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【イベントレポート】総合商社出身者がテック系スタートアップで働くキャリアプランとは

※本記事は、当団体が制作したWebサイトの掲載記事を再編集後、移設しており、肩書・内容は掲載当時のものとなります。

スタートアップキャリア総研では、2021年9月2日にオンラインイベント「総合商社出身者がテック系スタートアップで働くキャリアプランとは」を開催しました。

テック系スタートアップで活躍するポテンシャルが高いと言われている”総合商社”出身者。
グローバルでのビジネス経験や海外子会社立ち上げなどの事業開発経験が豊富である一方で、高い給与水準や、若くして家庭を持つことが多いことから、なかなかスタートアップに挑戦することができていない現状があります。
今回は”総合商社”出身者にフォーカスしたトークイベントの様子をお届けします。

【イベント概要】
J-Startup Hour第98回(Venture Café Tokyo)
開催日時:2021/9/2(木)18:00-19:00@オンライン


鈴木 庸介氏(株式会社FullDepth)
[総合商社⇒テック系スタートアップ転職者]

2009年豊田通商株式会社入社。12年間のキャリアにて、営業本部企画統括、買収直後のフランス子会社出向、メーカー出向等、グローバルでの事業開発業務全般に従事。2021年に研究開発スタートアップである株式会社FullDepthに経営企画マネージャーとして参画。海外展開推進をはじめとする事業企画、中期経営計画の策定、経営企画などの業務に従事。

大須賀 洋平氏(OneWork株式会社)
[スタートアップHR支援者]
2003年リクルート入社、人材系事業にて営業・企画・新規事業開発などに従事。2016年にスタートアップ×HRハンズオン支援をコンセプトに独立、2020年にOne Work株式会社を設立。「ソーシャルインパクトをもたらす人と組織とともに社会を豊かにする」というミッションのもと、主にシード〜アーリー期のディープテック/ハードテック系スタートアップを対象に、人材・組織周りの支援を実施。

岸 浩稔氏(株式会社野村総合研究所)
[オープンイノベーション政策専門家]
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻博士課程修了。工学博士。2013年野村総合研究所に入社。専門領域はオープンイノベーションに係る人材・組織マネジメント等。著書に「誰が日本の労働力を支えるのか」等。


中間 康介(一般社団法人社会実装推進センター)
[モデレーター]

フランス駐在時に”個”のキャリア形成の重要性を感じ、人生100年時代の働き方、家族全体でのキャリアの最大化を考え始めた。

中間 本日、モデレーターを務めます、社会実装推進センター(JISSUI)の中間です。”総合商社”出身者にフォーカスを当ててお送りする本日は、総合商社からテック系スタートアップへの転職者、スタートアップに特化したHR支援者、オープンイノベーション政策専門家の3名にご登壇いただいております。
まず最初に、「総合商社からテック系スタートアップの転職経験談」としてFullDepthの鈴木様にお話を伺います。

鈴木 鈴木と申します。FullDepthに今年4月から転職し、経営企画部のマネージャーとして、海外展開推進をはじめとする事業企画、中期経営計画の策定など経営企画などの業務に従事しています。

豊田通商で働いていた頃の話から始めますと、はじめの4年間は、自動車本部の経営企画部に配属され、本部のKPI・予算管理や投資に係る役員との議論を行う立場でした。次の2年間は、買収をしたフランスの商社に駐在し、その帰国後は、自動車本部の営業部として、アフリカ新興国への販売支援をしました。そこでは、代理店設立からマーケティングの担当など、一人で全ての責任をもって取り組みました。その後メーカーに出向。そんな12年が経過してから、One Workの大須賀様とのご縁で、現在のテック系スタートアップをご紹介いただき、転職を決めました。

当時の心境の変化についてお話しますと、海外駐在時にフランスのビジネス環境にどっぷり漬かったのですが、フランスのビジネスマンは”個”としてのキャリア形成に重視されるんですよね。さらに私自身も結婚や子供の誕生などを経験したり、「LIFE SHIFT ――100年時代の人生戦略」を読みまして、人生100年時代の働き方やキャリア形成について真剣に考えることになりました。

まだ転職して半年という時期なのですが、働き方は商社時代とは一変しました。大きく2つあって、ひとつは手触り感のある仕事ができ、自己効力感が高まったこと。もうひとつは、時間という絶対的なリソースをどのように効率的に使うかを真剣に考えていることですね。例えば、子供の世話をしている時間は仕事をストップしつつも、その分、深夜、早朝、移動時間、土日に働くなど、働き方の自由度は高いですね。

