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【勉強会レポート】自ら学び合う組織の作り方とは?学び直しを効果的にする組織文化の作り方とそのポイント

産業人材の学び直しを強く後押しする、共同講座創造支援事業費補助金の公募が2024年度も4月から開始しました。

この事業では民間企業主導の産業人材育成を後押しするため、企業が大学等の高等教育機関とタッグになり自社人材を中心とした学び直しを行う「共同講座」の設置を支援しています。

今年度で三年目になる本事業ですが、共同講座|調査報告事例集ページにも掲載している通り、過去二年間で40件以上の共同講座プログラムを採択・支援してきました。共同講座を実施される申請者の方々の「学び直し」プログラムの進化と、着実な政策制度アップデートにより産業の現場に活かせる深い学びを得るプログラムが年々増えていっているのを我々JISSUIとしても感じているところです。

今年度も引き続き、良い人材の排出ができるような良い講座を支援し、政策効果の最大化ができるように、昨年度実施し大変好評だった「共同講座勉強会」を今年度も実施しました。

昨年度のテーマは「効果的な大人の学び直しを行うには?」「社員の学び直しを企業価値に繋げるには?」という重要な二点。これらについて産業人材育成・人的資本開示の専門家をゲストに招き、講演と対話を通して共同講座の設計にあたりフォローすべきポイントをご紹介しています。ぜひ動画掲載しておりますのでご覧ください。

今年度は効果的な学び直しを組織として継続していくために「学び合う組織文化の作り方」をテーマに、申請を検討している方々向けの勉強会を開催しました。

今回の記事ではその勉強会のレポートをお伝えします。
(勉強会の動画は一般公開されております。本記事を読んで興味を持たれた方はぜひ動画をご覧いただくことをお勧めいたします。)

【登壇者①】
◾️井上亮太郎氏(慶應義塾大学大学院SDM研究科 特任講師/パーソル総合研究所主任研究員

大手総合建材メーカー(現・LIXIL株式会社)にて営業、マーケティング、PMI(組織融合)を経験。その後、学校法人産業能率大学総合研究所に移り組織・人材開発のコンサルティング事業に従事した後、2019年よりパーソル総合研究所主任研究員、2021年より慶應義塾大学大学院特任講師。研究領域は、人的資源管理論、人材開発・組織開発、感情心理学、感性工学。Well-beingやワーク・エンゲイジメントなど、人や組織の心理的側面の計測およびモデル化をベースとした研究に従事。

◾️猪股涼也氏(一般社団法人社会実装推進センター 理事)
慶應義塾大学理工学部卒。学部在学中にwebベンチャーを設立、その後同社を離れ、精密機器メーカーにて企画職に従事。 2018年に慶應義塾大学SDM研究科の修士課程を修了。 経済産業省補助事業「ものづくりスタートアップエコシステム構築事業」等のスタートアップ関連事業のコーディネートを行いながら、慶應義塾大学大学院SDM研究科・特任助教として、スタートアップビジネスにおける顧客価値のデザイン方法の研究や、スタートアップ領域の人材に関する研究を行っている。

※肩書等は、勉強会収録当時のものとなります。


「口だけ層」はなぜ発生するか?調査から見る大人の学び直しの実態

はじめに井上氏から産業能率大学齊藤弘道先生との共同研究として実施された「はたらくミドル・シニアの学びの実態調査」の概要を紹介がされた。これは働き盛りとなる35歳から65歳までの就業者に対して行われた「学び」に関する調査である。

まずは対象者が学び直しについて、やるべきと捉えているかという点だが、調査によると働く大人にとって学び直しは必要なもの・やった方がいいものとして認識されているようだ。

一方で、実際に自分が学び直しのための行動を起こしているかというと、7割以上の人が特に学び直しに関する行動を行ってはいない非学習層であるという結果になった。
この非学習層は学び直しの意欲によって、学び直しの意欲はあるが行動をしていない口だけ層と、学び直しの意欲もない不活性層に分けられる。意外なのは、この口だけ層が3割近くもいるということだ。

