【出向起業|体験談】ターンザタイド株式会社 COO 鈴木 俊一郎
直接的な経営課題解決に向き合うための出向起業
―― 出向起業に至った経緯を教えていただけますか。
鈴木 2011年に静岡銀行へ入行後、支店で法人営業を担当した後、法人部、地方創生部で主にビジネスマッチングに従事していました。ここでいうビジネスマッチングは、企業同士の受発注のマッチングに加え、外部企業のサービスをお客様に紹介して、ご成約したら外部企業から手数料をいただく業務が中心でした。そうしたなか、銀行員はお客様の企業の歴史・社長・従業員に関与し、課題を良く理解しているにも関わらず、あくまでコーディネーターの役割に留まることが多く、より直接的な経営課題解決に踏み込めないことに悔しさを感じていました。
銀行で働くうえではルールや規定が重要であり、ルールや過去事例が当てはまらないことや、新規ビジネスを起こすという発想にどうしてもなりにくい面があります。私は機会に恵まれましたが、大半の若手行員は日々の営業に忙殺されて、中々そんな機会もありません。銀行ならではの立ち位置でビジネス構築につなげることが重要という思いを持って、今に至っています。
―― 代表の三宅様はいかがでしょうか。
三宅 私は新卒でメガバンクに入社し、法人取引を約7年担当していました。ベンチャー企業との接点も多かったことからIPOに興味を持つようになりグループの証券会社のIPO部門に異動させてもらったのですが、私自身は経営経験がないのに、経営者に対して助言をしていることにずっと違和感がありました。この違和感を払拭する為にも一回経営を経験してみたいなと思っていたところターンザタイドの株主であるベンチャーファンドの方からターンザタイドの代表のお話を頂き転職、現在に至ります。
鈴木 私も含め銀行員は、決算書を読めても、帳簿の作成や給与計算の経験もないのに企業の経営相談に乗っている訳です。「お前に何が分かるんだ」と経営者は思っているのではないかと、いつも想像していました。起業した今、経営者の皆さんの凄さを身に染みて感じているところです。
―― ターンザタイドの創業に至った経緯を教えていただけますか。
鈴木 出向する1年ほど前、事業企画の部署で新しいローンやアセット活用のビジネスを企画する業務に携わる中で、地方企業の困りごとを解決する事業ができないかと考えるようになり、関係のあるベンチャーファンドからの協力も得ながら兼任という形で事業のシーズ探索をしていました。例えば、製造業が盛んな静岡の特性を活かして、事業規模の縮小で余った製造機械を引き継いでくれる企業のマッチングサービスや、外国人技能実習生受け入れ企業向けの支援サービスなどを検討していました。
ただ、銀行とのつながりを強みとして発揮できるのは財務面の支援であることを改めて実感し、バランスシート改善サービスや、ただ提携先を紹介して終わるのではなく、一緒に事業を作っていくところまでフォーカスしたビジネスの検討へ徐々にシフトし、今回の事業アイデアに辿りつきました。
若手行員には課題意識を持ちながら働く姿を示したい
―― “出向起業”に応募するきっかけはあったのでしょうか。
鈴木 出向起業の採択事業になることで、当社の信頼性は向上し、ベンチャー企業として知名度がない点をカバーできますよね。それは協業先の拡大やお客様との交渉等を行ううえで優位に働くと考えたからです。
また、私自身がこの制度に応募したこと、起業に至った経緯や思いを発信していくことで、所属元である静岡銀行の若手社員に対して、新規ビジネスの着想が身近にあることや、課題意識を持ちながら働くことの重要性を共有したいと思ったからです。
―― 今回実施される「バランスシート改善」サービスについて教えていただけますか。
鈴木 企業の経営者は金融機関や信用保証協会からバランスシートをきれいにするように言われますが、経営者、特に中小規模のオーナー企業の経営者の方で、その“きれいにする”方法が分からず、M&A、後継者への事業承継、追加融資などの場面で障壁となっているケースや、経営の非効率化を招いているケースが多々あります。
そういった経営者の方々に対し、長期滞留している債権などを回収する支援(債権のオフバランス)を行うのが「バランスシート改善」サービスです。例えば、バランスシートにずっと残ったままの他社への貸付金の整理を支援するなど、銀行ならではの課題認識からスタートしており、これを私たちがビジネスとして実行することに新しさがあると考えています。
―― この課題は多くの方が持つものなのでしょうか。
鈴木 バランスシート上でそのままにしていても、すぐには困らないケースもありますので、そこがこの課題の根深いところだと思います。順調な時は問題がなくても、業績が悪化してしまった時に、各種指標の悪化としてバランスシートの課題が表面化しますし、事業承継やM&Aのタイミングになって、その課題の重要性に初めて気づく方も多いのではないでしょうか。
三宅 このサービスを私たちがやろうと考えた理由の一つでもあるのですが、銀行と貸付先という関係では、長期滞留している債権の相談をフラットにすることは難しいんです。経営者側は、審査上マイナスになるんじゃないかと気にして情報開示に消極的であり、ここが企業側も銀行側も立ち入りづらいパンドラの箱で、そこを一緒に開けていく、企業の本当の経営課題を探りにいくことにつながると考えています。
―― パンドラの箱を開けるのはまさに変革のタイミング、そこに敢えて立ち入ることでより深いサービス提要につながるんですね。
鈴木 経営の効率化には間違いなくつながります。企業の経理担当者からは、ぜひやりたいと言っていただいていますが、経営者自身はただちに対応が必要と思っていないことも多く、なぜ必要な作業なのか、大変なのかを認知してもらえていない、うまく説明や説得ができていないのが現状です。
