高度人材の技術伝承を通じて宇宙の新領域を切り拓く
経済産業省が実施する『スタートアップチャレンジ推進補助金(スタチャレ)』は、大企業の人材がスタートアップ等での実務に挑戦し、課題解決に取り組む「スタートアップチャレンジ」の活動にかかる費用の一部を助成することで、大企業の人材への成長機会付与と、スタートアップの人材不足解消を支援しています。
誰もが宇宙に手が届く未来の実現を目指し、宇宙輸送サービスの開発・製造を行っているインターステラテクノロジズ。スタートアップチャレンジのスキームを活用し、振動試験装置の製造・販売で国内シェアトップであるIMVから出向で人材を受け入れているほか、現在では出資も受けています。
今回は、IMVから出向者である梅林氏と、出向の検討を推進した寺田氏、受け入れ側であるインターテクノロジズ 植松氏に、人材交流の狙いについてお話を伺いました。
宇宙事業拡大への足掛かりとなったスタートアップ出向
Q.IMVは振動試験装置の販売や振動試験の受託を中心とする会社ですが、今回、なぜ宇宙ビジネスを行っているインターテクノロジズへの出向をすることになったのですか。
IMV 寺田氏(以下、IMV寺田) IMVは、本取組の以前から人工衛星における振動試験のノウハウを強みとしておりましたが、その一方で宇宙産業のスタートアップとの繋がりは弱く、宇宙関連市場の伸展という現在の潮流を踏まえると、その市場に精通するスタートアップとの繋がりを強化し、宇宙領域で更なる足掛かりをつくりたいという思惑がありました。
そんな中、宇宙関連のイベントにてインターステラと出会い、インターステラがロケットに搭載する人工衛星に関して、何か自社から支援ができないかと話を持ちかけました。同社への支援は宇宙産業の成長に繋がり、ひいては特定分野で世界トップシェアを持っている自社の成長にも繋がる「三方よし」が実現すると考えたためです。
また、IMVは振動装置の業界トップシェア企業であるゆえに変化を嫌う風土があるのですが、スタートアップとの協業によってそういった企業文化の変革も期待していました。
インターステラテクノロジズ 植松氏(以下、インターステラ植松) 宇宙関連のイベントでIMVの寺田様と知り合い、「IMVとして何か手伝えることはないか」とお声がけいただいたことが取組のきっかけでした。
インターステラとして取り組むロケットの開発において、自社には知見のない「振動」という専門分野に重要性を感じたため、まずは無償のアドバイザーとして入っていただくことになりました。
Q.最初は無償のアドバイザーから両社のお付き合いが始まったとのことですが、スタートアップ出向の制度利用を実現するまでにどのようなプロセスがありましたか。
インターステラ植松 無償協力という枠組みで始まりましたが、IMVには実稼働をお願いしていたことから、金銭を支払う機会を検討していたところ、「スタートアップチャレンジ推進補助金」を見つけ、自社の費用負担を減らしつつ、IMVに依頼できる幅が広がればということで、制度を利用することにいたしました。
しかし、出向の定型プロセスや契約のひな型が存在しなかったため、労務・法務の管理や、給与設定などでは苦労しました。
IMV 梅林氏(以下、IMV梅林) IMVにとっても、金銭の発生有無に関わらず、民間企業に対してアドバイザリー的な関わり方をした事例はほとんどなく、挑戦的な試みとなりました。
狙いは、知見の活用から技能継承へ
Q.アドバイザリーから実際にインターステラテクノロジズで働くようになったことで、何か変化はありましたか。
IMV 梅林 現在は、IMVで働きつつ、週に1~2度インターステラに訪問するクロスアポイントの形式をとり、大きなロケット試験に関して、実験計画のレビューやプロジェクトマネジメントなどを行っています。
補助金制度を利用した出向という形で関わることができるようになったことで、ただアドバイスするだけでなく、当事者に近い形で実際に何をすべきか考えるようになりました。
試験方法や付随業務の細かい点まで確認し、気になった点は適宜議論するようにしているほか、直接スタートアップの担当者から悩み相談なども聞けるようになり、より距離が縮まったと感じています。
