【イベントレポート】自分は本当に活躍できるの?大企業からスタートアップへの転職のリアル!
短期的な転職ではなく中長期的なキャリア形成の場として、スタートアップにチャレンジする人を増やすことを目的に開設されたCareer Academy。2021年9月10日(金)に開催された第3回講義の模様をご紹介します。(前回レポートはこちら)
登壇者の紹介
―― 西村 本日モデレーターを務めます、株式会社リフカムの西村です。早速ですが、本日登壇の3名の方からも自己紹介をお願いいたします。
大川 株式会社ローンディールの大川です。新卒で富士ゼロックス株式会社に入社し、ONE JAPANの共同設立などを経て、入社14年目に転職しました。現在のローンディールでは、大企業人材をスタートアップへ武者修行に送り出し、成長/覚醒してから大企業に戻すようなサービスを行っており、これまでに53社の大企業・約153名の挑戦者をご支援させていただきました。本日はよろしくお願いいたします。
今井 株式会社エクサウィザーズの今井です。株式会社キーエンスで12年働き、営業・マーケティングを行っていましたが、よりヒトに係る仕事がしたいと思い、神戸大学大学院でヒトが自発的に働く意欲を経営に活かせないかという研究を行いつつ、現在のエクサウィザーズでAIソリューションコンサル業を行っています。本日はよろしくお願いいたします。
外川 株式会社Laereの外川です。2021年に富士ゼロックスに入社し、企業の働き方改革に関わるコンサルやソリューション営業に携わりました。その後、デンマークのフォルケホイスコーレという成人教育機関に1年留学し、幸福度と競争力の高さを両立するデンマークをインスピレーションとした、企業や研究機関向けのリーダーシッププログラムの開発やグローバルリーダー育成支援を行っています。本日はよろしくお願いいたします。
テーマ①:「意思決定」についてのリアル
大企業からスタートアップへの転職の意思決定は三者三様。
―― 西村 それでは、テーマ①『「意思決定」についてのリアル』に移ります。3名の方には事前に、「ご自身の意思決定のタイプ」「転職の背景」「当時の不安・悩み」「現職に意思決定をした理由」「転職して通用したこと、通用しなかったこと」を考えてきていただきましたので、そのお話をいただきます。
大川 私の意思決定タイプは「事前味見&WILLドリブン型」です。自分がやりたいことを考え、一方で事前にしっかりと検討してから挑戦したため、「事前味見」と名付けました。
大川 転職の背景としては、これまで色々とやってきたつもりだったのですが、「他責ではなく自責で何をやりたいのか」を考えるようになり、3年程度、社外活動やプロボノを通じて模索し、WILLとの合致を感じられたローンディールへの転職を決断しました。当時の不安・悩みとしては、「富士ゼロックスへの裏切りではないか」、「富士ゼロックス社員としてできたこと、積み重ねてきたことを、手放さなくてはならない」についてためらいを感じていました。
自身の性格的に、悩み続けてしまうだろうなと気付いていたので、38歳の誕生日に決断することを事前に決めていました。転職を悩ませるあるあるとして「嫁ブロック」という言葉を聞かれると思いますが、私の場合「転職に失敗しても、私が養うから心配しないで」というまさかの妻からの助言をもらい、本転職を決断しました。
こうして自分自身を振り返ると、自分のWILLにまっすぐに向き合い、体現できる事業や仲間とともに働けることを重視していたのだなと再認識させられますね。
今井 私の意思決定タイプは「アンカー打ってからの偶発待ち型」です。キャリアを考えるうえでの譲れない価値観や欲求をキャリア・アンカーというのですが、そのアンカーを明確にしたうえで、「積極的にいく」というよりは「御縁を待つ」タイプでした。
今井 転職の背景としては、キーエンスの12年目でよくも悪くも先行きが見えてしまい、将来も勤めるべきかを悩みました。同時に神戸大学大学院での研究も楽しくなり、アクションを起こしました。
ちょうど自身で主催しているハタラキカタソニックというHRカンファレンスを通じてエクサウィザーズと出会いました。イベント後飲みに行く機会があり、いろいろな話を聞き興味を抱いてからは、とんとん拍子で転職を決めました。エクサウィザーズのスピード感と柔軟さは今思い出してもすごかったですね。
