【林業×高付加価値化】用途のなかった森林素材を製品化して経営課題を解決する
森林は、国土の3分の2(林野庁の統計を参照)を占め、防災、治水、生物多様性など、多面的な機能を持ち、文字通り日本を支える重要な資源です。しかし、林業従事者数の減少・高齢化などを背景として、今後異分野の新しいアイデア・技術等を導入・活用していく取組が重要視されています。
以前、林野庁実証事業の事務局として当社(一般社団法人社会実装推進センター:略称)が作成した『ガイドライン』をサクッとご紹介しました。
今回は、上記ガイドラインで紹介されている森林を活用した『価値の生み方のパターン』の6つの内の1つである『未利用素材活用』について、新規事業開発の実例も踏まえて詳しく、わかりやすく解説していきます。
森林・林業関係者の方はもちろん、異分野事業者のみなさんに森林・林業分野に興味を持っていただけますと幸いです!
ぜひ、ガイドラインを片手にご覧ください。
新たな価値を創出する『未利用素材活用』とは?
『未利用素材活用』による価値創出は、森林伐採時に使われなかった木材や、森林に放置されている木の葉などの『未利用素材』を収集し、それらを活用して ”高付加価値” な商品を製造・販売することで新たな価値を生み出す手法です。
この手法では、基本的に本来は用途がなかったいわゆる ”価値の低い素材” を活用するため、異分野事業者がもつ『高付加価値の商品作り』のノウハウを活用し、展開する商品の価値をどれだけ高められるかといった、ブランディング・マーケティングの領域が重要です。
『未利用素材活用』の課題
『未利用素材活用』における課題は、大きく2つ挙げられます。
1つ目は、本来は用途がなかった素材を活用するため、高価格帯の製品の作り方と販売戦略に精通したプレイヤーが必要であることです。未利用素材の収集・運搬は一般的な木材以上にコストがかかるため、単価が低いと収集・運搬コスト側もどんどん上がってしまい、結果として損益分岐点を超えられません。
この手法における製品づくりでは、「価格設定を最初に行う」ことがポイントの一つです。最初から高価格帯商品をベンチマークにして、それに応じた商品設計・営業戦略を立てられる、マーケティングに長けている存在が求められます。
また、この手法は薄利多売なビジネスモデルではないことから、少ない生産量で付加価値を追求する『小さい林業』との相性が良いとされています。
そのため、2つ目の課題は、小さな林業プレイヤーの限られた資本力と比較的不安定な収入を考慮した体制構築が必要であることです。
まずはじめに、連携する林業従事者の『季節単位の繁閑』および『日単位の繁閑』についてよく知っておく必要があります。前者は地域や業態ごとに繁忙期は異なっており、後者は天候に左右されるため、多岐にわたるパターンを想定して体制を検討することが求められます。
また、繁閑期だけでなく、林業事業者がもっている設備や人手不足に関する課題にも向き合う必要があります。
では、実際にどういった事例があるか、次の章より3つの実例をご紹介していきます。
【タンコロ×木材加工】VUILD社の事例
建築テック系スタートアップのVUILD株式会社(以下、VUILD社)は、地域の自伐型事業者(土地の経営・施業を自らまたは山主と共同で実施している事業者)とデザイナーが協業してタンコロ(※)の活用方法を模索し自社製品を開発する『タンコロ活用プロジェクト』を発足させました。
自伐型事業者と連携してタンコロを回収したVUILD社は、タンコロに興味をもった建築家・デザイナーを巻き込み、その活用方法を探る『タンコロハッカソン』を開催しました。
このハッカソンでは、地域の林業事業者とデザイナーが共同で製品企画を実施。VUILD社の持つデザイン・加工ツールによって林業事業者自らが製品を製造・販売することで、収入アップに繋げることができました。ここで林業従事者は、”素材提供者”ではなく”共同開発者”として、自ら単価を上げるために主体的に企画に関与している点がポイントです。
また、VUILD社は、林業事業者自身で製品を製造することを可能にする、新たな設備や技術の開発にも取り組んでいます。
通常、木工製品を製造するためには、素材を乾燥させる工程が欠かせませんが、製材所が保有する乾燥設備は大型化・効率化が進み、小ロットの乾燥を依頼するのが年々難しくなっていっています。ましてや、地域の小さな林業事業者が自ら乾燥設備を導入することも難しく、高単価・高品質な製品開発は新規参入が難しい状況にあります。
