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【出向起業|体験談】eyeForklift株式会社 代表取締役 野正 竜太郎

※本記事は、当団体が制作したWebサイトの掲載記事を再編集後、移設しており、肩書・内容は掲載当時のものとなります。

やりがいを感じていた営業のキャリアだったが、受託SI開発ビジネスに限界を感じて新規事業を模索

―― まずは野正さんのキャリアについてお伺いできますか。

1992年に新卒で富士通に入社後、ずっと法人営業部門に籍を置いてきました。ちょうど私が入社した頃は、富士通やIBM・NECが基幹システムの落札を巡って競争している時代。個人的に三国志が好きなこともあり、そんな群雄割拠して覇権を争っているような環境が面白そうだなと思って富士通の営業職を希望しました。

法人営業の仕事はとても性に合っていました。基幹システムの構築商談は、ただ安ければ受注できるというものではありません。顧客経営者の想いや、情報システム部門の意向、現場の要望など、複雑な要素が絡み合う。また富士通側にもSEが確保出来ないとか、組織の都合など社内的な制約も多い。契約した後は開発プロジェクトをフォロー、提案内容を実現して、最後は安定運用に繋げてゆくことが求められます。

これらを商談としてまとめていくのは、まさに三国志で軍師・諸葛孔明が大軍を率いるように、営業がリーダーとして采配を振るわないといけないわけです。私の担当してきた業界が鉄鋼、食品製造、石油、製紙と、わりと重厚長大な業界だったこともあり、なおさら一筋縄ではいかないところも面白いと感じていました。


―― 富士通の営業というキャリアは充実されていたようですが、何か新規事業を考え始めるきっかけがあったのでしょうか。

2014年頃ですかね。受託SI開発ビジネスが縮小していくなか、このままでは富士通は勝てなくなると危機感を感じるようになりました。営業として商談を勝ち取ることにやりがいはあったのですが、ここに至って全く別の「何か」に取り組まないといけないと真剣に思いはじめました。


―― 具体的にどういうことを始めたのでしょうか。

ちょうど製紙会社を担当し始めたタイミングだったので、製紙業界でその「何か」探して行こうと考えました。

まず着目したことは、製紙業界における”熟練人材不足”という課題です。製紙工場では業務を請け負っている現場の方々が、驚くほど細かなオペレーションを日々回すことで操業を行っているのですが、そこも高齢化が進んでいます。特に地方では人材不足の中、これからどうやって従来の品質を担保していくかが課題となっていました。


―― 人材不足を解決する手段として、今回の事業案を考えられたのですね。

そうですね。ポイントは作業を発注している製紙会社さん自身も、現場の方々が行っている複雑なオペレーションの中身や価値を全て把握するのが難しくなっていることです。この状態では将来ロボットで人間を代替するようなこともできません。まずは見える化が必要だと考えて、倉庫・物流業務に関する、フォークリフトのIoT化に関する事業を起案しました。


共同物流などの業界全体の課題解決は、受託ビジネスでは実現できなかった

―― 具体的な事業概要についてお伺いできますか。

製紙工場では平置き倉庫に原紙在庫を保管していて、フォークリフトで在庫を移動させています。製品には仕様が書かれた紙のラベルが貼られていて、人はそれを見て管理をしています。広大な敷地の倉庫なので、どこに何が置いているのか把握することは大変です。

私はフォークリフトが製品を掴んだ時に、紙ラベルの印刷画像から自動的に情報を識別するIoTカメラユニットを考案しました。また、人工衛星→GPSの原理を応用して、天井に貼り付けた紙に印刷したマーカーを全天球カメラが捕捉して、3次元位置座標を測位するという富士通の技術を組み合わせて、フォークリフトがどこに何を移動させたかを記録できるプロトタイプを2018年に開発しました。

全天球カメラの画像を使った位置算出方法

このデータを活用すれば、現場の見える化が実現できます。さらにフォークリフトの移動動線・作業プロセスをAIに継承させることで、熟練者でなくても作業が出来るようにして、人手不足の解消に役立てていきたいと考えています。また、データの開示レベルなどを業界全体で事前に合意することを前提に、将来製紙業界でこのサービスを広げることが出来れば、製品在庫がリアルタイムで分かるようになるので、共同物流・倉庫のシェアリング、業界全体のDXを進めていくことができればと思っています。

こういったニーズは製紙業界以外にもあると想定されます。まずは私自身が富士通で7年間担当してきた製紙業界で事業基盤を構築して、そのあとで他の産業用途にも展開していきたいと考えています。


