療相談が受けられるというサービスです。どうしても現地病院の検査・判断では、そもそも判定基準が違ったり、医療水準に不安があったりします。この不安は駐在員本人だけでなく、駐在員の家族にとって顕著で、特に”先進国大都市”以外の駐在員ほどニーズがあります。


―― 駐在員の健康問題は、企業にとっても重要な課題なんですね

岩田 日系企業を対象に実施した「海外赴任者医療保障に関する調査」によるとコロナ禍をきっかけに新たに加わった課題として、「赴任者の安全・健康への不安解消、メンタルヘルス」を挙げた企業が61%、「赴任地での健康診断、予防接種、ワクチン接種への対応」が57%に上るなど、赴任先での慣れない環境に加え、社会環境が海外赴任者の心身へ与える影響に懸念が高まっています。

駐在員の任期満了前の途中帰任・交代は、会社にとって莫大な損失ですし、何より本人・家族の健康・キャリア上の影響も深刻です。海外駐在という特殊な環境においては、日本国内の従業員以上に高い頻度でケアを継続して、検査数値の悪化が進んだり、本人が気づくような症状が出る前に手を打つことが必要です。


出向起業に向けて調整。会社の中長期のビジョンとの接点を探る

―― この事業を、なぜ出向起業というスキームで実施しようと思ったのでしょうか

岩田 従来の本業とは異なる領域であり、法規制の変化も激しい分野。日揮という組織の中で、新規事業として立ち上げるには相当ハードルの高い案だと感じていました。ただ、このままアイデアで終えたくないという強い思いがあり、個人的な活動として検討を継続していたところ、出向起業というスキームを知り、会社との調整を始めました。


―― 出向起業の実現に向けて、会社とはどのように調整したのでしょうか

岩田 ”始動”への申込を勧めてくれた、直属の部長に相談したところ、役員へ説明するチャンスをいただきました。その部長は社内でもかなり先進的な考えの持ち主で、異動前からも付き合いがあったこともあり、色々とフォローしてもらえました。帰任後の異動先がこの部署で本当にありがたかったなと思います。

役員への説明にあたっては、日揮の2040年ビジョンとの接点を探りました。2040年ビジョンでは、「人と地球の健やかな未来づくりに貢献する」という”Planetary health”をパーパスに掲げ、そこに向けて注力するビジネス領域の中に、ヘルスケア分野が含まれています。今回の事業は、直近では海外駐在員の健康に、ひいては新興国現地の方々の健康に貢献する未来へつながってゆくということを説明しました。


―― 岩田さんの説明に対して、どういった反応だったのでしょうか

岩田 色々考えるべきことはあるけれど、まずはやってみればよいのでは、という寛大な判断をいただけました。役員に了承をいただいた後は、人事制度上の立て付けをどうするか、人事部門のマネージャーが中心になって各論の検討をリードしていただき、無事出向起業に至ることができました。


―― 検討の過程で「辞めて起業」することも考えましたか

岩田 考えたことはありますが、やはり日揮という会社が好きなんです。こんな組織は稀だと思います。おこがましいかもしれないですが、この先、自分が40歳、50歳になったときにも輝く会社であってほしい。そのために今は、外に出て起業し、スタートアップ経営の経験を積みコネクションを作り、力をつけて恩返しをしたいと思っています。出向起業の仕組みがなければ違う世界線を進んでいたと思います。


駐在員向けのサービス開発を進めつつ、中長期的には新興国国内の健康問題を解決したい

―― 今後、どのような形で事業を進めていくのでしょうか

岩田 既にインドや東南アジア諸国をターゲットに無償での実証を進めています。JETROのアクセラレーションプログラムなども活用し、各国の規制当局と確認を行ったり、各国駐在員へより細かいヒアリングを続けながら、有償化に向けてサービス開発を進めていきます。

具体的に検討しているサービス案のひとつが、保険商品とセットで提供するモデルです。海外駐在員向けの海外旅行保険では、実際に病気で現地医療機関を利用するケースが多いと、翌年の保険料が上がってしまいます。未病を解消することは保険商品を提供する側としてもメリットがあり、健康状態によって保険料を引き下げるようなサービスであれば、法人側も導入がしやすいという意見をいただいています。


―― 中長期的には、どういった展開を検討されているのでしょうか

岩田 母国医療とのアクセスを高めるサービスが先行しますが、根本的な課題は新興国の医療サービスの水準の問題だと認識しています。このサービスの根幹となるのは、要配慮個人情報等のヘルスケアデータを各国の規制をクリアした上でセキュアに取扱い、かつヒトの検体を確実に輸送する仕組みです。運用を確立できれば、新興国国内の医療問題に対してもこれまでに無い新たな解決策の一つになり得ると考えています。

既にカンボジアでは日揮が病院を設立・運営していることなどもあり、将来的に出向元事業とのシナジーを生み出すことも可能だと考えています。

SaveExpatsの3つのメリット

―― 最後に、出向起業が始まった今、どのような気持ちでしょうか

岩田 出向前は、自分の立ち位置が曖昧な状態で各ステークホルダーと話さなければなりませんでしたが、出向起業を正式に開始できたことでフルコミット出来る環境が整い、「アクセルを踏み込んでいいんだ」という気持ちです。当時決めあぐねていた私に、「挑戦を諦める姿を子供に見せるな」、と熱く背中を押してくれた妻に感謝しています。過去の出向起業の先輩方の記事をよく読んでいたのですが、次は私自身の声が誰かの背中を押せればうれしいですね。


岩田 竜馬(いわた りゅうま)氏

東北大学修士卒。2013年からプラント会社日揮で9年間、資源国で国家規模のプロジェクトマネジメントに従事。中東のカタール・北極圏のロシア領・アフリカのアルジェリアで、長期の現地駐在生活を送る。
2021年、経産省「始動」プログラム7期に参加し、自身の経験から生まれた ”駐在員と帯同家族の健康不安を解消する事業案“ で採択。その後、一般社団法人日本スタートアップ支援協会アクセラレーション採択。
2022年、株式会社SaveExpats設立。

「海外駐在員(Expat)から現地(Local)へ。 -未病を救う指先2滴の郵送検査サービス- 」について

『世界を支える駐在員に安心と健康を』というミッションのもと、駐在員・家族の健康不安を救う自己採血キットによる郵送検査サービス「SaveExpats」の開発・提供を行います。

異国の地でリスクを背負って勤務している駐在員向けに、自己採血キット宅配によるリモート検査と迅速な結果通知、及び母国医師とのオンライン医療相談を提供することで、世界中の駐在員と家族を「未病」と「健康不安」から解放し、さらにメンタルヘルスケアまで包括的に提供しwell-beingを実現します。
加えて、駐在員のみならず、現地の医療従事者の負担軽減を実現させて行きます。新興国途上国の地方・遠隔地の病院は、検査・治療を待つ人で常にパンク状態となっており、さらに経済成長に伴って生活習慣病で亡くなる方の数が激増しています。いつでもどこでも精確な検査とデータ管理の仕組みを提供することで、現地医療機関の負担を軽減しながら、現地の生活習慣病予防に貢献します。

■会社概要
・住所|東京都中央区銀座1-22-11 2F
・問い合わせ先|info@saveexpats.com
・WEBサイト|https://saveexpats.com

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