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【イベントレポート】スタートアップで培われる資産とは?|「仕組みを創れる人材」のためのキャリアパス#1

※本記事は、当団体が制作したWebサイトの掲載記事を再編集後、移設しており、肩書・内容は掲載当時のものとなります。

短期的な転職ではなく中長期的なキャリア形成の場として、スタートアップにチャレンジする人を増やすことを目的に開設されたCareer Academy。

本記事では、連続ゼミ形式の特別プログラム「スタートアップスクール」第1回(2022年1月13日(木)オンライン開催)の模様を抜粋してお届けします。

●スタートアップスクールについて
スタートアップスクールは、『「仕組を創れる人材」としてのキャリアパス』を切り口として、「①スタートアップで働くことで得られる資産」を知り、「②スタートアップで重宝される仕組化人材」について理解を深めたうえで、「③実際のスタートアップの実情を知る」の全3回の連続ゼミ形式にて開催するものです。
第1回は「大企業とスタートアップのメリット」「スタートアップで得られる資産」をテーマにディスカッションが行われました。

梅田 祥太朗氏(株式会社HashPort)
取締役COO
株式会社みずほ銀行にて法人RM (営業) に従事。
株式会社ワークスアプリケーションズでのセールスマネージャーを経て2017年11月にAI inside 株式会社に入社し、セールスの企画、実行を担当し、2019年4月より同社執行役員CRO 事業開発本部長としてビジネスサイドを統括。2021年6月に同社退職後、2021年10月より現職

岸 浩稔氏(野村総合研究所)
ICTメディアコンサルティング部 上級コンサルタント
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程修了。博士(工学)。
テレコム・メディア領域を中心にテクノロジー起点のイノベーション創出に係る事業戦略・実行支援、人材・組織開発の業務に従事。
「49%の労働人口がAI・ロボットによって技術的に代替可能」の研究を担当し、テクノロジーが及ぼす未来像の洞察、DX時代の人材と組織の姿の検討を進めている。

インタビュアー
ジャフコグループ株式会社 金沢(キャリアアカデミー責任者)

みずほ銀行からメガベンチャーへの転職。苦しんだアンラーニング期間

―― 金沢  本日、スタートアップスクールのインタビュアーを務めさせていただくジャフコグループの金沢です。早速ですが、梅田さんのキャリア、キャリアの変遷についてお伺いできますか。

梅田 元々、保険や銀行等の金融業界に興味があり、2012年に新卒でみずほ銀行に入行しました。当時、自分は比較的そつなく何でも出来るタイプだと思っていて、仕事も順調にこなす日々でした。しかし入行2年目の夏に、メガベンチャーに入社した大学時代の同級生と会話した際に、会話のレベルの高さや仕事における裁量の大きさを感じ、「このまま大企業にいたらますます差が開いてしまうんじゃないか」、「みずほ銀行でしか生きられなくなるんじゃないか」と思った事が自身のキャリアの最初の転換期でした。

2013年から転職活動を始めて、ワークスアプリケーションズ(以下ワークス)とGEから内定を頂きました。GEからはワークスの倍近い年収をご提示いただき、非常に迷ったのですが、そもそも「成長」したくて転職活動をしたことを思い出し、より成長できそうなワークスへの転職を決めました。

―― 金沢  ワークスへの入社後はいかがでしたか。

梅田 みずほ銀行の時は同期の中では上の方…みたいな気がしていたのですが、ワークスに入って半年間くらいは、全く通用しなくて毎日ビルの1階の公衆電話コーナーで隠れて悔し泣きしていていました(笑)。何を言っても深堀りされると答えが返せない。自分がいかに言われたことだけをやっていただけだったのかを実感しました。

―― 金沢  半年間ほど悔しい思いをした後に成果を挙げられた、その過程ではどのような行動をとられていたのでしょうか。

梅田 当時はまだ、やっていいことと悪いことの判断基準が自分の経験則にしかなく、本質的な判断ができていなかった。そこで、過去のプライドや積み上げてきた自分の価値観は全部捨てて、スタートアップで成功している人や上司のやり方を全部試してみたりなどしていました。まさにアンラーニングの期間でしたね。