―― この事業案を、あえて出向起業という形で行おうとするのはなぜでしょうか。

先ほどお話した「何か」ですが、私は「顧客の業界に共通的に存在している課題を解決するビジネス」ではないかと。例えば「個々の会社の枠を越えて在庫データを収集して物流を最適化する」というテーマは、富士通も顧客企業も投資が難しいのです。受託SI開発ビジネスが主流である富士通としては、顧客企業から依頼を受ければ対応できますが、顧客の事業領域に対して自らが直接投資することは困難です。また製紙会社もどこか一社がリードしてしまうと業界の中で角が立ってしまう。中立的な立場で私がこのテーマに取り組めば、製紙業界全体の生産性を向上させることに貢献できるのではないかと考えました。

ある製紙メーカーのご協力を頂いて、現場でのテストを重ね、技術的な課題をクリアし、かつニーズがあることを確認できました。あとは誰が事業主体となるかがネックだったところ、出向起業の制度を知り、この事業を進めるのにぴったりだと考えました。


―― 富士通に勤めて30年弱、ベテランならではのリソースや人脈を活用した事業だと感じます。

これは先輩達の功績なのですが、富士通の営業であれば、主要な製紙会社の社長や役員、業務を統括している管理者、現場で実業務をやっている方に直接お会いしてお話を聴けることが大きいです。製紙業界全体で在庫情報を共有しようという考えは、私のオリジナルなものでは全くありません。製紙業界の方々から教えて頂いたのです。30年前は難しかったかもしれませんが、現在の高性能なセンサー・IoT・AI技術を駆使すれば、実現出来るのではないかと期待しています。


製紙業界と出向元を巻き込んで、顧客の領域に一歩踏み込み、業界全体のDXにつなげていく

―― 今後はどのように事業を展開していく予定でしょうか。

まずはフォークリフトに搭載するIoTデバイスを進化させて、導入して頂きやすいレベルまで価格を下げることに注力していきたいと思います。

製紙業界の現実的な課題に踏み込んで、動くプロトタイプを見せながらアジャイル的にブラッシュアップしてゆく。これを実現化させるためには「事業化」して、そこから産み出された利益を機能開発に再投資する必要があります。だから私は富士通を一歩出て起業する必要があると考えました。継続的に収益があげられることを立証して、ベンチャーキャピタル等外部資金の調達を得ることで、さらにビジネスをスケールアップしていきたいですね。

―― 出向起業スタートアップとして、意識されている点はありますか。

私は中にいるからわかるのですが、富士通は凄い会社です。今回採用した「マーカー位置測位技術」もそうですが、社内には色んな面白い技術が転がっているんです。ただ残念ながらいまの時代は技術だけで差別化することは困難です。私は出向者で富士通社員であることは変わりないので、「事業化」という観点で、富士通の本当の底力を掘り起こしていきたいと思っています。


―― 最後に、経営者として事業を始めるにあたっての意気込みをお聞かせください。

あえてリスクを負ってこのようなことを始めるという点で、正直、私は富士通の中ではちょっと変わっていると思います。富士通では前例のない「出向起業」という取り組みに対して前向きに応援して頂いた、人事・ライン上司の方々には深く感謝しています。

自ら会社を経営するということは、これまでとまったく違う次元の世界だと思いますが、私が2014年から取り組んできたテーマを実現化させていきたいと思っています。


野正 竜太郎(のまさ りゅうたろう)氏

1992年富士通株式会社入社。
国内営業部門にて大手製造・流通業を担当。鉄鋼業、小売業、食品製造・卸(青果・魚市場)、清涼飲料メーカ、石油元売を歴任。
現在製紙業に対して、基幹システム統合化による業務改革、プロセス制御システム、工場生産管理系システム、SCM最適化システム開発の提案活動に従事。

「屋内位置測位ビッグデータビジネス推進」について

今後ドローンやロボットなどが社会でより一層活用されるためには、衛星のGPS無線信号が届きにくい、建物内においても正確な位置を把握するための、屋内位置測位技術が必要となります。

位置測位の手段としては、BLE(Bluetooth Low Energy)、RFID、無線LAN(Wifi)、音波、地磁気などが採用されていますが、当社は画像処理(紙に印刷したマーカーを起点情報として)を活用したサービスを開発しております。

本事業においては、Visual SLAM技術と組み合わせて、導入する際の手間とコストを削減し、さらに高速で移動しても正確に位置が把握できるサービスの開発に取り組みます。

■会社概要
・問い合わせ先|info@eyeforklift.com
・WEBサイト|https://eyeforklift.com

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