学び直しをする人を職場内で増やしていくためにはこの口だけ層に行動を起こさせることが重要だという。

では、なぜ行動に移せない人が多いのだろうか。井上氏は次に、学びについてどう考えているのかという働く大人の学習観の調査結果を紹介した。
調査によると、いくつかの「学習に対する思い込み」が存在することが明らかになってきた。

一つは、仕事と学習の関係性に関する思い込みである。

ほとんどの人が仕事のためには仕事の中で学ぶものであると考えていることがわかる。
また、モチベーションを保つためや仕事上成果を出すためにも短期的に成果や学習効果が出ないと嫌だと思っていることもわかる。

なかなかすぐに成果が出しづらい学びや、職場の成果に繋がりづらい学びに対して、腰がおもくなるのはこの辺りが原因にあるのかもしれない。

いくつかの学習に対する硬直的な思いが調査から明らかになったところで、井上氏は学習から遠ざかる効果を持つような思い込みとして、7つの「ラーニング・バイアス」の存在を紹介した。

これらのバイアスを持つことによって、学び直しを行うことは必要でありやった方がいいことであると思っているにもかかわらず、なかなか行動に移せないのではないかと井上氏は指摘する。
組織で学び合うような文化を作るために、なかなか学び直しの行動を取れない人を動かすためには、このバイアスを少しずつ壊していくことが必要なのかもしれない。

これを示すように、実際に学び直しに取り組めている人はこのバイアスが少ないことも紹介された。

さらに、業務時間外に学習に取り組んでいることを周囲に対してあまり言わない雰囲気があることも、調査によって明らかになった。井上氏はこれを「学習の秘匿化」という現象が存在しているとしている。

このように秘匿化が発生する背景として、「終業時間外に学び直しに取り組んでいることを職場の人が知ってしまったら、転職しようとしているのではと誤解されてしまう」という意見や、「わざわざ業務時間外に学び直しに取り組んでることに対して、周囲の人が関心を持たないのではないか」という実際の声が紹介された。

また、学習秘匿には前述の「独学」バイアスや、「タイパ」バイアスも影響する。

これらのように、学び直しに対しての思い込みやバイアスが作用して、実際に学びの行動化からは遠ざかってしまう。そこに加えて周囲の受容性があまり高くないことによって、実際に学び直しをしている人も学び直しの行動について隠すようになってしまうのだ。

大人の学び直しは効果があるのか?

次に、学び直し自体が効果を産むのか、成果に繋がるのかという視点から、調査の分析を紹介いただいた。

学び直しに取り組んでいるグループと学び直しに取り組んでいないグループの年収差をそれぞれ比較すると、同質のグループ間比較にもかかわらず学び直しをに取り組んでいるグループの方が年収が高いことがわかり、井上氏は学び直しは割に合うとしている。

また、学び直しは長く継続ができるほど仕事の成果向上と創造性の向上が見られるとのこと。調査では1ヶ月から30年以上までの学習継続について成果と創造性の向上を感じるかを調査していたが、確かに右肩上がりにそれぞれ向上していることがわかる。

また、近い視点として井上氏は「大人の学び直しはWell-beingを高めることに繋がるか?」という点についても分析を紹介した。

調査によると、学び直しを実施している方が働く幸せ実感をしている割合が高く、こちらも成果の向上と同様に、学び直しはWell-beingを高めると言える。

組織自身が、学び合う文化を作るためにできること

これらのことから、学びを行動に移せないのはいくつかの要因・作用がありそうということが示唆されつつも、それを乗り越えて学び直しを継続して実施していくことはその人の業務成果向上とWell-beingに繋がることがわかった。

では、学び直しを実際に実行に移すには、組織としてどのようなことをすれば良いのだろうか?