キーエンスに残った場合に次にやる仕事は面白い内容だと事前に知っていたため、転職か残るかのどちらを選択するか迷いました。ただ、妻の後押しもありましたし、年収は下がるものの今後10年の支出入を簡易に計算して問題ないことも確認して、現職への転職を決断しました。エクサウィザーズへの転職は、今後社会にどう関わっていたいのか、これが最重視された結果です。
外川 私は「腹落ち感重視型」です。石橋を叩きまくったタイプです(笑)
外川 前職の富士ゼロックスはソリューション(ITツール)を提供する企業ですが、その業務を通じて組織や社員のマインドセットも大事だと感じ、外部企業の組織に直接アプローチする部署への異動や、新たな知見を得るための海外留学を希望していたのですが、順番待ちや必要なプロセスの多さなど、大企業特有の事情に入社1年目で気付いてしまいました。
そのため、まずは現業をやり切ることを最重要視しつつ、転職が良いのか、転職するにしても海外勤務が良いのか、ビジネススクールが良いのかなど、徹底的に情報収集を行いました。
結果的に、デンマークの組織文化や働き方へのマインド設定に面白さを感じ、海外留学をしました。1年間の留学中にじっくり考え、自分の中で言語化ができたため、留学後からの転職はほとんど悩むことなく決断できました。
大企業で培われた基礎力はスタートアップでも活きる。慣れない0⇒1に戸惑う中、キャッチアップするだけでなく、自分なりの価値を見極める。
―― 西村 非常に興味深いお話、どうもありがとうございました。「転職して通用したこと、通用しなかったこと」について十分にお話できなかったことがあるかもしれませんので、補足いただけますでしょうか。
外川 「ビジネスマナー、ITスキル、大企業で物事を進めるときに相談する順番・根回しの考え方」は今でも役立っています。スタートアップでは自社の売上に一人ひとりが貢献するという感覚が大事ですが、前職の営業時の考え方は通用していると思います。
ただ、スタートアップは0⇒1フェーズが多く、ビジョンやコンセプトを作り伝えていくことが大事ですし、マンパワーが圧倒的に足りないため、「やったことがないものをやる、幅広いインプット、馬力」が必要になりますね。
大川 外川さんの話を聞いていると、富士ゼロックスの教育体制は良かったとつくづく実感します。私自身の経験からも、大企業でしっかりとした「頭の使い方、立ち振る舞い」を会得すればどこでも通用すると思います。
ただ0⇒1フェーズや土地勘がないことをやり遂げることはやはり難しいです。私自身、転職後すぐに本社移転の書類を出す業務に関わったのですが、バックオフィスのことは全く分からず、如何に周りがやってくれていたのかを痛感しましたね。
今井 大企業からスタートアップに転職するなかで、慣れない0⇒1フェーズへの適応が難しいのはそのとおりですね。スタートアップは新陳代謝が活発で、今日と明日で違う会社という感覚です。これまでの経験が適用できるかは必ずしもそうではありません。
ただ、私自身の経験をお話すると、中途で入社すると”キャッチアップしなきゃ”という意識が働きますが、これはすでにフォロワーの考え方になってしまっています。全部をやろうとしてもすぐにはできないので、ここで大事なのは、新卒入社のように一から全てを教わるのではなく、中途入社であっても自分がどんな価値を出すべきかを見極めること。これを考えた瞬間に、やることが明確になりました。
転職の意思決定を類型化すると、計画型や苦悩型など様々な要素が混ざっており、即断即決では決められてはいない。
―― 西村 自分の価値を見極めるというのはまさにそのとおりですね。スタートアップに限らず中途入社の方全般に大事な考え方だと思います。
話題を少し変えます。転職の意思決定というと、現職に残るというケースもあると思いますが、そんな意思決定に類型はあるのでしょうか。リリアン・ディンクレッジの意思決定分析によると、意思決定には段階があり、その段階に進め方の特徴から8つの類型に分類されます。本日の登壇者に、これを踏まえてさらにお話を聞いてみたいと思います。
大川 私の場合、衝動型4・運命論型3・苦悩型3ですが、目の前のチャンスを手放して良いのかと苦悩することは確実だったため、38歳で決断することを事前に決めていました。富士ゼロックスに残るか、ローンディールに転職するかという二択であっても、決断をためらいましたからね。
結果、ローンディールへの転職を決めることができたのは、事前味見(プロボノ)をしながら、代表の原田さんと一緒に働きたいと思うようになったからです。苦悩しきって良かったなという満足感もあります。
