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スタートアップと大企業が同じ目的意識で連携し、核融合という新領域を開拓する

経済産業省が実施する『スタートアップチャレンジ推進補助金(スタチャレ)』は、大企業の人材がスタートアップ等での実務に挑戦し、課題解決に取り組む「スタートアップチャレンジ」の活動にかかる費用の一部を助成することで、大企業の人材への成長機会付与と、スタートアップの人材不足解消を支援しています。

核融合というディープテックのなかでも特に期待と課題の大きい分野の事業化に取り組んでいる京都フュージョニアリング。スタートアップチャレンジの出向スキームを活用し、プラントエンジニアリング大手の千代田化工建設から人材を受け入れています。

今回は、出向者である千代田化工建設 菊池様と、受け入れ側である京都フュージョニアリング 中原様に、人材交流の狙いについてお話を伺いました。

・出向元:千代田化工建設株式会社 菊池氏
・出向先:京都フュージョニアリング株式会社 中原氏

トップダウンで進んだスタートアップ出向

Q.千代田化工建設はプラントエンジニアリング事業を中心とする会社ですが、今回、なぜ核融合を専門とする京都フュージョニアリングへの出向をすることになったのですか。

千代田化工建設 菊池氏(以下、千代田化工建設 菊池) 私は千代田化工建設で大型プロジェクト遂行チームに所属していましたが、社内有志活動への参加を通じて自ら新規事業を提案したことをきっかけに新規事業やスタートアップ連携を推進する部署に所属していました。

自社では新規事業候補として複数テーマを調査していましたが、そのうちのひとつが核融合でした。私自身が核融合の分野に興味があり、自分で提案をして担当者として取り組んでいたのですが、より自分として、また会社としてこの分野に踏み込んでいくべきと考えていました。

会社対会社の関係としては出資や共同研究など様々なオプションがありえますが、具体的な一歩を踏み出すための社内稟議に時間がかかってしまいます。

人材交流であれば過去の実績もあり社内を通しやすく、また、核融合分野にある程度理解のある人材がいるという背景から、出向という形をとることになりました。

Q.スタートアップ出向の制度利用を実現するまでにどのようなプロセスがありましたか。

千代田化工建設 菊池 最初は京都フュージョニアリングとの面談の機会があったことがきっかけです。

千代田化工建設と直接核融合分野で協業できるテーマを検討する中で、まずは出向して具体的な業務で貢献しつつ、お互いの事業内容やシナジーが生まれそうな点を模索することが重要であるという考えに至りました。

最初に面談をしてから3ヶ月程度で具体的な連携の話がまとまり、その2ヶ月後には正式に出向することが決まりました。その過程でスタートアップチャレンジの制度を知り、活用していくことになりました。

Q.大企業の人事異動としてはかなりスピーディな意思決定ではないでしょうか。千代田化工建設としてはどのような狙いがあるのでしょうか。

千代田化工建設 菊池 京都フュージョニアリングのメンバーと千代田化工建設の経営陣に元々人的繋がりがあったことや、スタートアップとの連携を推進する部署がちょうど新設されていたことが大きいと思います。

また、社員の自発的なチャレンジに対して寛容な社内風土が醸成されていたことも重要です。トップダウンで話を進めてもらえたので、社内検討を非常にスムーズに進めることができました。

千代田化工建設としても京都フュージョニアリング社と連携を強めていきたいという背景はありますし、出資でなくても技術協業という形もありえると思います。

ただ、公開情報から連携できるポイントを探ることは難しいので、実際に京都フュージョニアリングのメンバーとして一緒に業務に取り組むなかで、具体的な協業等のアクションを進めることが私のミッションになっています。

出向の受け入れは、パートナリング戦略としてのひとつのオプション

Q.京都フュージョニアリングとしてはこの出向をどのような機会と捉えているのでしょうか。

京都フュージョニアリング 中原氏(以下、京都フュージョニアリング 中原) 京都フュージョニアリングは、核融合炉産業の構築および核融合炉のエンジニアリング会社になることを目指しています。

その点で、千代田化工建設とは相互に同じ狙いを持つパートナーという認識でいます。

資本的関係をもつことや、共同開発などの選択肢ももちろんありますが、出向はそれよりもライトに協業を始められるオプションです。もちろん、資金調達のタイミングや金額規模等、双方の都合があえば可能性を考えていきたいと思っています。

また、リソースが限られるスタートアップとして人材獲得という点でも魅力的でした。

スタートアップでフルタイムの人材を採用することは慎重にならざるを得ません。企業側では人材の入り口のリスクを低減でき、人材側にとっても、元の所属に戻れるというセーフティネットがあることから、相互にメリットがあるといえるでしょう。