はじめに頭に浮かぶのが、「キャリアの危機感を煽る」という方法だ。「AIの進化・普及や国際競争等の環境変化によってあなたの仕事はこのままではなくなってしまう、だから学びましょう」と不安感を刺激して危機感を煽るようなやり方である。

しかしながら、井上氏によれば組織が危機感を煽ることは学び直しの行動化には効果がないという。
むしろ、周囲の環境や人間関係に着目したことにより学び直しの行動化に繋がる要素が示唆された。それが上司自身の学び直しである。

上司自身が学び行動をとっていることが、その部下の学習意欲・学習時間等へ好影響を与えるというのだ。これは、上司が学ぶと部下が学ぶ、といっていいだろう。

また、上司の学び行動のみでなく、仕事に対する振る舞いも部下の学び行動に影響を与える。総じて柔軟性が高く、新しい試行を歓迎してくれるような上司についた部下は学ぶようになるということだ。これらのことから、組織において部下を学ばせようとしたらまずは上司からと考えてもいいのかもしれない。

上司との関係性ではなく、自身の学習スタンスによっても学習行動にプラスの影響を及ぼすという。その最たるものが学びの自己認識である。
キャリアの自己認識、スキルの自己認識、学びの自己認識は全て学習意欲に対してプラスの関連があるのだ。

学習意欲を高め、学習行動を促進するために、今一度自身のキャリアやスキルを棚卸し、学び方のスタイルのなかでどれが自分に合うかを整理して見るといいのかもしれない。

さらに、これらのような学びの自己認識を高めるためには「学びの相談経験」「コミュニティ・ラーニング経験」がプラスに働くという。これは前述した「独力」バイアスからくる一人での学びや、学習の秘匿化とは真逆の内容だ。

すなわち、グループワーク・ディスカッションなどの複数人とのやりとりが必須の学びだけでなく、NPOや社会奉仕活動のようにコミュニティに関わる経験的な学びや、社内での選抜型の研修のように他の参加者と並走するような学習活動経験が、広く学びの自己認識にプラス影響をもたらすことに加え、そのような学びについて周囲の人に相談したことがあることも同様にプラス影響をもたらす。
学びの自己認識を高め、学習行動を促進しようと思ったら、周囲の人と学びについてコミュニケーションを取るべきなのだろう。

これらの調査のまとめとして、井上氏から「学び合う組織の全体モデル」が共有された。 

この図の通り、個人としてはまず「脱・学習バイアス」を行い、「キャリアの自己認識・スキルの自己認識・学び方の自己認識」を意識して高めていくことが重要である。そして外発的とあるが、自身の外部からもそれらに支援的である必要がある。例えば上司の振る舞いが影響し、上司自身が学んでいくような組織風土を作っていく、自分のチームが学ぶチームになってくようにすることが重要だ。さらに広がりを意識すると、会社全体として学ぶ人材をリスペクトし、自社だけでなく地域や業界でそういった機会を作っていくところまで考えることができるという。

最後に、井上氏の「多様な学びを奨励(許容)し、幾つになっても学び続けられる組織文化(ラーニング・カルチャー)を!」というメッセージで勉強会はしめくくられた。

終わりに:学び続けられる組織文化を作るには?

井上氏の講演ののち、共同講座補助金事務局のJISSUI猪股氏との対話セッションが行われた。セッションの中では猪股氏から「組織文化を作るのが重要なのは理解したが実際に担当レベルでは何から始めるべきか?」という質問が投げかけられた。

確かに、いきなり文化を作っていこうとしても初めの一歩がわからない。とても壮大な課題に取り組まなければならないようで、途方にくれてしまうだろう。
これに対して井上氏の答えは「簡単なもので良いので、まずは自身の部署の人たちと自分がしている学び直しの共有のようなローカルルール作りから始めてはどうか」ということだった。確かに文化を作るためにルールを作ったり、理念体験を作っていくことが文化を作る一手になりうるが、会社制度に手をつけてしまうと話が複雑になってしまう。一方で、自分の所属する部署・チームの中でゆるい場として学びの共有会のようなものから手をつけていくのは非常にわかりやすいしやりやすい。
その影響が波及していけば、上司の学び促進にも繋がるかもしれないし、全社的な文化にまで広がるかもしれない。

共同講座のように学び直しのプログラムを設置していくのみでなく、まずは秘匿化されがちな職場の人たちの学びについて、相互のコミュニケーションを促す取り組みも併せて動かしていくことで、学びの機会が増え、学び合う組織作りに繋がっていくのだろう。


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