(左から)JISSUI中間、Fulldepth 鈴木氏(オンライン)、OneWork 大須賀氏、NRI 岸氏

中間 スタートアップへの転職者は「プライベートの時間を犠牲にする」ようなイメージがありますが、「働き方の自由度」を感じているというのは意外ですね。

鈴木 実は、働き方の自由度というのは、今回の転職で大事にしたひとつのポイントでした。一般的に総合商社で働く方は、海外駐在などをきっかけとして、奥さんが専業主婦になるようなケースが多いのですが、私は共働きを継続することができています。

妻も上場企業で働いているのですが、お互いのキャリア形成が損なわれないようなバランスの取れた働き方をしていると思います。子供が生まれ、家事・育児の時間を絶対に確保しないといけない中で、自分と妻という家族全体でのキャリアの最大化を考えた結果だと思います。

中間 鈴木さんありがとうございます。「自己効力感」や「働き方の自由度」などというあたり、深掘りしたいキーワードもでてきましたので、後ほどのパネルディスカッションで深掘りしてきえればと思います。


「内発性」「成功やポジションではなく経験へのこだわり」「収入源のリスク分散」が、スタートアップで活躍する大企業人材の特徴。

中間 続いて、「スタートアップで活躍する大企業人材とは」について、スタートアップの支援者としてご活躍される大須賀様にお話を伺います。

大須賀 One Workで採用支援をしております大須賀です。私からは「スタートアップに転職した後に活躍される大企業の方の特徴」という話題提供をさせていただきます。

まず1点目は「内発的動機ドリブン」です。大企業で働くことも当然素晴らしく、社格・安定・高年収・周囲からの羨望を得られます。ただ、残念なことに、勤続年数を重ねるにつれて、内発的動機を軸としたキャリア構築がどうしてもできなくなってくるのが常ではないでしょうか。そんな中、スタートアップに転職した後でも活躍される方は、自分がどうやりたいかという内発的動機ドリブンが衰えない方が特徴として挙げられます。

2点目は「事業の成功確率や入社時のポジション/条件に拘りすぎない」こと。転職後も成功される方は、自分自身が活躍できる場が必ずあるという自信を持たれています。スタートアップは企業としてどこまで成長するかは先の読めない世界ですが、成功や失敗に一喜一憂することなく、自分が中長期で実現したいことに照らして、経験を活かそうとされる方が多いと思われます。「経験というタグ」が価値を作るという考えですね。

最後の3点目は「収入源を複数持ちリスク分散、脱一本足」こと。総合商社からの転職だと、正直年収は下がることが多いですが、そのリスクを取れる方はそこまで多くないのかと思います。ただ、よくよくスタートアップへの転職経験者に話を聞くと、実は副業をしている、資産運用をしているなど、仕事以外にも収入を得る手段を持たれている方が多いです。SOによるリターンなども無くはないのですが、現実的に複数のポートフォリオを確立することが重要ですね。

鈴木 2点目はまさにその通りですね。私が転職時に、大須賀様に相談させていただいた際に、「仮に事業が成功しなかったら、どういう次のキャリアがあって、どういうチャレンジに活きるのか」ということを色々とアドバイスをいただいた時は、視界が開けたように感じましたね。

中間 3点目の「収入源を複数持ちリスク分散、脱一本足」という部分では、共働きを継続しているという鈴木さんの状況にも当てはまりますし、意外なポイントですね。大変貴重なお話、ありがとうございました。


スタートアップへ転職して後悔した人は101人中1人。年収は転職前の同水準以上である人が半数。

中間 鈴木様や大須賀様のお話について、このような事実は多くの皆さまが当てはまるのでしょうか。それを示す客観的情報について岸様のお話を伺います。

 野村総合研究所の岸です。オープンイノベーションに係る人材・組織マネジメントを専門領域としています。この度、大企業からスタートアップに転職された方へのアンケートをとり、大変面白い結果が得られましたので、皆さまにご紹介します。

まず「大企業からスタートアップに転職した際に、どのような変化があったか。」「仕事の自由度・裁量」「仕事の楽しさ」が上がったと回答された方はともに9割です。「やりがいがある、自分の力が発揮できる」という自由回答も多かったですね。

スタートアップへの転職者101人のアンケート結果

鈴木 この結果は多くの方がまさに当てはまると思いますよ。「裁量」とは、ポジションが上がった、ではないんですよね。自分のやっていることが社会に貢献できているという実感・手触りでもあるんだと思います。

