【出向起業|体験談】株式会社Prediction 代表取締役 大木 健一朗
サイネージ付き複合機本体を無償提供し、企業に直接リーチできる広告媒体として成立させる
―― まずは、事業の概要をお伺いできますか。
ひとことで言うと、広告収益で複合機本体を無償提供する事業です。具体的には『複合機を導入する企業』に広告ディスプレイ付きの複合機本体を無料で提供し、『広告主』に対して企業に直接リーチできる広告面を販売するという事業になります。この事業を通じて、複合機産業・広告産業の全てのお客様・パートナー企業にとっての『嬉しさ』のあるビジネスモデルを実現していきたいと考えています。
―― 複合機産業でどのような『嬉しさ』を実現するのでしょうか。
まず簡単に複合機産業の特徴についてご説明すると、複合機は光学・化学・機械・組み込み系といった日本が得意とする技術の集積で成り立っており、日系企業のグローバルシェアが7割もある日本を代表する産業の一つです。しかし、近年ではデジタル化により複合機の利用頻度が減ってきており、急速に市場が収縮しているという課題があります。
また、複合機ユーザーにとっても、デジタル化が進んでも紙をゼロにすることはできないため、使用頻度が下がった複合機本体を高額で購入またはリースしなければならないという課題があります。
今回の事業では、当社が複合機産業から複合機を購入し、広告配信を前提として当社がユーザーに対して複合機本体の無償提供を行います。そうすることで、複合機産業にとっては複合機収益の維持、複合機ユーザーにとっては気軽に複合機を導入できる『嬉しさ』を提供していきます。
―― では、広告産業側にはどのような『嬉しさ』を実現するのでしょうか。
B2B系の広告主にとって、法人向けに自社のサービスを効率よく認知形成する手段が不足しているという課題があります。当社は広告ディスプレイ付きの複合機を法人のオフィスに設置することで、オフィス内動画広告という新たな広告面を創り出し、B2B広告主が企業ではたらく人に対して効率よくサービスの認知形成ができるようになるという『嬉しさ』を提供したいと考えています。
起業経験を有する人材が、大企業リソースを使った新規事業を立ち上げるために中途入社
―― 非常に多角的に業界課題を捉えていると感じますが、これまでどのような経験を積んでこられたのでしょうか。
実は出向元の事務機器メーカーは5社目になります。それまでは大手自動車部品メーカー、上場・未上場のスタートアップ、自身での起業を経て、数年前に入社しました。
経験してきた業界は全く異なりますが、キャリアとしてはB2B系の新規事業・マーケティングが軸となっています。ファーストキャリアの大手企業では仕事や組織の仕組みを学び、スタートアップ・起業を通じて顧客課題の解決を通じて新しいサービスを生み出す流れを学びました。大手企業とスタートアップでの学びが今回の事業アイデアに繋がっていると感じます。
―― 現職への転職を決めた理由はなんだったのでしょうか。
自身が得意とする新規事業・B2Bマーケティングのスキルと複合機産業のリソースを掛け合わせて、新しいビジネスを生み出すことができると感じたからです。会社側もちょうど新規事業の芽を探していた時で、双方のタイミングが合致したということもあると思います。
特に、複合機はすでにオフィスのスペースを確保している強みがありますので、その強みを生かして広告事業が展開できると感じていました。
―― 複合機と広告という組み合わせ・アイデアはこれまで誰も思いつかなかったのでしょうか。
複合機に関わる方なら、誰しも思いつくアイデアです。ただ、このアイデアを実現している事例はありません。それは、『広告業界・複合機業界・各業界のユーザー』がそれぞれ抱える課題を理解・整理することが難しいからだと思います。
当社はすでに大手の広告代理店、大手複合機メーカーと提携し、顧客と対話をしながら事業化に向けて進んでいます。一見するとありきたりなアイデアですが、それを実現するためのハードルやノウハウが多々あり表面だけ真似してもうまくいかないことは歴史が証明しています。
社外のリソースを活用することを前提に出向起業を提案
―― 事業化にあたり、出向起業制度を活用された理由をお伺いできますか。
元々、この事業については出向元からスピンアウトして社外のリソースを活用しながら、迅速に進めていく形で社内提案を進めていました。ただ、大手企業からのスピンアウトは日本全体を見ても前例が少なく、社内調整にとても時間がかかっていました。
ちょうどそのタイミングで経済産業省の担当者の方と出会い、出向起業制度を紹介いただきました。経産省の制度としてスピンアウトが進められることは、社内調整上の大きなメリットがありました。また、知れば知るほど制度も非常によく設計されており、大企業のリソースを活用できる点、スタートアップとして外部資金を活用できる点、自由度高くアライアンスを拡げていける点など、現状に完全にマッチして「これしかない」と思い、出向起業に向けて社内調整を進めました。
―― 外部資金調達も計画されているのでしょうか。
既に複数のVCと面談を進め、資金調達の見込みも立ってきました。出向起業補助金も活用しながら実証を進め、トラクションを獲得し、その実績をもとに次の成長に向けた大規模調達を目指しています。
―― 貴社単独ではなく、アライアンスを軸に事業を進めていかれるのでしょうか。
もちろんその予定です。スタートアップにおいては、競争しないこと、リソースを自社の強みに集中させることが何よりも重要です。広告産業・複合機産業・リース会社など既存のパートナーとも連携しながら、投資家・顧客・パートナー・当社にとって嬉しさのある事業を実現していきます。
―― 最後に、新規事業への向き合い方・取り組み方について、大木さんのこれまでの経験を踏まえてお伺いできますか。
世の中的に「ベンチャーか、大企業か」という二元論で語られるケースが多いと思います。ただ、複数社を見てきた自身の経験から言うと二元論でどちらかを選ぶのではなく、事業フェーズに合わせてベンチャーと大企業の作法を使い分ければ良いと思います。
不確実性の高い時代においては、企業も時代に合わせて柔軟に進化していくことが求められます。企業が進化するためにはベンチャー企業のように顧客観点で小さく・早く仮説検証を重ねていく作法と、大企業の組織の仕組みやリソースを活用してスケールさせる作法の、両面を理解することが重要ではないでしょうか。
とはいえ、それぞれの作法を上手に使い分ける組織文化は少ないですし、強いリーダーシップがなければ組織文化の変革も難しい。現実解としては、新しいものを生み出す組織、新しいものを社会実装する組織を分けて進めていくことが良いと思います。その観点では、経産省の出向起業制度はとても良い仕組みだと思いますので、新規事業に取り組む方もそれを承認する方も積極的に活用してみてください。
大木 健一朗(おおき けんいちろう)氏
株式会社デンソー、ITベンチャー、自身での起業を経て、現職。
日本を代表する複合機産業・広告産業のビジネスモデルイノベーションを実現するために、『あたらしい、あたりまえをつくる』をミッションに掲げ、株式会社Prediction設立。
「オフィス内サイネージを活用した、B2Bマーケティングプラットフォーム」について
複合機は光学・化学・機械・ITという日本が培ってきた技術の結晶のプロダクトであり、さらに、グローバル市場シェアでは日本企業が7割を占めているという、日本を代表する産業の一つと言えます。
しかしながら、近年のペーパレスの加速により、印刷の利用頻度が減少するトレンドにあるため、複合機各社は事業転換を戦略に掲げています。
本事業は複合機のビジネスモデルイノベーションにつながる可能性がある事業であり、また、複合機を利用する顧客の嬉しさも多いサービスです。今回の制度を通じて世の中に変革をもたらすことを目指します。
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