新卒でワークスに入社した年下の同僚とも同期という感覚でよく飲みに行ったり、カルチャーフィットのために、自分から染まっていくように努めました。

―― 金沢  そのあたりが転換点だったのかもしれないですね。その時期を乗り越えてからはどうでしたか。

梅田 ありがたいことに営業として良い売上成績を上げ、マネージャーにもなれました。ワークスの中ではずっと上位5%の評価を取っていて、年収も上がっていく未来が見えていました。その状況で思ったことが二つあり、一つ目は性格的な問題で、”上手くいっている環境”に居すぎると、成長スピードが落ちるなと。「これだけやっているからいいでしょ」という意識が出てきてしまい「このままでは腐っていくな」と思うようになりました。

二つ目は、ワークスが大きくなりすぎたという点です。その時点で社員数が6,000~7,000人いる大企業になっていたのですが、会社の経営方針について意見した時に、あまり掛け合ってもらえず、まだまだ自分一人ではそれくらいの力しかなかったんだなという事に気づきました。そういうこともあり、もう一段小さな会社の経営レイヤーを経験し修行する必要があるなと考えました。


経営での活躍の場を求めてAI insideへ。IPOに至るまでに発揮した”調整力”

―― 金沢  AI insideに転職されたのはいつでしょうか。

梅田 2017年、27歳の時です。当時、AWSやオラクルなどの外資系企業への転職も選択肢に入っていたのですが、経営レイヤーで修行したいという思いもあり、スタートアップに絞っていきました。いくつか面接していくなかで、相対的に自分の価値が高まるという意味で、PMF前のフェーズで、できるだけ大変そうな会社がいいなと思うようになり、AI insideに出会いました。当時、社員数は20人程でしたが、プロダクトリリース前であり、自社商品の売上はまだたっていないようなフェーズでした。売上がたってないフェーズに身を置くことで、ワークス時代に培った営業スキルを活かし、自分自身のバリューを発揮できると思ったからです。

―― 金沢   入社後はいかがでしたか。ワークスに入った時のように苦戦されたのでしょうか。

梅田 半年間はカルチャーにフィットするまで苦戦しました。ベンチャーだから尖ればよいということではなく、ちゃんと文化を理解して受け入れてもらわないといけないんだなということを理解していきました。

また、大企業やメガベンチャーとの比較感ですが、年収ベースが低くなるので、どうしてもメンバー内の能力にバラつきがありました。マネージャーに昇格していくなか、その人達にあったマネジメントの必要性も学んでいきました。

―― 金沢  その後は役員になってIPOまでという流れですよね。IPOまで繋がった要因は何だと思われますか。

梅田 一番は諦めないということですかね。創業者が社長のベンチャーは、たいてい伸びる会社であればあるほど、社長が尖っていて、社内外でコンフリクトが生まれる瞬間があります。その中で上手くいかない事も沢山ありましたし、何回も挫けそうになりましたが、「自分自身で絶対に会社を成長させるんだ」という意地みたいなものがありましたね。

―― 金沢  IPOまで事業をスケールできるように、社内外のコンフリクトを調整して”仕組み化”していかれたと思うのですが、それができたのは大企業での経験が活かされていますか。

梅田 それはありますね。“調整する”ことの重要性は今の会社でも感じています。現在の役職は取締役COO、社長に次いでNO2、NO3みたいなポジションだと思うのですが、それでもやっぱり調整役なんです。スタートアップは社長の想いが凄く大事で、その想いをよく理解する、その一方で現場がやりたい事も理解して、その間を繋いでいくことを行っています。みずほ銀行という大企業で培ったスキルが活きていると思います。

―― 金沢  様々な仕組みが既にある大企業と比べて、スタートアップは仕組みを作っていかなければならない。仕組みというものを自分で要素分解して作れる状態になっていけばスタートアップで活躍できるのではないかとお話を伺っていて感じました。

梅田 確かにそうですね。AI insideにそれが得意な大企業出身者がいました。大手総合印刷会社でBPO業務に従事されていた方ですが、元々、色んなプロジェクトを取ってきて自社リソースをうまく活用しながらデリバリーするような仕事を経験されており、仕組み作りに慣れていました。ドキュメントも何も無い状態から綺麗にしていくプロセスは非常に価値を出していたので、1、2年くらいで給料がほぼ倍近くになっていましたね。

―― 金沢  他にも、大企業やメガベンチャーの経験が活かせたポイントはありますか。

梅田 色んな人の動き方を見ることができたことですかね。自分は、ロールモデルにしたい人の良い所を徹底的に真似たり盗んだりしてきたつもりです。新しい会社に入った時に、あの時のあの人はこう動いていたな、とか、色んな人の動き方がデータベースとして頭に入っているからこそ、環境の変化に対応できたかもしれないです。