 では「年収」の変化はどうでしょうか。「大幅によくなった・よくなった」「同水準」「悪くなった」「大幅に悪くなった」がそれぞれ25%ずつという結果です。ただ回答者の半分が年収を転職前よりも維持できているというのは意外な結果だと感じています。

「転職したタイミング」の回答結果はどうでしょうか。「もっと早く転職すればよかった」「ちょうどよかった」が大半でして、回答者1名だけが「そもそもスタートアップに転職しなければよかった」と回答されていますが、全101名のうち1名だけという結果です。

中間 スタートアップに転職しても、年収が下がっている方が半分しかいないことは驚きですね。

岸 転職者それぞれの個別事情のお話は耳にするのですが、こうして101名のアンケートをとって、マクロな視点で見ると面白い結果ですよね。このアンケートは、スタートアップに転職した後、しばらく経っている方も含まれていますので、転職後に自らの活躍により給与を上げた方もいるのだと思います。


”総合商社”出身者は、スタートアップへの転職後に「社会貢献の実感」を強く感じている。

 これまでの結果は全回答者の結果でしたが、今回のテーマに係る「総合商社」に特化した結果を見てみます。回答者数は7名と限られたものですが、「仕事の楽しさ」「自由度・裁量」「社会貢献の実感」はいずれも全回答者が感じていると回答されています。一方で、やはりという結果かもしれませんが、「年収」は7名全員が下がったと回答されています。ある意味リアルな結果だと思います。

スタートアップへの転職者101人のアンケート結果

鈴木 なるほどですね。自分の事のように納得できる内容が多かったです。特に「社会貢献の実感」は、若手などと話しても、自分のやっていることと社会への影響に距離感を感じている人は多く、もう少し直接的に社会に影響を与えられる仕事がしたい…という声を聞きます。

 総合商社の仕事って、非常にスケールの大きくて、社会貢献の要素が強いと思うのですが、大企業で感じる社会貢献感と、スタートアップで感じる社会貢献感は違いがあるんでしょうか。

鈴木 それはまさに「手触り感」の一言ですね。私も自身を振り返ってみますと、商社時代に新興国の担当者として一国の産業発展に係る業務に携わっていたものの、本当に自分がそれを意思決定していたのか、自分がやっていたことが社会にどう反映されていたのか、そのつながりになかなか実感が持てなかったんです。自らが意思決定をして仕事を進められることで、より手触り感のある社会貢献の実感が得られているのだと思います。


テーマ①:働き方や暮らしの変化について

経営陣の理解を得て、仕事と家庭の両方にコミットできる働き方を実現し、世帯全体で生活水準を維持。

中間 それでは、ここからパネルディスカッション「テーマ①:働き方や暮らしの変化」に移ります。まずは鈴木様からお話を伺いたいと思います。

鈴木 忙しいことに変わりはありませんが、自分で時間をコントロールできるようになったことは大きな違いです。かつては労務管理がガチガチでしたが、現在では、朝・夜・土日・移動中など自分で決めて自由に働ける環境です。当然、スタートアップにお勤めの方全てがそうではないと思います。私の場合はそういった働き方を認めてくれている弊社の経営陣のおかげだと思っています。

中間 共働きを維持していく上で、経営陣が同年代というのは、大きな要素かもしれませんね。

鈴木 おっしゃるとおりです。子供の世話や保育園など共通の話もできますし、今日は私が子供の世話をするので早めに退社、明日は別の社員が・・・のように、社員間で持ちつ持たれつの関係を築くこともできますね。もちろん業務には確りとコミットすることが前提です。

大須賀 鈴木さんはスタートアップに転職されて、意思決定の早さの違いに驚かれたそうですね。転職した後に鈴木さんから聞きましたが、「CEOと自宅への帰路が途中まで同じで、帰りの電車の中で意思決定した」なんてこともあったそうでして、忙しくても、意思決定のスピードが劇的に上がったと。

鈴木 そうなんです。大企業に勤めていた頃には、物事一つ一つの意思決定において、チームリーダー、課長、部長に上げる必要がありますし、資料修正の時間も必要です。スタートアップでは、その点で時間の使い方自体が全く異なりますね。

中間 ぶっちゃけた話、生活水準に変化などはなかったのでしょうか。

鈴木 実はほとんど変わっていません。個人の年収としては下がりましたが、妻が時短勤務ではなくフルタイムで働けているので、世帯年収はそこまで下がっていません。妻がきっちりとキャリアを積めている実感があるので将来についても不安はありません。

