【出向起業|体験談】Fracti合同会社 代表社員 CEO 船本 洋司
“移動”の問題解決の研究を進めるなかで、移動の目的づくりの重要性に気付く
―― まずは船本さんのこれまでのキャリアを教えてください。
船本 もともと都市計画やまちづくりに興味があり、新卒で株式会社福山コンサルタントに入社しました。建設コンサルタントとして10年間ほど従事し、主に都市交通領域を担当していました。主な顧客は行政関係で、社会課題を都市交通で解決するという業務にはやりがいを感じていたのですが、社会課題が複雑化する昨今、行政・インフラだけで課題解決するのは難しいという現実も垣間見ながら、民間事業者としてビジネスで解決できることは無いかと、新規事業への想いを持ち始めていました。
新規事業に関わる最初のきっかけになったのは、4年前の社内の新規事業アイデアコンテストでした。まだまだその際の事業案は今とは全く違うものでしたが、コンテストへの応募を経て、私と中谷の二人がグループの新規事業開発と研究開発を担う株式会社SVI研究所へ出向となりました。3年間の出向期間の間に、人流データや購買データなどビックデータ解析手法の研究などを行い、帰任のタイミングでFracti合同会社を設立し、2022年4月から出向起業という形で新規事業開発に従事しています。
―― 今の事業案はどのタイミングで検討されていたのでしょうか。
船本 SVI研究所への出向期間中で形作られてきました。交通・MaaS領域の研究を行っていて、あらゆる”移動”の問題を解決しようとするサービスが存在するなか、地方都市において”そもそも外出する目的が少ない・動機が弱い”という課題には、有効なソリューションが存在しないことに気付きました。
都市交通という単独の分野だけでは地域のニーズの芯を捉えられないのではないか…というコンサル部門にいた際の課題感とも合わさり、移動の目的づくり、動機づくりの方が重要ではないかと、事業案を考え始めました。
―― 出向起業にて行う事業概要を教えてください。
船本 事業のミッションは、移動の”目的”を作ることで、”おでかけ”を増やし、あらゆる社会課題の解決に繋げることです。そこに向けて最初の取組として、日帰り~1泊程度のマイクロツーリズムに相当するおでかけをする方をターゲットとして、おでかけのメインコンテンツと組み合わせるサブコンテンツを適切なタイミングでレコメンドするサービスを検討しています。
例えば、自宅から少し離れたスタジアム等へスポーツ観戦に向かう方がいたとして、観戦後に何か美味しいものを食べたいなと思って、調べることがあると思うのですが、結局選びきれず、いつものお店、見知ったチェーン店になってしまうケースが多々あるのではないかと。そういう方に対して、地元ならではの飲食店や温泉とか、最初の目的地と相性がよくて関連性の高いサブの目的地を提供します。もともと予定していなかった目的地に辿り着けるという意味で、これを”おでかけランダマイズ”と呼んでいるのですが、自身のおでかけ全体の満足度が高くなるだけでなく、最初の目的地への興味がそこまで無い方でも一緒に誘いやすくなります。
―― どういったビジネスモデルになるのでしょうか。
船本 マネタイズ方法としては、ユーザーから会員費を受け取るモデルと、コンテンツ側から送客費を受け取るモデルの両方で検討中です。実際に地方のプロスポーツ団体などは集客に課題があり、おでかけのメインコンテンツとしての価値や集客力を、おでかけランダマイズで高めることができるか、まずは関東圏を中心に実証実験を進める予定です。
既存事業と切り離した意思決定が行えるように、出向起業というスキームを選択
―― 合同会社の設立に至った経緯を教えてください。
船本 3年間の出向期間中に検討を進めたアイデアをもって出向元企業に打診しました。事業化にあたり、出向先であるSVI研究所で進めるという話もありましたが、本業とのシナジーという点が論点となりました。
結論として、新規事業はスピードが命であり、外に出して意思決定プロセスを変えないと勝てるものも勝てないという点を理解してもらい、外に出る形で合同会社の設立となりました。意思決定構造をシンプルにするために、合同会社の法人形態にもしており、外部資金調達の可能性が見えたタイミングで株式会社化を想定しています。
―― 出向元との調整はスムーズに進んだのでしょうか。
船本 3ヶ月ぐらいは事業説明や交渉に時間がかかりましたが、社長からの後押しを含め、役員の方々にスピード感の重要性を認識いただき、そしてチャレンジすることを前向きに捉えていただいたことは大きかったですね。会社からは、我々にも新規事業が作れるという可能性を示して欲しいとポジティブな期待をいただいていますし、仮に失敗しても、その失敗経験を得ておくこと自体も、社としてはプラスだと考えていただいているようで、心強いです。