ただ、ニーズは十分にあると確信していますし、我々のサービスを受けていただいたお客様とは密な関係構築ができている自信があります。「バランスシート改善」サービスを足掛かりに、イノベーション支援やSDGs支援といった、より深いコンサルティングサービスを仕掛けていきたいですね。
お客様企業の”ラストワンマイル”を担う存在に
―― ターンザタイドだからできること、“強み”はどこにあると思われますか。
鈴木 まず、静岡銀行グループの支援があることは大きいです。債権のオフバランスは信頼できる企業に任せたいと思う方が多いです。将来的には静岡銀行に戻ることも含めて頑張っている事業であることを説明すると信頼を得やすくなります。
地方銀行はお客様企業と何度も膝を突合せて面談し、深くコミュニケーションを取るラストワンマイルを担う存在です。このラストワンマイルは、大手Fintech業者等であっても太刀打ちできない領域だと思いますので、提携先を拡大しながらマーケットを広げて、将来的にはデジタルとアナログの強みを組み合わせたビジネスを作っていきたいです。
―― 企業版のふるさと納税に関する事業について教えていただけますか。
鈴木 近年、SDGsが重要視されるようになりましたが、例えば、静岡でいうと富士山の保全事業など、地方自治体が掲げる取り組みに対する支援姿勢を企業がうまくPRしていきたいというニーズに応える事業です。
三宅 企業と地方の双方にイノベーションを起こすには、地方自治体を巻き込むことがポイントだということを最近強く感じています。逆に地方自治体側も企業、ベンチャー企業との接点を持ちたいがつながり方がわからないという話をよく聞きます。そのつながりのための切り口として、企業版ふるさと納税を活性化出来たら良いと思っています。
―― 地方と企業をつなぐ役割を担うことで、ターンザタイドが目指すものはなんでしょうか。
鈴木 企業の経営課題解決や新規事業の創出等の局面では、外部の新しい知見を取り込むことが必要となりますが、特に地方企業の場合、なかなか最先端の技術等に接する機会に恵まれません。ここにベンチャー企業との協業がカギとなると確信しています。一方、ベンチャー企業も地方に進出する際、お互いの信用が形成されていないがために、最初につまずくケースが多く見られます。そういう場面で、地方銀行出身のターンザタイドが地方とベンチャー企業をつなげるハブの役割を担うことができると思っています。将来的には静岡県以外の地方でも私たちが窓口として全国展開を図り、スタートアップエコシステムと地域経済エコシステムを両立させる、そんな存在になりたいと考えています。
まずはターンザタイドを静岡銀行グループの中で存在価値を最も高められる形でExit、そしてこの事業で得た知見を活かして地方に経済循環を生み出していきたいと思っています。
そして静岡だけでなく多くの地方それぞれの魅力を引き上げられる企業になりたいというのが目標です。
―― 銀行で働いていた頃と出向起業をした今、心境に変化はありますか。
鈴木 ベンチャー同士の横のつながりでは、想いに共感してくれた人たちが損得関係なく協力してくれる関係が構築され、それがどんどん広がっていることが新鮮です。ベンチャー界ではこれが普通なのかもしれませんが、銀行員は良くも悪くも交渉相手として見られることが多いと思いますので、かなりのカルチャーショックでした。特に大企業で長く勤務されている方は、一度外に出てみて欲しいと思いますね。起業経験を通じて、自分がやりたいと思ったことを自身が決裁権を持って実行できる楽しさや難しさ、自分の想いに賛同してくれる人がどんどん集まってくる感覚を味わえるという醍醐味があります。
―― 大企業の方、特に固めの組織で働いている方向けにメッセージをお願いします。
鈴木 外に出ることで、自分自身の判断基準が変わりました。不確実性に過度に配慮することなく前向きに事業構築できることは楽しく、ベンチャーの方、特に同世代の経営者と話をしていると、世の中はこんなスピードでそれぞれが熱い思いをもって働いているんだということを実感します。これは外に出なければ絶対に味わえなかったことで、本当に一日一日をかみしめています。
三宅 外に一歩出ると、世の中では、いろんなことがとんでもないスピード感で動いているんだということを実感します。もし迷っている人がいたら我々の活動、事業がその一歩を後押しできるような企業でありたいと思っています。理想の将来像としては、提携する地方銀行に勤める若手銀行員が集まり、新しいことを共に考え、県を超えて地方を変えていける地方のハブの役割になりたいと思っています。
鈴木 俊一郎(すずき しゅんいちろう)氏
2011年静岡銀行に入行。約4年間の法人営業担当を経て、本部法人部(当時)に異動し、ビジネスマッチングや販促支援の職務を担当。
2017年に経営企画部へ異動。住宅ローンや法人分野等、様々な分野での新規事業企画の職務を経るなか、現在の事業の着想を得て2020年に出向起業。
「中小企業の財務内容改善・新規ビジネス・SGDs等に関する支援事業」について
地方中小企業のスムーズな事業承継等の経営課題解決を図るため、バランスシート(B/S)改善サービスの提供を開示。地方企業との深い接点を持つ地方銀行や士業等と協働することで、スピーディな事業拡大を目指します。
本事業では出向元である静岡銀行の取引先企業を対象としたトライアルを経て、相乗効果が期待できる協業先のネットワークを拡大していくため、サービス内容をわかりやすく説明するアニメーション動画CMを作成し、普及効果検証等を行います。
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