「大企業の事業開発に新たな選択肢!?」、『出向起業』を知ろう|出向起業勉強会
2023年某月某所、『出向起業』(※)の社内勉強会を開催した。
新規事業に挑戦したいと思いながらも企業内で身動きがとれずにいる大企業人材の新たな選択肢である『出向起業』。その“出向起業者”が、シード期に何を重視し、何に着手すべきか。
そんな『挑戦したい大企業人材、必見!』の内容たっぷりだったので、そのエッセンスを上場企業、スタートアップ両方で事業開発経験のある筆者目線でお届けしていく。
『出向起業』のメリット
とある人が「新規事業を行いたい」と考えた時、その人にはいくつかの選択がある。
その選択肢のひとつとなる『出向起業』は、いままで活用しきれていなかった大企業の経営資源を開放し、新規事業の担い手の数を増やす狙いで始まった取り組みだ。
経済産業省では、社員が辞職することなく資本独立性を保って起業、そのスタートアップに自ら出向して、新規事業を行う『出向起業』を普及するため、一定の条件に満たす事業に支援(補助金等)を行っている。
この『出向起業』には大企業、“出向起業者”、双方にいままでの選択肢にはなかったメリットをもたらす。
“原則として、大企業人材が新規事業に挑戦したいと考えた時、「会社のガバナンスに則り、社内で事業を行う」、「退職して独立する」という二択しかありませんでした。しかし、第三の選択肢として『出向起業』というスキームがあれば社員、企業の双方にとって有益であると考えています。”(勉強会の発言から抜粋)
アイディアが生まれ、社会実装に至るまでの道のりと出口は様々だ。出向起業は、その出口のひとつとして3年間で40件を超える“出向起業”スタートアップを輩出しており、にわかに注目され始めている。
『出向起業』とは|JISSUI 中間氏
JISSUIは、『出向起業』の支援制度の立ち上げから運営事務局として関わっている団体である。
代表理事である中間氏自身も大企業勤めも、複数社の起業経験もあるため、両方の立場を理解しており、『出向起業』の背景、活用するにあたって”あるあるな話”を紹介した。
『出向起業』の背景
まず、「大企業では、0→1で新規事業を生み出せる人材が育ちにくい」という声は多く聞くものの、具体的に何が苦手なのかという点について、中間氏は自らの経験と『出向起業』の制度運営にまつわる調査を行っていく過程を通じて「(大企業人材は)意思決定の経験値が圧倒的に不足している」ことに根幹の要因があることに気づいたと言う。
これは大企業では、承認フロー、稟議といったガバナンスが厳密であるため、自身がプロジェクトを推進する立場であったとしても最終的な意思決定は他者(会社、上司など)に委ねるプロセスが必須で、自分自身が”本当の意味で”直接意思決定をする機会が非常に少ないからだと推察される。
だからこそ、一度大企業のガバナンスから外れて、「自らの意思決定で新規事業をつくって、回す」ことで新事業も、人も育てる、、、それが『出向起業』のコンセプトになっている。
『出向起業』のあるある話
続いて、『出向起業』のあるある話を”出向起業者”と一般的な”起業家”の違いという観点で4つに大別し、中間氏は紹介する。
内容は、上図の通りではあるものの、説明を通じ「”出向起業者”は、一般的な”起業家”に比べて、それまで大企業という厳格なガバナンスに則った考え方、働き方などが、固定概念となって、邪魔をしているケースが多いのかな」と筆者は感じた。
『出向起業』のあるある話について中間氏は、”出向起業者”がそうした固定概念を持っていること自体を起業家コミュニティに入ったり、VCに言われて初めて気づくことが多いことに触れ、「出向起業をする前からできるだけ、スタートアップ界隈にいる方々とコミュニケーションを取ることが望ましい」と言及した。
そうした課題に”出向起業者”が対応していけるように投資機能を有する専門家(みらい創造機構、QXLV)の支援も行っているとのことだ。
『出向起業』ならではの強みやシナジー
そうした課題を踏まえて、『出向起業』を成功させるには「相対的に自分自身の強みを発揮する領域・切り口は何か?」がポイントになると言う。