―― どういった体制で事業化を進めているのでしょうか。
船本 SVI研究所へ出向していた私と中谷の2名がそのまま合同会社にて実務を担っています。私は出向にてフルコミット。中谷は出向元と兼務出向で、1.5人体制という形です。
本事業では一旦シナジーは考えずに事業開発を進めるものの、PFIを担当するチームとは一部シナジーも生まれたりするため、本業へ活用できる部分は中谷を通じてフィードバックしていく役割分担となっています。
―― 少人数での事業立ち上げに苦労はありませんか。
船本 実働メンバーは私と中谷の2名で、大変になるかなと思っていたのですが、今思うとそれでよかったのかなと。特に初期のビジネスアイデアの解像度を高めていくフェーズでは、自分達で課題に向き合う時間が重要で、人がたくさん居ても逆に困っていた可能性もあります。早く事業を成長させて、もっと人が必要だと言い切れるフェーズに持っていかなければと思っています。
外に出て実感した、外部連携の重要性と、その意思決定ができる環境
―― 出向起業をして半年強が経過しましたが、これまでとどのような違いを感じていますか。
船本 自分が顧客や協業先と接して、回答を持ち帰らなくて良いこと、自分たちで意思決定できることが大きいと思います。
外に出て改めて気付いたのですが、社内調整ができそうかどうか…という基準で、色んな選択肢を無意識のうちに諦めてしまっていたなと。特に外部の人や組織との協業・連携については、非常にやりやすくなりましたし、自分達の意識も変わりました。
―― 今振り返って、出向起業前後でもっとこうしておけば良かった…ということはありますか。
船本 もっと早い段階で、起業家コミュニティに飛び込み、起業家と話す機会を持っておけばよかったなと思っています。外に出て、色んな方と協業することはスムーズになっていったのですが、それでもどこか内を向いていた部分があったかもしれません。最近、特に起業家の方とお会いする機会が増えて、起業家の当たり前にもっと触れておけば良かったと実感しています。
―― 事業に対する課題はどのような点でしょうか。
船本 情報を提供するというサービスは、地図、観光、飲食店検索等、色々サービスがあると思うので、それらとの差別化が課題になると考えています
我々の強みが活きると領域という意味でも、都心でいわゆるキラキラしたコンテンツを組み合わせるサービスではなく、地方、郊外といったエリア、パブリック的な要素が絡む領域で、共助的な価値観で地域を盛り上げようとしている方のコンテンツを組み合わせていくサービスの方が、我々の特徴が活かせると思っています。
―― 最後に、出向起業事業に採択されて良かったことなどあれば教えてください。
船本 出向起業として採択いただいたことで、より外部への説明がしやすくなったかなと思っています。
採択されてもちろんありがたかったのですが、応募にあたって、社内でも出向起業の応募を通じて、出向起業に対する認識合わせができたことや、ビジネスモデルの壁打ち機会を得られたことも価値ある経験でした。出向起業を検討されている方は、是非早めに事務局に相談することをお薦めします。
船本 洋司(ふなもと ようじ)氏
2010年に㈱福山コンサルタント入社。都市・交通領域のコンサルティング業務に従事。
2019年に同グループの研究機関である㈱SVI研究所へ出向し、人流データ解析技術を活かした新規事業の企画・立ち上げを主導。
2022年4月にFracti合同会社を設立。
「行動の冗長性をつくる、おでかけランダマイズ事業 」について
おでかけをした際、「もっとその地域を楽しみたいけど、目的地以外の場所が見つからない」という経験をしたことがあるとか思います。また、その地域の事業者にとっては、折角近くに人が来ているのに機会損失になってしまいます。
本事業では、おでかけのきっかけとなった目的地と相性がよく、嗜好にもマッチする”よりみち”情報を提供し、おでかけの体験価値を上げるサービスを提供します。
さまざまなコンテンツが揃う都市中心部ではなく、都市郊外部や地方都市へのおでかけをターゲットに展開し、おでかけ総量を増やしていくことを通じて、地域の賑わい不足や外出率低下といった都市課題の解決につなげていくことを目指しています。
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