カーブアウトスタートアップとは|大企業におけるカーブアウトの意義と出向起業 #2
こんにちは。みらい創造機構の高橋です。
本連載の第二回目となる本記事では、出向起業に関連する「カーブアウト」及び類似の単語の定義について整理させて頂ければと思います。(前回の記事はこちら)
この記事をご覧いただいている皆様は、少なからず出向起業にご興味をお持ち頂いているのではないかと思いますが、Web等を検索頂く中で、カーブアウトや、スピンオフ、スピンアウトという単語を見かける機会はなかったでしょうか。
ビジネスの場でも、一緒くたにされがちな単語ですが、意外と皆様の中でもイメージする意味合いが異なるケースも少なくないと感じております。また、日々の出向起業等創出支援事業におけるメンタリングの中でも、質問を受けることが多くあります。
原則として、出向起業等創出支援事業を運営する一般社団法人社会実装推進センター(JISSUI)及び、我々事業化支援機関では、出向起業をカーブアウトの1種であると位置付け、改めて出向起業等創出支援事業における定義付け及びその意義について整理をしていきたいと思います。
1. カーブアウトの定義とそのメリット
マッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートにまとめてある定義(※1)では「The flotation of a minority stake of usually less than 20% (in the United States) of a subsidiary’s shares through an IPO for cash」とあり、ビジネスの実態に即して補足させて頂き、「既存事業を本体企業から分離し、社外の投資家からの資本参加を促し、新会社として独立させ、IPO(時にM&A)を通じたリターンの獲得を目指すこと」と定義したいと思います。
この際、「事業を別会社として独立させること」、また「第三者の資本参加を促すこと」が重要なポイントであり、そのメリットを整理していければと思います(次回の連載において、カーブアウトのメリットの詳細について議論できればと思いますので、先ずは触りの部分だけご説明させてください)。
第一に、「事業を別会社として独立させること」によって、スピード感を持って事業開発に取り組めるようになることが、カーブアウトの一番のメリットだと考えております。
企業にご所属の皆様は、日々の業務の中で意思決定プロセスが冗長であり、事業の進みが遅いと感じたことはありませんか。また、一度予算化した案件を取り下げ、別の方向性を選択する、つまりスタートアップで日々行われているピボットが難しいというご意見もよく伺います。
やはり本体企業のコア事業と、異なる環境にさらされている事業においては、同じプロセスで管理するのは難しいのかもしれません。
例えば、toB向けの製造業をコア事業としている企業が、toC向けのSaaSビジネス等の日々の仮説構築とアップデートのサイクルが頻繁な事業に取り組むことをイメージすれば、同じプロセスで管理するのは難しい気がします。
また、本体企業とは全く異なる、経歴や能力の人材を、柔軟に採用できるというのも大きいメリットのように感じます。多くの企業において、一つの事業を管理する責任者であっても人材採用の面で大きな権限を持つことは少ないのではないでしょうか。
また、近年ダイバーシティを重要視する会社が増えているとはいえ、それでもまだ画一的な人材採用が大多数を占めているように思います。
カーブアウトすることで、本体企業の採用戦略とは全く異なるペルソナの人材を獲得することができ、採用の意思決定プロセスの短縮も相まって、組織を必要に応じて拡大していくことができます。
それでは、「第三者の資本参加を促すこと」にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
一番は財務的なレバレッジ効果ではないでしょうか。ユーザベースのデータ(※2)では、凡そ10年前と比べて、国内のスタートアップの資金調達額は10倍以上に拡大しており、数十億、時に百億円規模の調達を実施するスタートアップも増えてきています。市況の変動はありつつも、近年ではスタートアップとしての資金調達が大企業の新規事業予算を上回ることも珍しくなく、我々のようなVCの資本を活用することは、事業拡大にとって現実的かつ有望な選択肢になってきているように思います。
また、カーブアウトする事業が本業のドメインと大きく異なるのであればあるほど、株主によるハンズオン支援の効果も小さくありません。
