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グロースに足りない能力を獲得する人事戦略としてのスタートアップ出向

経済産業省が実施する『スタートアップチャレンジ推進補助金(スタチャレ)』は、大企業の人材がスタートアップ等での実務に挑戦し、課題解決に取り組む「スタートアップチャレンジ」の活動にかかる費用の一部を助成することで、大企業の人材への成長機会付与と、スタートアップの人材不足解消を支援しています。

様々な業務DXを実現するための次世代型アバターロボットと統合管理プラットフォームの開発に取り組んでいるugo。スタートアップチャレンジのスキームを活用し、メガバンク大手の三菱UFJ銀行から出向で人材を受け入れています。

今回は、出向者である三菱UFJ銀行 石川氏と、受け入れ側であるugo 松井氏に、人材交流の狙いについてお話を伺いました。

・出向元:三菱UFJ銀行 石川 氏
・出向先:ugo株式会社 松井 氏

資本関係をきっかけにしたスタートアップ出向

Q.メガバンクの銀行業務とロボット開発は事業領域が遠い印象もありますが、今回、どのような背景でスタートアップ出向のスキームを利用することになったのでしょうか。

ugo 松井氏(以下、ugo松井) ugoと三菱UFJ銀行が繋がりを持ったのは2019年の資金調達のときでした。三菱UFJキャピタルから出資をいただいたのですが、そこからの紹介で銀行や信託銀行など、グループ各社への接点が生まれました。

そのなかで三菱UFJ銀行では、「オープンEX」という、外部企業への出向制度があり、社員の出向をugoで受け入れてもらえないかという話をいただいたのが、スタートアップ出向を受け入れるきっかけでした。

三菱UFJ銀行 石川氏(以下、MUFG石川) この「オープンEX」は、スタートアップをはじめとした外部の企業へ出向し、幅広い業務を経験するとともに多様な企業カルチャーに係る知見を吸収してくることを目的とした人事制度です。

私がそこに手を挙げた理由としては、日頃の銀行業務のなかで、顧客の実務が分からない中での仕事に限界を感じ、実際に事業を推進する経験を得て銀行に還元したいと思っていました。そのうえで、自分のキャリアを考えるきっかけにもなればとも思っています。


事業の成長に必要だった法人営業のケイパビリティ

Q.三菱UFJ銀行としては人材育成プログラムとして成長機会の提供という目的がありつつ、グループとしては資本関係もあるのですね。ugoとしては、出向者を迎えることで、どういった効果を期待していますか。

ugo松井 ugoでは、もともとはロボットの遠隔操作による家事代行サービスの事業を考えていましたが、法人向けの業務DXサービスへのピボットをしています。

そこで法人向け営業の機能の強化が必要になり、人材の採用活動をしていたのですが、なかなか良い人に巡り会えていませんでした。

そこで今回三菱UFJ銀行から出向の話をいただきました。メガバンクの法人営業のノウハウを生かしていただけるとなればこの上なく、まさに渡りに船でした。

MUFG石川 実はこの人事制度は、出向先の会社名が伏せられているなかで手を挙げる公募制なので、ugoへの出向になるかどうかは最後までわかりませんでした。

銀行からは「学べるものはすべて学んでこい」と言われています。

ugo松井 出向者をこちらが面談して選ぶという形ではなかったので、どんな人が来てくれるのか、合わなかったらどうしようという気持ちもありました。

受け入れは賭けだなと。石川さんでは嫌だと言ったら別の人になったかもしれませんが笑。

法人営業の観点から求めるスキルセット等は伝えていて、それをうまく調整いただけたのだなと思います。結果、石川さんに来ていただいたことで銀行の法人営業ノウハウの移転ができ、直接採用も拡大しているなかで、段々と組織を強化することができています。

今回は法人営業でしたが、今後も、組織のケイパビリティを補うような人事戦略を取っていきたいと考えています。


「すべてが違う」銀行とスタートアップ

Q.スタートアップの課題を大企業のスキルセットで補うことで成長を加速させるという、理想的な組み合わせになっているのですね。銀行からの出向者としてスタートアップで働いてみて、いまのところどのような印象をお持ちでしょうか。