テーマ:スタートアップで活躍している人のポイント

―― 金沢  色んな人を見てきて、良い人も悪い人もいるからこそ、その悪い所は自分の反面教師に、良い所は真似していくってことですね。ありがとうございます。

続いて梅田さんの事例も踏まえつつ、スタートアップで活躍している人のポイントについて、解説を岸さんからお願いできますか。

 梅田さんのようにパフォーマンスも人を惹きつける力も活動力もあるとどこへ行っても大活躍されるのは当然かもしれませんが、スタートアップで活躍するためのポイントになるのは、「やりたいことを見極める」「個人スキルを磨く」「スタートアップのリアルを知る」この3つが挙げられるかなと思っています。

どういう時に流動を決意するのか、“スタートアップへの流動”を考えた時、梅田さんの場合は、ワークスアプリケーションズへの転職時には成長機会が無い事に危機感を覚えたこと、AI insideの時には経営への興味を強く感じたことがきっかけになっていると感じました。

梅田さんは、悩まれながらも給料なんか関係ないと達観されていて凄いと思いますが、環境を変えたいと思った時に選択するのは、スタートアップでも、大企業でもいいと思っています。ただ、スタートアップで成功する・活躍するためには、“環境を変えたい”という軸だけではなくて、スタートアップ志向につながる「成長したい」「やりがいを感じたい」という欲求があり、それをさらに具体的に「事業が次々変わるような状態に身を置きたいんです」とまでできたら、確かにスタートアップはいいかもしれないとなります。「プレッシャーのない生ぬるい環境から抜け出したい」ではなく、「毎日生きるか死ぬか、もう資金が尽きるかもしれないという議論に加わりたい」となると、スタートアップでしか得られないですよね。

「経営者に共感して、この人となら一緒にやりたい」、外資は上司次第なんていう話もありましたが、自分で経営者を選べる・ついていきたい人に伴走できるという点はスタートアップなら可能ですよね。なんとなく環境を変えたいと思った時は、そのきっかけの要因をもっと深掘っていき、その結果としてスタートアップが一番いいはずだという結論になったというのがスタートアップで成功・活躍する、さらに言えば幸せになるためのキャリアの選び方なのだろうなと、今、携わる事業を通じて色んな方々と議論する中で感じています。

梅田さんも、結果的にスタートアップに行ったことは正解、自分の欲求に正しく従った結果として今のキャリアに辿り着き、そして次のイメージとして経営者になりたいと。年齢を重ねる中でも段々と変わってくることだと思いますが、どういう所が自分の本質的な欲求なのかを見極めるきっかけに、今回のキャリアアカデミーのような場を通じて考えていくといいのかなと思っています。

―― 金沢  本質的な話、自分の欲求を見極めるのは難しいと思います。梅田さんの場合はなぜ自分の欲求に気付けたのですか。

梅田 自分は結構負けず嫌いという性格で、みずほ銀行時代にワークスアプリケーションズにいた友人から、一部上場企業の財務部長にプレゼン提案しているという話を聞き、自分ならあと20年かかる、差がありすぎる、もっと成長したいという欲求が湧きました。

―― 金沢  自身のスタートアップ志向に繋がる欲求に気付いた事例はありますか?

 スタートアップのグロースには経営人材が必要で、そこには大企業人材がはまるのではないかという話の中で、転職者から社会貢献の話が出てくることが多いです。社会を変えられるような技術に魅了された、新しい技術で社会を変えられる、課題解決できる所に凄くやりがいと共感を覚えてやりたいと感じたけれど、それをやるには大企業のままでは出来ないと気付いたことが動くきっかけになった、という話は結構多くあるという印象です。

スタートアップで活躍するためのポイントとして挙げた「個人スキルを磨く」について、大企業にいる時の課題感というきっかけについて調査したファクトがあります。実際に大企業からスタートアップに流動した101人の方々に「大企業でのキャリアとスタートアップに動いたきっかけはどういう事がありましたか?」をファクトとして取ったものですが、「自分の会社でイノベーションを起こす事に限界を感じた」自分の人生を捧げてやる中で大企業で行っていっても社会にインパクトを与えられないのではないかと8割の方がイメージされていました。さらにキャリアの行き詰まり、上司の姿を見て順々に昇格して部長になれれば御の字かなと。45歳ぐらいで上が見えてくる、イメージができてしまう、そういった所に行き詰まりを感じている方が凄く多かったんです。