Q.大企業やスタートアップが、このスタートアップ出向の制度をどのような狙いとして捉えると、より社会で広く活用が進んでいくのでしょうか。

京都フュージョニアリング 中原 大企業からすると、スタートアップへの出向には3つの狙いがあるのではと思います。

①協業を見据えた検討の加速のための渉外要件として、②人材教育としてスタートアップの働き方を学んでもらう研修として、③事業を知るための情報収集手段としてです。

京都フュージョニアリングでは核融合を通じて日本に新しく産業を作ることを目標にしており、広く色々な産業の会社と関係を構築していきたいと思っています。プラントエンジニアリングはそのひとつの領域として考えていました。

そこで、千代田化工建設から「①協業の加速」を狙いとした検討をいただいたことで、当社としても非常に有り難いお話として捉えています。

ただ、パートナーとしての会社と出向者の選定は重要です。このように会社として協業を考えていきたい事業者であり、かつ、出向者個人のスペックが高く業界に対する専門性と業務に対する主体性があることが条件です。

スタートアップに組織的な育成能力は期待頂くべきではないので、自走して価値を発揮してもらえる人材でないと難しいでしょう。「③情報収集」だけの目的では狙いを果たすことは難しいと思います。今回も菊池さんとは5〜6回面談をして、お互いに熟考したうえでの決定です。

千代田化工建設 菊池 プラント業界ではプロジェクトが大型化するにつれ、若手のうちからプロジェクトマネジメントを経験できる機会が不足しているという課題があります。

千代田化工建設としてはもちろん協業の加速が重要ですが、それに加えてルーティン化した業務をこなすのでは無く、主体的に新たな挑戦に挑む経営人財を育てることも狙いの一つです。自社社内だけでは経験できない挑戦を、短期間で多く経験出来るスタートアップ企業への出向は経営人財育成における一つの有効な手段という認識を社内で広げていきたいと思います。

出向先の京都フュージョニアリングでプロジェクトマネジメントを担当していますが、経営がわかる専門人材となるために、こうしたスタートアップでの経験は貴重なものになります。企業としての狙いが明確になっていることと合わせて、個人のキャリアの形成における非連続な成長機会としてスタートアップ出向は活用していけるはずです。

スタートアップでの経験が評価される社会に

Q.企業と個人それぞれの狙いが、大企業とスタートアップで相互にすりあうことが重要なのですね。こうした人材の流動をより促していくために必要なことは何でしょうか。

京都フュージョニアリング 中原 スタートアップでは、大企業と比較して制度をはじめとする働く環境が十分整備されていないことが多々あります。逆に、それは大企業には希少な業際的な仕事が多く、組織を作っていく仕事があるとも言えます。

そのため、そうした環境を楽しめるマインドを持っていると頼もしく感じます。

最初は菊池さんのようなハイスペック人材のほうが受け入れもしやすいのですが、今後、出向者が10人、100人と拡大していくようになれば、ルールを整備し受け入れ体制を構築していくことが必要になります。これが実現すれば多様な人材を出向という形でスムーズに受け入れられるようになると思います。

一方、大企業側には出向者に対する評価をしっかりと考えていただけると良いかと思います。

出向先での活躍は出向元が評価する必要がありますが、一般には評価はステイというケースが多く見受けられます。しかし、社員のスタートアップへの出向が、自社の事業の成長や人材の成長に寄与するということがわかれば、より積極的に人材を外に出し、その経験を評価していくことになるのではないでしょうか。

人材の流動性が高まっている昨今、1社単独でキャリアを形成していくということが当たり前の時代ではなくなっているかと思います。

様々な経験の機会を積極的に創り、評価していただけるようになれば、人材が常時枯渇しているスタートアップサイドにも、社員に重厚な経験を踏んでもらいたい大企業にとってもメリットがあります。これから大企業とスタートアップの人材交流はより活発になっていくと思います。

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イノベーションの担い手たるスタートアップや中小企業は、その成長過程で「人材や経営資源の確保の壁」に直面しています。一方、大企業では優秀な人材を確保していても、新規事業を機動的に動かす機会を提供しづらく、事業ポートフォリオ組み替え等の担い手人材・次世代リーダーの育成で苦労している状況にあります。

そこで経済産業省では、大企業の若手・中堅人材等がスタートアップ等の実務に挑戦し、成長過程での課題解決(戦略立案・事業提携・海外展開・組織整備等)に取り組む「スタートアップチャレンジ(通称:スタチャレ)」の活動にかかる費用の一部を助成する『スタートアップチャレンジ推進補助金』を行うことで、人材への成長機会付与と、スタートアップの人材不足解消を支援しました。

本事業で行われた大企業人材100人を超える『スタチャレ』 の成果をまとめ上げ、人事戦略、事業戦略において示唆に富んだレポートを下記に公開していますので、ぜひご参考ください。

■【成果レポート】スタートアップチャレンジ
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