以上がカーブアウトスタートアップ設立において、良く議論される重要なメリットだと考えております。
上記に加えまして、出向起業に取り組む(又は活用を検討している)企業の皆様とディスカッションをする中で、HR上の課題解決としても強いご期待を頂いていると感じております。
多くの企業様において、近年若手層の職員を中心に離職が進んでいると伺っており、離職後の転職先がスタートアップであったり、また時に自身で起業する事例も増えていると認識しています。
そのような起業家精神をもった職員の起用先の1つとして、カーブアウトスタートアップ及び出向起業は良い選択肢のようです。端的に言ってしまえば、「どうせ辞めてしまうなら、マイノリティ株主として関係性を維持し、成功したときはファイナンシャルなリターンを得る、例え事業に失敗しても経験を糧にして会社に戻ってきて還元してもらう」という考え方のようです。
実例としても、出向起業等創出支援事業を通じて設立したスタートアップを、カーブアウトした元会社が買い取る事例(※3)も出てきており、職員の経営の実践の場としても活用頂いているようです。
2. スピンアウト・スプリットオフ/スピンオフの定義
続いて、カーブアウトと近しい意味合いで用いられることの多い、スピンアウト、スプリットオフ/スピンオフという単語の定義について整理したいと思います。
第一にスピンアウトは、上述のカーブアウトと同様にマッキンゼー・アンド・カンパニーの定義(※1)において、「Full flotation of a subsidiary by distributing subsidiary shares in the form of dividends to existing parent shareholders」とされており、元会社との資本関係を維持せず、独立した企業として別会社化することを指します。
カーブアウトとは異なり、独立した会社及び元の職員との関係性は断たれてしまうため、不採算部門の整理等に用いられることが多いように感じます。
一方、スプリットオフは同じく「Full flotation of a subsidiary by offering subsidiary shares to existing parent shareholders in exchange for parent shares」(※1)と定義されており、事業を別会社化し、当該新会社の株式と親会社の株式を交換し、親会社が減資をする。その対価として、親会社の株主が新会社の株式を取得する会社分割の手法を指します。
スピンオフも狭義の意味では親会社の株主に直接新会社の株式を交付することを指す場合もありますが、スプリットオフと同様に、元会社との資本関係が継続される会社分割の手法の1種として定義されています。
3. 最後に
最後に、端的にカーブアウト、スピンアウト及びスプリットオフ・スピンオフを、元会社との関係性で整理しました。
出向起業等創出支援事業では、元会社との関係性を維持し、かつマイノリティ出資に留めることで起業家のアントレプレナーシップにも期待する、という日本型の新しい起業のスタイルを支援しています。
それぞれの会社分割の手法ごとに、メリット/デメリットは異なりますが、ベンチャーキャピタルとしてカーブアウト及び出向起業は、元会社との関係性を維持することでこれまで培ったノウハウや技術、ネットワークを活用でき、またマイノリティ出資であるが故のスタートアップとしてのスピード感や起業家精神の醸成にも期待できる、という観点で大変有望な起業の手法だと感じております。
本連載をご覧いただき、少しでもカーブアウト、出向起業にご興味を持たれましたら、是非ともJISSUI及びみらい創造機構までお声かけください!
次回は、カーブアウトのメリットについてより詳細に議論していきたいと思います。
解説者 高橋 遼平氏
株式会社みらい創造機構:執行役員/パートナー
京都大学経済学部卒業後、三菱商事株式会社入社。建設業界向けクラウドサービスの事業開発に従事し、同事業のカーブアウトに貢献。 同社退職後、医療系大学発ベンチャーを起業し、大手事業会社へのM&Aを実現。 また、戦略コンサルティングファームのアーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社にて、新規事業戦略策定等に従事。みらい創造機構では、キャピタリストと投資先の経営支援に取り組むグロースチームを兼務。
東京工業大学 環境社会理工学院 イノベーション科学系卒業。博士(工学)
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