そこでVUILD社は、規模の小さな林業事業者でも導入できるような、低コストを重視した木材の乾燥工程を3つ開発しました。
その中にはサウナとしての体験型サービスとの兼用が可能な費用対効果の高い木材乾燥設備など、既存の機能に捉われないコスト重視設計により、小規模な林業従事者も導入可能な仕組みを実現しています。
【広葉樹 × デジタルカタログ化】Andeco社の事例
森林活用・木材利用に関するコンサルティングを行う株式会社アンデコ(以下、Andeco社)は、当時は用途が限られていた広葉樹林において、用材としての価値がある立木に電子タグを付与し、それらの種類・サイズ等のデータを登録した電子カタログ化を実施。広葉樹の多様な需要や用途を見出し、価値向上を図りました。
通常、「伐採前に広葉樹林がチップ材以外に使えるかどうかは分からない」というのが活用のボトルネックだったのですが、Andeco社は、「広葉樹に見出せる需要・使い方は選木者によって異なる」という観点から、高単価商品を扱うエンドユーザーを巻き込み、選木基準を策定。
その基準をもとに有用とされる広葉樹林に電子タグを付与し、それらのデジタルカタログ化を行いました。
作成したデジタルカタログを公開したことで伐採前に広葉樹林の価値を見える化でき、川下側のニーズに基づいた施策が可能になり、それまで社会課題となっていた『広葉樹林の放置や荒廃』の解決に資する仕組みとなりました。
【杉の葉・製材所灰を活用した土産物開発】foreque 社の事例
森林・林業が盛んな地域では、地元の観光・旅行事業者との連携が不可欠です。
熊本県阿蘇郡でアロマ・家具商品の企画・製造・販売を展開している株式会社Foreque(以下、foreque社)は、地元の旅館と協力して森林に放置されている未利用素材を活用したワークショップや土産物開発を行い、周辺事業者の収益向上を支援する販売協力体制を構築しました。
当時、地域の旅館事業者は、コロナ禍の影響により顧客単価の向上と人手不足に関する経営課題を抱えていました。
foreque社は旅館と連携し、すでに消費行動を起こしていることから購買確度が高いと考えられる観光客へアプローチできる施策を打ちました。
具体的には、森林に放置されている杉の葉から抽出したエッセンシャルオイルを活用したワークショップや土産物などを企画・設計し、体験価値向上に資する商品・サービスとして提供。旅館の顧客単価の向上に資する取り組みとなりました。
この企画においては、初期段階で星野リゾートの土産物など高価格帯商品の商品をベンチマークして、価格設定とパッケージをデザインした点も重要なポイントです。
さらにこの取り組みは、従業員自身に地元への愛着を持ってもらう機会にもなり、従業員の定着率を向上させることで、地域の旅館の人手不足の課題解決にも貢献しました。
このように、高単価の商品を販売するうえで、既に購買行動を取っている”観光客”にアプローチすることはとても重要で効果的です。加えて、森林・林業が盛んな地域においては地元の観光・旅行事業者との連携が必要不可欠であり、彼らの課題にしっかりと寄り添うことも重要です。
また、この取り組みにおいて、foreque社は旅館だけでなく、林業の新規就業者(地域おこし協力隊など)とも連携し、彼らに未利用素材の収集・仕分け業務を発注しています。
1日の時間を使うことは単価的に難しい『素材収集作業』ですが、林業事業者の中でもまだ収入が低い若手就業者や女性との連携が進みやすくなるよう、日常業務の”ついで”に実施できたり、天候に合わせて柔軟に作業できる建て付けにしたことにより、周辺事業者の課題解決と価値向上につながる、持続可能な協働体制の構築ができました。
『森林・林業分野における新事業開発ガイドライン』ダウンロードはこちら
今回紹介した事例も収録されている『森林・林業分野における新事業開発ガイドライン』では、本記事ではまだ紹介していない森林を活用した『価値の生み方のパターン』の詳細、他の事例も多数ご紹介しています。
画像下のURLより情報入力なく、無料でダウンロードできますので、今回の記事を読んで森林・林業分野に興味を持ってくださった方はぜひ一度、本ガイドラインをご一読いただけますと嬉しいです!
また、本ガイドラインの解説記事は本記事のほかに、「 #森林・林業分野における新事業開発ガイドライン 」のハッシュタグからも検索頂けます。
興味をもって下さった方はぜひ他の記事もご一読頂き、ビジネスの一助としていただけますと幸いです!
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