今井 私は、計画型3・運命論型2・直感型5、ほぼ直感です(笑)
計画型に係る内容については、自分にとって大事なものは何かを徹底的に考えましたし、運命論型については、ハタラキカタソニックを通じた取締役との出会い、残りはフィーリングでエクサウィザーズに私自身がハマっていきました。
転職活動の当時は、他企業の面接も受けたのですが、条件面や能力面の話が中心であまり面白くはなかったのですが、エクサウィザーズは価値観や心の対話が多く、そこに惹かれました。
外川 私は、計画型4・苦悩型3・運命論型3ですが、富士ゼロックス勤務から海外留学を決めるまでは、計画と苦悩の連続でした。外部情報を収集し、必ずその担当者と話をする、メンターを探すこともやりましたし、環境要因と自分要因で区別するところの自分要因はもうないか(自分がやれることはやり切ったのか)を追求しました。
一方で、計画と苦悩の先には楽観が待っていまして、デンマークへの留学を決断した時にちょうどテレビでデンマーク特集をやっていたり、留学先でデンマークに係る日本人にも出会えたりなど、運命的な要素を感じましたね。
テーマ②:キャリア選択の「きっかけ」と「自分なりの基準」
きっかけはそれぞれ。「自分がどうありたいか」を十分内省したうえで、最後は「自分で決める」ことが後悔のない意思決定につながる。
―― 西村 本日の3名の方は鮮やかに意思決定しているように見えますが、小さな階段を少しずつ登られた印象もありますよね。登山でいえば9~10合目が速い方もいれば、はじめの5合目までが早い方もおられますし、人それぞれ違いはあると思います。
それでは、テーマ②『キャリア選択の「きっかけ」と「自分なりの基準」』に移ります。このテーマについても、登壇者の3名の方に事前に考えてきていただきましたので、お一人ずつ、ご紹介いただけますでしょうか。
大川 自分がやりたいことは何だろうと考えつつ、Google Keepにひたすら書き込んでいたのですが、あるとき、WILLをビジョン(What)・ミッション(How)・バリュー(Why)に分類すると、自身の思考が綺麗に整理できることに気付きました。整理してから、それを自らの口で喋ったり、さらに自分自身に嘘がないかを確認したりして、ようやく自身の言葉にできました。
転職を考えているときは苦悩でしたが、その苦悩から脱出するには何か一つ基準を決めることが大事です。それがWILLだったのです。受験や新卒入社など、自分自身が選択したと思っていたことでも、実は世の中の意思に従っていた部分もある。このローンディールへの転職こそ、初めて自分の人生を自分で選択する、という出来事だったなと思います。
今井 私の場合は、キーエンスの中で働いていく中で、後から自分なりの基準が相対的に見えてきたというパターンかなと思います。実は最初にキーエンスに入った時は、年収を主軸に就職活動をしていたこともあり、特にやりたいことなどははっきりしていませんでした。ただ、いざ仕事をしていくとキーエンスは滅茶苦茶面白い企業でして、キーエンスに残ることも最後まで選択肢に残っていました。ただその中で、「人と関わる」「社会課題を解決する」という自分のキャリア・アンカーが、キーエンスでの仕事とコントラストを付けて見えてきたことが、MBAに行くなどの活動をし始めたきっかけでした。
キャリアの転機を迎えるにあたって、準備⇒遭遇⇒適応⇒安定化という4つの段階を経る、トランジションサイクルという考えがあるのですが、今思うと私の転職活動時期は、このサイクルが上手く回っていたと思います。遭遇・適応の段階はキャリア・アンカーに基づき主体的に動き、安定化・準備の段階は計画的偶発性に基づき受動的に動く…というのが良いとされているのですが、ちょうどキーエンスでのキャリア、自己研鑽としてのMBA、家族の生活を養うという水準の確保などが準備できていたから、エクサウィザーズとの出会いの中で、準備から遭遇へスムーズに移行することができたのかなと思います。
外川 大川さんの話にもありましたが、受験や就職活動など、自分が決断しているようで、実は決断していない。この点については同感です。私も自身が職業人として何をしたいのかを明確にし、今でもその考えを定期的に更新するようにしています。
また、毎日自分がどうありたいかというHowも大事だと思っています。仕事をしている時間は長く、60、70歳まで働く中、どういう毎日を過ごしたいのか。毎日7時間寝たい、ストッキングを履きたくないなど、なんでも構いません。会社は仕事やキャリアには責任を持ってくれますが、人生は自分の責任です。自分が仕事を辞めるときに、何をしてきたのか、次に何をしたいのか、内省することが大事です。
