【インタビュー】「転職市場、働き方の固定概念を変えていく」、人材業界の当たり前を崩すパーソルグループの取組み
人材大手のパーソルグループが、スタートアップに特化したサービス立ち上げにチャレンジする。大手中心だった転職市場に、どのように変化をもたらしていくのか、そのビジョンについて担当者に話を伺った。
コロナ禍で変化する転職市場。
働く意義を考え直す時間は増えたが、リスクは取れない状況。
―― 人材マーケットのトレンドは今、どのような状況でしょうか。
金内 最近のトレンドとしてはやはりコロナですね。それぞれが在宅勤務で働く環境が続く中、働く意味や意義を考え直し、それを実現するために転職する…という方が増えている印象です。
佐藤 コロナによる変化は大きいですね。
SaaSスタートアップの成長があり、そこに転職したい人は増えてきている一方で、”なんとなく”スタートアップに興味があるくらいの人は、コロナ禍でリスクが取れなくなっています。新しいことをやりたい時に、大企業の新規事業関連部署へ行きたいニーズはあるけれど、真っ先にスタートアップを選ぶ人は減っている印象です。
―― コロナ禍で人材マーケット全体に心理的な変化があったのですね。
田中 やはり、在宅勤務で時間を持て余したり、会社の業績が落ち込んだりする中、このまま大企業に居続けても安泰ではない…と気付く人や、今後の不安を感じた方がいると思います。
金内 2020年度の転職市場自体は2〜3割減少しています。要因は物理的に面接ができなくなったこともありますが、ビジネスの先行きが不透明な中で、企業側も採用に注力できなかったからだと思います。
2021年度では2020年の分も採用を増やすことが予想されますが、転職する個人側の慎重さは当面残るかもしれません。
―― ”スタートアップへの転職”に対する考えにも変化はありますか。
田中 ありますね。近年、事業会社もスタートアップへの投資を強化したり、オープンイノベーションで協業を進めていたり、大企業側がスタートアップと関わるシーンが増えてきたことも影響して、スタートアップへ興味を持つ人自体は増えてきている印象です。
一方で、先ほど佐藤が申したように、スタートアップへ行きたいかというと、興味はあっても、不安があるという方が多いのが現状です。なので、”副業”を挟んで、まずスタートアップを知りたいという人が増えているのではないでしょうか。
―― 副業から始める方は、どういう方がいるのでしょうか?
田中 私はスタートアップへの副業マッチングサービスを運営しているのですが、本当に色々な方に登録していただけますね。
例えば大手企業で元々手を動かすのが好きだった方が、管理職になり、どんどん現場感がなくなっていくのに危機感を感じ登録する…といったケースもあります。 中には大企業の部長クラスの方もいたりしますが、そういう実績のある方でも、自分が外で何ができるのか不安をお持ちだったりします。
そもそも自分のスキルが通用するか、いきなり飛び込んで自分がマッチするのかという考えがあるので、副業としてお試し期間、転職までのワンステップとして利用する方も増えていくのではないでしょうか。
大企業勤務のような”大規模組織経験者”が必要となるシチュエーション、パターン
―― どういう方がスタートアップに求められているのでしょうか。
金内 エンジニアやデザイナーなどの、自分でプロダクトが”作れる”方の需要が高いのは間違いありません。一方で、創業メンバーにエンジニアやデザイナー出身者がいるケースですと、それなりに高い水準のスキルが求められる場合もあります。
エンジニアやデザイナー以外で、意外と需要と供給がマッチしそうなのは、大手企業で勤務経験のある30代~40代の”大規模組織経験者”ではないかなと思っています。
―― ”大規模組織経験者”とはどういう意味でしょうか?
