【実践】投資先不足に悩むVC必見、『客員起業家(EIR)制度』の活用ガイダンス
客員起業家(EIR:Entrepreneur in Residence)制度とは、起業を目指す人材が、VC・事業会社等に一定期間所属し、そのネットワークを活用しながら起業を目指すための社内制度で、海外のVCを中心に活用が進んでいます。
起業家にとっては起業準備期間のセーフティネットや、起業経験者の新たなキャリアとして機能し、企業にとっては社内には無い経験・ノウハウを活用して、新規事業創出や社内改革を推進します。
そこで経済産業省の「客員起業家活用企業等実証支援委託事業(令和3年度補正)」で行われた『EIR活用にかかる実証事業(リンク)』の成果を踏まえて、事業者毎のEIRの活用パターンを改めて整理しました。
本記事では、VC視点でのEIR活用の3パターンを解説します。
“経営者不足”を解決するEIR活用
『EIR活用にかかる実証事業』において、申請事業者のうち最も多かった属性はVCでした。
これは、起業準備中の人材との接点を有することや、VC自体が起業準備中の人材プールとして機能していた面もあることから、EIRと相性が良いということを示しているのではないかと思います。
VC事業者が共通に感じている課題は、”経営者不足”です。特にディープテック領域において、技術シーズはあっても経営者がいない…というケースは多く、VCが投資をしていくうえでのボトルネックになっています。
では、経営者候補と技術シーズをマッチングすればよいかというと、すぐにプロのスタートアップ経営者として機能する、シリアルアントレプレナーのような存在は、日本ではなかなか存在しません。
大企業に滞留する人材をスタートアップに流動させるうえで、いかに起業未経験者をスタートアップにフィットさせるかも重要な課題となっています。
それらを解決する方法として、”EIR”というステップを用意する取組が始まっています。VCにおけるEIRの活用類型として、投資案件組成型、スタートアップスタジオ型、技術シーズ探索型、の大きく3つのパターンに分かれます。
これから起業を目指す人材の掘り起こしを行う”投資案件組成型”
投資案件組成型とは、起業準備中の人材に対して主に副業/兼業ベースで業務委託等を行い、課題仮説の検証や収益モデルの検証に係るプロセスを、キャピタリストが伴走する取組になります。
プレEIR期間として、報酬は発生しない(NDAのみ締結する)期間を経るパターンも存在します。EIRは、契約期間中の検証結果等を踏まえて、段階的にコミットを高めていき、最終的には起業を目指します。その際、VCは投資を検討する形となります。
スタジオの構想を事業化して起業する”スタートアップスタジオ型”
スタートアップスタジオとは、「同時多発的に複数の企業を立ち上げる組織」(※1)です。
開発・デザイン等、事業アイデアを形にする機能・人材が整備された組織で、事業仮説を連続的に構築・検証します。検証が進む事業仮説の中で、事業化を検討する案件が出てきた際には、その創業者候補となる事業推進人材をEIRとして採用し、事業化を進めます。
投資案件組成型と比較して、一定程度スタジオ内に特定領域に関する知見・事業構想が存在します。副業/兼業ベースで業務委託等でプロジェクトに参画し始め、徐々にコミットを高めていくというプロセスは同じですが、必ずしもEIRに当該領域の専門性を求めない点が、異なるポイントになります。
キャピタリストとしてのキャリアを経て起業を目指す”技術シーズ活用型”
技術シーズ活用型とは、ディープテック領域に関心を有する起業準備中の人材をキャピタリストとして採用し、キャピタリストとして主にSearch & Evaluation(技術探索・事業性検証)の業務を担当し、投資案件の組成を行いながら、自ら創業メンバーとして参画する案件を探し、独立起業していくというEIRの活用方法になります。
技術シーズの事業化という観点で、研究者との関係性構築など、他の類型よりも起業までに時間を要することが多く、フルコミットでの働き方を前提として、約1-2年間の期間雇用を行う事例が見られます。スタートアップ投資実務や特定技術領域の知識等を実務を通して学んでいく必要があり、VC側にもそれに対する教育体制が求められることとなります。
EIR活用に係る事例・課題を整理した「EIR制度の活用ガイダンス」
以上、事業会社にとっての2つの類型のEIR活用方法について解説しました。なお、経済産業省が実施する『EIR活用にかかる実証事業』では、これらの各類型において実証事業を行い、その事例やEIR制度の運用に係る課題等を整理して紹介しています。
下記にて、そのまま閲覧、ダウンロードできますので、ぜひご参照ください。
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本ガイダンスは、経済産業省の新規事業・スタートアップ向けの政策・計画と関連したものとなります。気になる方は下記リンクカードからチェックください。
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