また、調査では「大企業で役立ったスキル・培ったスキルはスタートアップでどう役立ちましたか」ということを伺ったのですが、大企業的なスキルよりはリアルに分かりやすく本当にスキルとして発揮できるもの、調整力や専門性、技術・知識など、シンプルにやってきたことが評価されている点が、大企業人材がスタートアップへ行く時のポイントとして、すごく希望がある結果だなと思いました。

 大企業で働く方々は専門性とか技術・知識が身に付いていますし、色んな方々と社内外で連携しているので調整力もついています。「業務を通じた専門性・知識/技術(業務知見)」「外部連携力(社内の他部門、同業種・異業種の他社との協働による、異分野との連携)」この2つを発揮できれば、十分スタートアップで活躍できる。

また、職種でいうと人事総務や法務などはスタートアップにはあまり関係なさそうな、大企業でずっと働きそうなポジションですが、スタートアップは特に人事総務経理は職務を担当できる人がいないということがあるようなので、流動の一つのきっかけになるのではと思っています。スタートアップのステージ次第ではフルタイムでは業務がなく採用できない場合もあると思いますので、それこそ副業兼業が上手くはまるのではないかという気もしています。

―― 金沢  質問も頂いています。「大企業からスタートアップ留学したいというニーズが増えていると聞きますが、スタートアップ側の受け入れ率はどの程度あるのか、その場合は営業経験経営企画経験ある人材率が高いのでしょうか」

 今、最もホットなトピックと言える、鋭いご質問だと思います。順番にお話すると、大企業側からすると人材をスタートアップみたいな非日常の環境で修羅場体験をさせ、成長して帰ってきてもらう。MBA留学、海外転勤に近いような環境を経験すること以外に、最近はアプリ開発を学ばせたいとかAIの現場で業務経験を積んで欲しいとか、大企業側からはそんなニーズが出てきています。一方の受け入れるスタートアップ側はなんとなく人が来ても任せられる仕事は限られ、全く成果に繋がりませんでしたということが多々あるのが正直な所で、大企業側にとっては、それはそれで今まで出来なかった経験というベネフィットがあっても、スタートアップ側の利益になっていないのでは、と、考えていかなければならない論点になっています。

ただ、一方でスタートアップ側も大企業人材という違う組織の方が来てくれるのはカルチャーの学びになって刺激になるというシンプルな理由もあれば、営業経験や経営企画だと直接的な目で見るとしたら自分達の取引先になりそうな企業とのコネクションが持てるとか分かりやすいベネフィットもあったりします。経理・法務のような職種の方がお試し体験で上手くフィットできる場合もあると思うので、スタートアップ側のニーズとのすり合わせが上手くいくと営業や経営企画のみならずバックオフィスだとか様々なニーズが出てくると思います。

―― 金沢  私も最近スタートアップ側から「プロボノ的に関与したいと大企業から話がきているが、どうしたらいいか」と相談される事があり、上手くいっている実例として“仕組みを伝授する”ことをお伝えしています。決算を短縮する為の業務プロセス、営業の案件管理や読みを作る等、大企業では当たり前に行っていることをそのまま転換するだけで改善活動が起こるので、それだけでもスタートアップ側にとっては嬉しいと思います。

逆に大企業人材の方は、自社で当たり前に行っている仕組みを自分で理解して再現できる状態でいることが重要だと思います。梅田さんも色んな実体験があるのではないかと思いますがいかがでしょうか。

梅田 自社でやっていることの意味を理解するのは大事ですね。例えば営業システムを利用一つとっても、なぜそういう風に入力しているのか、商談のフェーズを先に進めたら戻らない様な設定にしているのはなぜか、その後ろ側にどういうオペレーションがあるのか、営業だけでなくバックオフィスや経理がどう動いているのかまで理解している人材はどこへ行っても欲しいと言われるイメージがあります。

スタートアップ側で働いている人間からすると、例えば今自分は人事が欲しいのですが、スタートアップには専門職があまりいなくて。気持ちとやる気があって大きな事にチャレンジしたい若者はスタートアップ界隈に沢山いても、整った何かを経験してきた人が少なく、その専門職のニーズは高いなと感じています。営業でも売れる人はニーズがある一方でその会社のモノがいいから売れていう人だとスタートアップへ来ても売れなくなるイメージがあって、フェーズによって必要な人や活躍できる人の定義は変わってくるのかなと思いました。

―― 金沢  梅田さん、岸さん、ありがとうございました。


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