【インタビュー】総合商社からスタートアップへ。自由な働き方・キャリアのための”テック系スタートアップ”という選択肢
スタートアップキャリア総研では、大企業人材が経験を活かしてスタートアップで活躍するネクストキャリアを考えるきっかけを提供しています。
今回は”総合商社”出身者にフォーカスを当てて、スタートアップでのキャリアの実態をお伝えいたします。
まずは、豊田通商で12年間勤務した後、水中ドローンを開発するディープテックスタートアップFullDepthに転職した鈴木さん、その転職を支援したOne Work大須賀さんにお話をお伺いしました。
奥さんとの共働きの継続を前提に、働き方の自由度が高いスタートアップへ
中間 早速ですが鈴木さんのキャリアについて教えてください。
鈴木 2009年から12年間、総合商社の一つ、豊田通商で働いていました。営業本部の企画総括部、買収直後のフランス子会社への出向、メーカーへの出向等を経験しました。プライベートでは2016年に結婚、その後子どもが生まれ、妻の職場復帰のタイミングで、半年間の育児休業を取得しました。
結婚し、子どもが生まれるタイミングで『LIFE SHIFT』を読んだ事などをきっかけに、自分のキャリアや働く意味などについて考え始めるようになりました。そこから、キャリア・働き方について書籍やセミナーなどで考えを深めたり、NPOのプロボノ活動を始めたりしました。その後、転職を決意し2021年4月にFullDepth社に転職しました。
中間 どういった観点で転職活動をしていたのですか?
鈴木 12年間の商社勤務で、非常に幅広い仕事を経験させてもらったと思っているのですが、いつまでも自分自身で意思決定をし会社、社会にインパクトを与えられていないように感じていました。なので、転職先は自分で意思決定し経営に直結するスタートアップに絞っていました。また妻との共働きが継続できることも条件の一つでした。
中間 「妻との共働きを継続するためのスタートアップ」という考えは、あまり聞いたことが無いですね。
鈴木 総合商社に典型的な「働く夫と専業主婦」のようなライフスタイルは限界があるなと感じました。「シーソーカップル(※)」という考え方もあるように、妻と私の双方のキャリアをバランスよく積み上げ、VUCAと呼ばれる変化の激しい時代を乗り越えていく必要があるなと。
総合商社からスタートアップへの転職、転職先の経営陣(同世代)の理解もあり、子供の保育園の送り迎え 等、育児・家事のために仕事を中断したり早朝・深夜に仕事をするといった、時間的に自由度の高い働き方ができています。妻も仕事に集中することもできているのでしっかりキャリアを積み上げられているようです。
開発メンバーが殆どの会社で、駐在や子会社立ち上げなどの「一人で全部やる」経験が活きる
中間 最終的にFullDepth社を選んだポイントはどこだったのでしょう?
鈴木 会社のビジョンに共感したこと、経営陣が魅力的だったことはもちろんですが、ほとんどのメンバーが開発サイドという研究開発スタートアップだった点です。ここなら、自身のビジネスサイドの経験・スキルで貢献できそうと思いました。
中間 HR支援の立場からみると、特にディープテック系やハードウェア系のスタートアップに総合商社出身者は親和性はあるのでしょうか?
大須賀 そういったスタートアップは、研究者の方が創業するケースが多いため、結果として創業チームにビジネス経験やファイナンスの知見が不足している事が多いです。優秀なビジネスパーソンが集まりやすいIT系スタートアップと比べて、人材採用も苦戦しがちですので、ビジネス経験が豊富な大企業人材、総合商社出身者などは特に重宝されやすいと感じます。
また、ハードウェアを作っている会社ゆえに、WEBスタートアップ等と比べてスピード感は少し落ち着いていて、比較的カルチャーギャップが少なく参画できる部分があると思います。
中間 いま、転職されてどのような商社時代の経験・スキルが活きていると思いますか?