―― 西村 30年後に自分がどうなっているか、幸せな毎日を過ごしているのかを予見することは大事ですよね。考え切って、あとは解放して感じるがままにという感覚は大事なんだと思います。
外川 毎日が慌ただしいと、「自分がどうありたいか、過ごしたいのか」を考える時間は見落とされてしまいますが、意識的にこの時間を設けることは大事ですね。
今井 私自身、MBAに挑戦したことは大きな転機でした。神戸大学大学院は30代後半の社会人も多く、彼らのキャリアや仕事への熱意は自身のキャリア形成にも大きく影響しました。自分がどういう人生を歩んでいきたいのかを考える絶好の機会でしたね。
大川 これまでの討論や自分自身を振り返ると、大事な意思決定の際は他人に相談していないんですよね。「リトルミー」のようなものがいて、自分に問い、自分と対話する時間が結果的に増えていたと思います。
外川 同感ですね。内省し決断できた時には条件は一切関係なくなり、直観で物事を決められるようになります。それが内省できたことの証かもしれませんね。
自分がどうありたいか正直に内省する。家族も含めた「自分達」を主語にして、納得できる転職の意思決定を。
―― 西村 「内省」は簡単に聞こえますが、実は相当に難しいです。内省した結果、違う結果になって、さらに迷うこともあるのではないかと思います。メンターに助言を求める機会もあってよいと思いますが、最後には自分に問うことが大事、そんな大事なお話を皆さまから伺えたのではないかと思います。
それでは、本日のご参加の皆さんからもご質問をいただいているので、確認していきたいと思います。
Q.「やり切った感…」という話があったが、やりきったと思えた基準はどのようなもの?
大川 自分基準で良いので「目標設定」が大事です。社長になりたいなどの明確な基準だと分かりやすいですね。是非「リトルミー」と対話して決めてみてください。
今井 私の場合、10年のキーエンス勤続を経て、「見渡せるようになった」、「これまで培った経験やスキルを再生産する段階に入った」と感じたのですが、これは一種のやり切った感なのかもしれません。
外川 私の場合、富士ゼロックス入社当初は一早く管理職になりたいと思っていたのですが、10年以上の期間が必要だと知り、そこまで待てないと感じ、「営業職として認められること」を目標として再設定しました。これでやり切ることの目標水準を明確にしました。
Q.新たな挑戦をする時の家族の説得方法は?
大川 私は説得していなかったので、分かりませんね(笑)
―― 西村 私は家族への説得をフォローする人事の立場でしたので、その経験からお話させていただきます。
大事なのは「説得してはだめ、納得してもらう」ということですね。やはり説得し始めると対立構造になりがちで、失うモノは何か…といった話になってしまうので、お互い話し合って納得解を作っていくというプロセスにしていくことです。そこでは、他の事例などの客観的な情報を用意することも、1対1の説得にならないようにするうえで重要だと思います。
―― 西村 さて、あっという間にお時間になってしまいました。最後に登壇者の皆様から一言ずついただきたいと思います。
大川 本日の連続型講義は、どんな展開になるのかを非常に楽しみにしていましたが、予想通り、大変面白い会になったと思います。「リトルミー」と如何に対話するか、自分に如何に正直になるかは大事です。視聴者の皆さまの参考になれば幸いです。
今井 「新たな挑戦をするときの家族の説得方法は?」のご質問に考えていたのですが、「家族とどう生きていきたいか」は転職当時めちゃくちゃ考えていたと思います。主語が「私」ではなく「私達」ということ。結果的に、現職は家族時間が増えることに喜んでくれましたし、将来、家族とどうしたいかを突き詰めることが人生のハッピーになるのではないでしょうか。
外川 私自身、3~5年もの間、苦悩の時期を過ごしたため、決して格好の良いものではありませんでしたが、「自分がどうしたいか」、「生きていきたいか」を正直に内省することが大事なんだと思います。当然自分一人だけでは考え方の癖があるため、適宜メンターとの対話を通じることも大事です。
―― 西村 それでは本日の講義を終了いたします。誠にありがとうございました。
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