大須賀 鈴木さんのケースは、共働きという要素も影響しているかもしれませんが、上手くいかれているケースだと感じます。このような転職は、できるのであれば皆様に早めに経験いただけると良いですね。

中間 ご家族に対して、転職の相談はいつからされたのでしょうか。

鈴木 「LIFE SHIFT ――100年時代の人生戦略」を読んだ頃からです。妻には、旧来のキャリア・人生観のアップデートの必要性について話していました。「突然、会社を辞めて海外大学院に留学するかもしれないよ」「総合商社で一生のキャリアを積み上げていくわけではないからね」など伝えつつ、不安にさせないように、転職活動の状況は逐一報告していました(笑)

 企業内のKPIの一つに、この社員が何歳まで働き、どんな価値を発揮するのかという、LTV(Life Time Value/ライフタイムバリュー)を掲げている企業もいます。一個人に照らしてみても、ご自身が何歳までに、どんなキャリアを歩んでいくべきか、そんな視点は大事ですよね。


テーマ②:スタートアップの仕事と総合商社のスキル・経験について

「全て自分で解決」しなければならない海外駐在経験は、「何でもやる」スタートアップでも活きる。

中間 続いて、「テーマ②:スタートアップの仕事と総合商社のスキル・経験」に移りますが、鈴木様、この点はいかがでしょうか。

鈴木 やはりスタートアップって何でもやるんですよね。それは入る前からイメージしていたものではありますが、実際にやってみると、何でもやるなかで、結果を出すための優先順位付けなどが重要になってくるな…といったことが分かってきました。

そのなんでもやる…という働き方に対して、前職の経験が活きていると思います。その国の担当となり、その国で何かが起こったら、基本全て自分で解決しなければなりません。その過程で、例えば契約手続きを進めるだとか、人事やファイナンスだとか、通常はコーポレート部門にお願いするような業務も自分で手を動かしてやってみた経験があるので、スタートアップで何が起こっても、どういった部分に注意すべきか、こういう人に相談したらいいか…などの心当たりがついているなと思います。

中間 会場からの質問で、「スタートアップへの転職で成功している方の共通点はありますか?」ときているのですが、そもそも何をもって「成功」「失敗」とするか、色んな考え方がありますよね。

大須賀 そもそもの向き不向きがありますよね。大企業からスタートアップに転職すること自体が正解ではないと思いますし、大企業で勤め上げることで社会にインパクトを出せる方もおられると思います。むしろ、スタートアップのような、ルールの無いカオスな環境で、自由に働きたいという方はマジョリティではないのかもしれないですね。

 オックスフォード大学では「2030年になくなる仕事」の研究結果を公表しているのですが、その続編として「2030年に必要なスキル」も公表しています。それは「学び続ける」というスキルです。つまり、「変わり続ける環境下で適応し続ける」ことが大事、というものなんですね。

大須賀 そういう意味では、今までの経験を活かしつつも、「ある程度決まったルールの中で上手くやる」という大企業的なやり方を、アンラーニングできるかどうかがポイントな気がします。それが上手くいっていない方は、上手く活躍できず、すぐに離職してしまうようなケースは残念ながらお聞きします。


「自分に合ったスタートアップ」を見つけるには、まず副業やプロボノなどで中に入ってみる。

中間 転職を検討されている方が、数多くのスタートアップのうち自分に合ったスタートアップを探すためには、どのようなことが考えられますでしょうか。

鈴木 私の転職当初は、スタートアップへの意識は高いものではなく、40件程度の候補をリストアップし、企業担当者と会話をする中で、合う合わないでそぎ落としていきました。最終的には、ディープテック系ということで少し落ち着きのある雰囲気や、自分の経験が活かせそうというところで、大須賀さんの紹介もあり、FullDepthに巡り合うことができました。

大須賀 いきなり転職して、合うか合わないか…をみていくのはかなり博打感がありますので、もしできるのであれば、休日・週末に限定した副業や業務委託を通じて、スタートアップと試行的に関わってみる、中に入ってみる、というのは良いのではないかなと思います。

中間 特にお金をもらわない”プロボノ”は、特段の社内手続き無しで進められたりもするので、自分に合うスタートアップを探している方は、是非積極的に関わってみてはいかがでしょうか。

あっという間の一時間となりました。本日は誠にありがとうございました。

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