MUFG石川 まだ働きはじめて短い(2ヶ月)ですが、スタートアップへの理解が不足していることを痛感しています。

これまでとは売り物も売り方も違うので、銀行の支店業務で見ていた世界とは違い、見えている範囲が広いので、ugoのビジネスとして自分がなにをしなければいけないのか、まだ見極めてられていないというのが正直なところです。

また、金融機関がどのように役に立てるのかを日々考えており、現状の銀行からの支援は非常に大きな役割を担っていることは理解しつつも、いまのままの銀行という業務形態や法規制の中では、ugoをはじめとするスタートアップを十分に支援することは難しいのではないかとも思い始めています。

Q.銀行とスタートアップで、何が違うのでしょうか。

MUFG石川 何が違うのかといわれると、すべてが違うということになってしまいます。

服装や働き方といった目に見えてわかることや、役職者であるCxOとの距離感、ビジネスのスピード感といった、体感的な違いも日々感じています。社員一人一人が銀行業務の中で銀行全体のことを常に考えて活動できているかと問われると、中々そうなるのは難しいかなとも思っていました。

一方でスタートアップでは社員全員が会社全体のことを常に考えています。規模の違いが大きくあるため、当たり前かもしれませんが、そこが最も大きな違いかもしれません。


スタートアップ出向だからこそできる、事業戦略としての人材交流

Q.ugoと三菱UFJ銀行では、両者関係を強化しつつスタートアップが足りないケイパビリティを獲得するという点で効果的に制度の活用ができていると思います。今後、より広く社会でスタートアップと大企業での出向制度や人材交流を加速させるためには、どのようなことが必要だと思いますか。

ugo松井 スタートアップ出向の仕組みが、単なる人材派遣とどう違うのかということはしっかり示したいと思っています。例えばロボティクスの分野を内製化してやっていきたいので協業・提携をしていくというような、企業間単位でシナジーが見える形であるべきです。

出資関係のある株主との関係性を強化していくような、事業戦略上の目的をもった制度利用ができると、両者にとって意味があるものだと思います。

一方で人材の流動は時間がかかり、不確定な要素も多いです。大企業側はそんなに簡単に人事を変えることはできないでしょう。しかしスタートアップ側がタイミングよく人材の受け入れ体制を調整することも難しい。

今回のスタートアップチャレンジのようなスキームを提示しつつ、流動のタイミングが整えられていると話が進めやすいと思います。

MUFG石川 三菱UFJ銀行には、こうした制度で社外に出向している人が集まるコミュニティがあります。

定期的に集まり、スタートアップ等で得た経験を共有し、銀行としてなにが必要か、どうするべきかの提言をまとめています。

よりよい人材流動が促され、スタートアップのグロースに貢献すると同時に、銀行自身の成長や課題解決に貢献できるよう、出向元にどんどんフィードバックをしていきたいと思います。


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イノベーションの担い手たるスタートアップや中小企業は、その成長過程で「人材や経営資源の確保の壁」に直面しています。一方、大企業では優秀な人材を確保していても、新規事業を機動的に動かす機会を提供しづらく、事業ポートフォリオ組み替え等の担い手人材・次世代リーダーの育成で苦労している状況にあります。

そこで経済産業省では、大企業の若手・中堅人材等がスタートアップ等の実務に挑戦し、成長過程での課題解決(戦略立案・事業提携・海外展開・組織整備等)に取り組む「スタートアップチャレンジ(通称:スタチャレ)」の活動にかかる費用の一部を助成する『スタートアップチャレンジ推進補助金』を行うことで、人材への成長機会付与と、スタートアップの人材不足解消を支援しました。

本事業で行われた大企業人材100人を超える『スタチャレ』 の成果をまとめ上げ、人事戦略、事業戦略において示唆に富んだレポートを下記に公開していますので、ぜひご参考ください。

■【成果レポート】スタートアップチャレンジ
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