また、3年間の『出向起業』を経て、”出向元”である大企業とのシナジーがある事例も生まれ始めているという。
例えば、自動車メーカーがマイクロモビリティという未成熟な市場を開拓する尖兵として、『出向起業』に送り込んだ事例(本田技研工業からの出向起業)、飲食関連事業者が、飲食特化のM&A仲介という新規事業を立ち上げ、共通する顧客の課題を一体になって解決しようとする事例(サントリーHDからの出向起業)などが挙げられる。
これらの事例は、敢えて事業リスクが高い領域を出向起業スタートアップが担っている点と、必要以上の連携・ガバナンスを強いずに”間接的な”シナジーを享受する迄に留めている点で、『出向起業』を活用する理由が明確であったとのことだ。
『シード起業家』は何に取り組むべきか?|QXLV 古谷氏
QXLVは、独立系VCであり、『出向起業』のサポートもしている。その立場から、”起業家”も”出向起業者”のいずれにとっても重要となる『シード起業家』が取り組む入門的なステップをQXLV 古谷氏が分かりやすく語った。
シードVCの投資基準
まず、古谷氏はシードベンチャーの投資基準として”エクイティストーリー”の重要性を説いた。
シード期は、”FACT(実績)”が弱いため、”PLAN(仮説)”が重視され、レイター期に進むにつれて、その”PLAN”を”FACT”へ転換していくことが求められると言う。
”PLAN”を”FACT”に転換できないということは”PLAN”自体のクオリティが低い証左にもなると考えると、これは非常に納得感もある。
更にQXLVでは、「Why This?」、「Why Now?」、「Why You?」という3つの観点でエクイティストーリーを評価しており、今回はその中でも”Why This?”について、古谷氏はピックアップする。
「Why This?」におけるビジネスモデルについてVC目線では、6つの構成要素[市場性、優位性、収益性、課題性、受容性、実現性]が成立しているかを見ているそうだ。
定量的なストーリーで理解を得て、定性的なストーリーで共感を得る、このバランスが難しくもありながら、重要であり、特にシード期では「その顧客課題は本当にあるのか?」といった定性的な要素の比重が高くなるため、その解像度が問われると言う。
シード起業家が取り組むこと
古谷氏は、そうした投資基準やエクイティストーリーの重要性を踏まえ、シード期に取り組むことは、その”PLAN”を基に「事業成立およびグロースにおける不確実性の排除」することだと語る。
そして、Go To Market(拡大フェーズ)に向け、顧客課題、解決策、実現アイディア、市場受容度を検証していくこと(To achieve “PMF”)として、テンプレートやプラクティスがその助けになると紹介した。
ちなみにシード期に必要となるエクイティストーリーの磨き込み、ユーザーインタビューなどのテンプレートやプラクティスは、日本語よりも英語で検索すると非常に多くのコンテンツがあるため、おすすめだそうだ。
大企業からイノベーションを起こす
大企業人材が新規事業に挑戦したい時、選択肢は様々だ。
先日、筆者も出向起業家の交流会に参加して「なぜ、わざわざ出向起業を選んだのか?辞めて起業した方が、しがらみもないのでは?」と数名に聞く機会があった。家庭の事情であったり、出向元企業から派生するように始まった事業であったり、、、回答も、背景も様々だったが総じて「出向起業でなかったら、起業は難しかった」というものだった。
企業内で新規事業開拓を行う、子会社化、カーブアウト起業、スピンアウト起業。そんな中で『出向起業』という選択肢があることで挑戦のすそ野が拡がることを期待したい。
『出向起業』が気になった企業はもちろん、個人がボトムアップで大企業とコンセンサスを取って『出向起業』した事例もあるらしいので、興味が沸いた方は一度特設サイトを覗いていただければ幸いだ。
個別オンライン相談も行なっている。
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(監修:JISSUI中間、ライティング:深山 周作)