鈴木 当初は主に海外展開という、グローバルな経験を活かすことを想定していましたが、現在は全社会議・経営会議などの運営、中期経営計画の策定など経営全般、国内の事業企画・マーケティング 等 の仕事にも携わっています。なので、感覚としては前職商社時代の、買収子会社・メーカーへの出向、海外子会社との事業企画といった経験で身についたスキルセットが活きているなと感じます。
モノをベースとしたビジネスに強い総合商社人材は、まずはモノができている(またはその可能性がある)フェーズかどうかは見極めるべき
鈴木さんのインタビューから、いわゆる商社出身者にありがちな「嫁ブロック」とは全く発想が違う、「シーソーカップル」といった観点がでてきた点が新鮮でした。
こういったケースが今どの程度の存在するのか、総合商社出身者特有の気を付けるポイントはないか、SHIFT(x)の総合アドバイザリーである、for Startupsの泉氏にコメントをいただきました。
中間 鈴木さんのように、総合商社勤務の妻帯者がスタートアップに上手く転職できているケースは多いのでしょうか?
泉 (特にDeepTech系スタートアップでは)まだまだ少ないと思います。鈴木さんの場合は好事例だとは思いますが、そうではないケースの方が多いと思います。肌感ですが、総合商社から(DeepTech系)スタートアップに転職される方の8割以上が独身者であり、妻帯者の場合は給与が下がる点を理解頂けないケースが多いのではないでしょうか。
また、総合商社といっても、海外駐在や子会社立ち上げといった事業開発経験が得られる人ばかりではありません。鈴木さんのように社内でしっかり立ち回り、結果を出し、自分のキャリアにつながるポジションと得てきたような人こそ俯瞰力を伴ったビジネススキルがある人であり、スタートアップでも活躍できる人といえるでしょう。
中間 ディープテック系、ハードウェア系への親和性という観点では如何でしょうか?
泉 海外事業展開など一定の親和性はあると思います。とはいえ現時点で転職事例数は多くありません。そもそも海外と比べても(DeepTech系)スタートアップ数が少ないこと、そしてやはりスタートアップの技術や目指す社会インパクトに対する質の高い情報量(エージェント含む)が少ない点がネックです。
逆に”ロマン”を語れる宇宙系スタートアップにはメディアも取り上げ始めており、それなりの流動性が出てきているのではないでしょうか。
総合商社→テック系スタートアップの転職での失敗事例として、プロダクトができる前のフェーズで参画してしまい、売りたいのに開発が追いついていない…といったケースがあります。こういうケースは結構早めに離職してしまい、もう少し開発が進んでいるスタートアップに転職したりしていますので、モノを売るのがプロの商社マンは、自身が活躍できる事業フェーズかどうかを見極めることが重要です。
また、その会社を立ち上げた研究者(採用する側)のスタンスも重要です。
そもそも研究者自身が研究至上主義でビジネスを軽視していると、せっかくジョインしてくれたビジネスメンバーと会話が成り立たず、早期離職を繰り返す組織になってしまいます。
その点は面接時に絶対条件として自身で面談担当者の人間性を含めスクリーニングしつつ、開発及び事業フェーズの確認やその技術理解ができるかどうか、そして自身の原体験と事業の関連性が高いかどうか…などで、新天地を選ぶようにすると良いのではないでしょうか。
総合商社出身者のスタートアップ転職のリアルをお伺いすることができました。テック系スタートアップでの活躍のポテンシャルはあるものの、現時点では「嫁ブロック」の問題が大きいなか、スタートアップの自由度の高い働き方によって、夫婦のあり方自体を変えていく必要があるのかもしれません。
なおスタートアップキャリア総研では、今回のインタビューにご協力いただいたFullDepth鈴木さん、One Work大須賀さんを招いたパネルディスカッション 「 総合商社出身者がテック系スタートアップで働くキャリアプランとは 」 を開催いたしました。当日のイベントレポートは下記にて公開中です。
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