金内 大企業ならではの作法や商習慣、あとは大きな組織の動き方を知っている人という意味ですね。
スタートアップのフェーズにもよりますが、組織として大きく拡大しなければならないフェーズでは、大模組織経験者が必要なシチュエーションが増えてきます。
佐藤 組織としても、30〜40名位までは、個々人のスキルで乗り切れても、100名超えるぐらいでやはり大手人材、組織経験者を入れたいと考える動きはあるのかなと求人内容を見ていても思います。
田中 最近はSaaSを中心としてB to Bのサービスが多くなってきました。例えば”建設×IT”といった、レガシー産業の課題をテクノロジーで解決するというテーマも増えてきて、その産業自体の理解度が高い人が必要になっています。
―― 具体的にどういうシーンで”大規模組織経験者”が活躍できるのでしょうか
田中 規制産業における外部折衝はひとつの例ですね。
例えば決済サービス事業における金融庁や金融機関との折衝、ヘルステックにおける病院との連携や法令対応など。スタートアップからすると、相手がどういう論理で意思決定しているのかが分からないので、その業界のお作法を知っている人がひとりいるだけでも違ってきますよね。
金内 法人営業もニーズがありますね。プロダクトドリブンの会社は営業ノウハウが比較的乏しいので、大企業で営業中心にやってきた人、営業しかできないと思っていた人が、プロダクト側にいくと価値が出せたというのも事例として存在します。
トッププレイヤーでなくても、業界のドメイン知識がある人ならノウハウを生かしていくパターンもあると思います。
田中 あとはバックオフィスですね。例えば人事ですが、スタートアップでも1人目の人事担当を採用するタイミングが早くなってきている印象です。最近は20名程度の企業でも人事がいるようになりました。
組織に対する考え方、カルチャーを作ることに重きをおくようになったのではないでしょうか。いい人材をとり、いい組織を作るには早めから組織作りに力を入れることが重要だと。
金内 例えば人事で言うと、一人で人事を担当している方がそれぞれの悩みを相談する会もあるぐらいですからね。
人材業界のジレンマを超えるためのパーソルグループの挑戦
―― スタートアップ側は、そういった方々をうまく採用できているのでしょうか?
佐藤 リファラル採用等でエンジニアは採用できても、営業やバックオフィスの採用はうまくいっていないところが多い印象です。そもそも、そういう方がどこにいるのかがスタートアップからは分からない。
金内 問題として、情報の非対称性があります。人材マーケットや個人にスタートアップの魅力を適切に伝えられていない、もともと採用マーケットに対して情報が提供されていないことも多く、さらに給与もそれほど高くないとなると、なかなか厳しいですよね。
田中 副業サービスに登録する方もどちらかというとキャリアの意識が高い方だと思いますが、できれば“楽して稼ぎたい“がホンネの方も多いと思います。そういう方が70歳まで働く世界を考えたときに、その方々を着火させる何かが必要だとも思いますね。
―― 情報非対称性を解消して、個人を着火する場を今回の事業で提供していかれるのですね。
金内 その通りです。現時点で、人材マーケットとスタートアップをつなぐハブが存在しないのだと思っています。これは業界自体のジレンマであって、パーソルグループとしても、スタートアップ支援に対してなかなか踏み込めていなかった。
今回の事業の中で、大企業人材が着火して、スタートアップで活躍する事例を作っていければと思っています。
―― マッチングにおいてはどういう工夫をしていくのでしょうか。
金内 職種を一人歩きさせないことでしょうか。要素分解して定義した内容に合う人を探す、紹介する。
スタートアップの場合は特に、お互い情報が足りなくてバイアスが掛かっている場合が多いので、ちゃんとコミュニケーションをとって、コンセンサスをとる、そういう時間を設けることが必要です。
佐藤 採用する側も採用業務に慣れていないので、例えば、即戦力=大手病院とアライアンスを組んだことがある経験者、とか普通におっしゃいます。が、そういう人って殆ど存在しないんですよね。企業側も“要素分解“がなかなかできていないので、我々が入って一緒に進めて、PDCAを回していくことが必要かと思います。
田中 大企業からスタートアップにはまる”パターン”を発信していくことが重要ですよね。One to Oneで最初はマッチングしつつも、このプロジェクトが終わる頃には、事例をもとにパターン化していく、自分のスキルだったらこういうことができると伝わる情報を提供できるようにしたいです。
―― 最後に意気込みも含めて、皆さんがこの事業でSHIFTしたい x をお伺いしてよいでしょうか。
金内 ”人材業界”ですね。業界としてあまり注力できていなかった領域で、良い事例を作っていって、業界のジレンマを解決していきたい。スタートアップと人材市場をつなぐハブとして機能する第一号になれるように活動していきます。
佐藤 ”固定概念”でしょうか。スタートアップはこういうものだよね、転職ってこういうものだよね、という固定概念を壊して、正しい情報を発信していくことで、日本を盛り上げていきたいと思います。
田中 私は”働き方の常識”です。個人にとっても企業にとっても、双方にとっての最適解は何か、スタートアップの皆様と共に働き方の常識を変えていきたいと思います。新しい常識を見つけていくことはスタートアップならではの醍醐味です。一緒に頑張りましょう!
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