インターステラ植松 IMVの梅林さんは、長年の経験・ノウハウを活かして、振動試験に留まらず、ロケット全体の進捗を見てくださっています。彼の知見を借りることでロケット試験の準備を整えることができたため、本取組は大きな成果に繋がっていると考えています。
その一方で、梅林さんと同じレベルの知見を保有している人は日本でも数人しか存在しておらず、業界全体として後世への技能継承の必要性を感じています。
Q.技能継承の必要性という話が挙がりましたが、IMVの知見の活用や継承にあたって何か工夫されている点はありますか。
インターステラ植松 IMVの過去の失敗や経験にもとづいてアドバイスいただいており、基本的には受け入れるようにしていますが、どこまでその情報を受け入れて意思決定を行うかは、ヒト・モノ・カネとリスクとの兼ね合いで決めることにしています。
アドバイスを受け入れることが難しい場合には、どういうリスクが発生するか梅林さんと相談しながら意思決定しております。
IMV 梅林 自社でも、自分が持っているような知見が後世に継承されないまま失われることへの懸念があります。私が出向した後、IMVからインターステラにもう一名出向したのですが、その狙いとしては技能継承の意味合いが強いです。
出向から拓けた出資という選択肢
Q.知見を活用しつつ、お互いにメリットのある理想的な関係になっているのですね。2022年1月にIMVはインターステラに出資を行ったと発表がありましたが、出向の取組と出資は何か関連があるのでしょうか。
インターステラ植松 IMVとの人材交流を通して、両社でシナジーがあることが分かりました。特に技術系の会社であるインターステラにとって、事前にお互いの専門領域や保有しているノウハウを確認し、認識のずれがない状態で話を進められたことは大変有用でした。
出向の取組によって、出資の道が開けたと感じています。
IMV寺田 IMVは、何十年も同じものを製造・販売しているトップシェア企業であるため、「飛び道具を用いてしか飛躍的な成長は起こりえない」という思いを抱いていました。
その飛び道具として、他社の新しい文化を取り入れることが重要であると感じ、インターステラへの投資を社長に直談判しました。IMVは同族経営ということもあり、数十年先を見据えた風土改革にも前向きであったため、出資への意思決定は早かったです。
Q. IMVが本取組を通して企業文化の再構築をも見据えていることが分かりました。IMVでは、今後もこういった新しい取組を続けていくのでしょうか。
IMV寺田 今後は、モノ売りからコト売りへのシフトを目指したいです。
梅林さんのような稀有な技術ノウハウがある技術者の知見を求める企業に対する技術支援と、技術者の派遣・出向という2つのビジネススキームを考えています。スタートアップ出向はそのひとつの形ですので、今後も取り組んでいきたいと考えています。
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イノベーションの担い手たるスタートアップや中小企業は、その成長過程で「人材や経営資源の確保の壁」に直面しています。一方、大企業では優秀な人材を確保していても、新規事業を機動的に動かす機会を提供しづらく、事業ポートフォリオ組み替え等の担い手人材・次世代リーダーの育成で苦労している状況にあります。
そこで経済産業省では、大企業の若手・中堅人材等がスタートアップ等の実務に挑戦し、成長過程での課題解決(戦略立案・事業提携・海外展開・組織整備等)に取り組む「スタートアップチャレンジ(通称:スタチャレ)」の活動にかかる費用の一部を助成する『スタートアップチャレンジ推進補助金』を行うことで、人材への成長機会付与と、スタートアップの人材不足解消を支援しました。
本事業で行われた大企業人材100人を超える『スタチャレ』 の成果をまとめ上げ、人事戦略、事業戦略において示唆に富んだレポートを下記に公開していますので、ぜひご参考ください。
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