【出向起業|体験談】株式会社EMOSHARE 代表取締役社長 長屋 徹
“オタク探し”から始まった新規事業のミッション
―― 出向起業に至った経緯を教えていただけますか。
2017年に新卒で南海電鉄に入社し、経理でグループ関係の管理会計から連結決算業務等に従事してきました。経理の経験を積むなかで、本当にこの仕事をこのまま続けたいのかどうかを考えるようになりました。そういうモヤモヤを感じていたタイミングに社内で新規事業プログラムが始まり、参加してみたというのがきっかけです。
最初からやりたいことがあったというのではなく、最初は漠然とした状態で参加して、プログラムの中でミッションを探しました。その際、まず自分自身のことを考えた時、”趣味に関するコミュニケーションの場”が欲しいと思ったんです。これは私だけでなく、一般的にニーズが存在するのか、新規事業のミッションとして確立できるものかどうかを1年通じて検証していました。
―― 検証はどのように行われたのでしょうか。
私はいわゆる、オタク趣味で、アニメや漫画が好きなので、他の社内の”オタク探し”から始めました。
どちらかというとオタクは自身の趣味を隠しがちなので、最初は簡単な趣味の話題の共有に関するアンケートを全社に一斉メールで送り、アンケートに回答してくれた社員の中からオタクと思われる方に、自分の趣味の“友達”に対して、どういう悩みがあるか、その悩みはどうやって解決しているかをヒアリングしました。
―― 趣味を共有すること自体に課題があったんですね。今回の事業で“ファン同士の交流“ 、ファン to ファンのコミュニケーションに着目された理由はあるのでしょうか。
その趣味のカテゴリーによると思っていて、例えば大阪ですと阪神ファンは困っていないんですよね、周りに大勢いますので。一方で、アニメ好きやアイドル好きは公言している人も数も少ないので、仲間が物理的に見つけにくく、同じ趣味を誰かと語り合うことができないんです。
私自身はいわゆるアラサーと呼ばれる年代で、社内ヒアリングで回答をもらった年齢層も同じ年代の社員が中心でしたが、ネットが今のように主流ではなかった私より上の年代の社員の方も、ゲームセンター等のオフラインの場でそういうコミュニティを作っていたという話も聞きました。
もちろんアイドルと握手がしたいとか、そういう欲求もあるんですが、私自身が一番求めていたのは、仲間を見つけて“あるある話”をして、“それな”、という共感を得たいということでした。自分自身もTwitterなどの既存のサービスを使ってコミュニケーションを取ろうとしてみましたが、難しかった。ヒアリングでも同じようなコメントが多くあって、自分の経験と同じだと実感しました。
コンセプトの「確からしさ」を確認するために、検証を繰り返す
―― 新規事業プログラムの参加後はどのようになったのでしょうか。
新規事業プログラムのデモデイにて事業のアイデアが認められて、新規事業部専任になりました。そこからは更に検証を行うため、まずは簡易なプロトタイプを作ったり、既存のものを使ってコンテンツ発信したりして、サービスの”形作り”を進めていきました。
―― 作られたプロトタイプはどのようなものだったのでしょうか。
「同じ趣味に共感する仲間を見つけてコミュニケーションを取りたい」という、このコンセプトの確からしさは確信を持っていたので、まずはLINEのオープンチャットを活用しました。
コロナ禍もあって、アニメや映画が無料公開されていたタイミングもあり、QRコードを配布して、オンラインでコミュニケーションをしましょうという匿名で参加者を募ってイベントを企画しました。どうすれば、ファン同士で密なコミュニケーションが取られるかを検証すべく、色々と要素を変えてプロトタイプを作り、会話量やアンケート結果を集計していました。
その中で、①会話のハードルを下げるための匿名性・時限性、②好きなポイントを共有するための事前情報、③会話の濃度を上げるための小さいコミュニティサイズ、がポイントだということが分かってきました。この3点がEMOSHAREのコミュニティサイトの根幹にあたるところです。
―― 今後、このEMOSHARE事業をどのようにしていきたいですか。
まずはこのサービスの親和性が高く、かつ自身の趣味でもあるアイドルのファンをターゲットにして、半年間は使い続けてもらえるか、次の半年間で広げていけるかどうか、今回の補助事業期間で実証していきたいと思っています。
この実証を通じてアイドルでの勝ちパターンができれば、次はゲームや音楽など、コンテンツを徐々に広げていく予定です。ゲームや音楽はアイドルと親和性が高いと思っていますので、アイドルを通じてEMOSHAREを使ってくれた方が他のコンテンツでも使ってくれるような形で、重なりを持って広げていければと思っています。
―― 将来的にはどこまで広げることを目指しているのでしょうか。
できることなら、どこまでも広げたいですが、EMOSHAREのプラットフォームとの相性の良し悪しがあると思っています。いわゆるオタク・サブカルチャーと言われているコンテンツ、アニメ、ゲーム、鉄道、アイドル等はEMOSHAREと相性がいいコンテンツだと思いますので、そこは網羅していきたいです。
現状のファンコミュニケーションの一番の課題は、コミュニティが過剰に閉鎖的であることだと思います。いわゆる”ガチ”のファンが中心となり、新規の人が必要以上に入りづらいコミュニティになっている部分が多いのではないでしょうか。そうではなく、初心者の人、好きになり始めたばかりの人でも仲間が見つけられるファンコミュニティを作れればいいなと思っています。
勇気が必要だったのは最初だけ、もっと早く声をあげていれば良かった
―― 出向起業をされた後は、どのような変化を感じていますか。
まだ1ヶ月経ったくらいなのでこれからなのですが、自分が意思決定しないと進まないということを感じています。私の出向元の鉄道会社という性質上、どうしても意思決定には時間がかかってしまう側面があり、新規事業部内でやっていた時には、このままではいけないと感じていました。その点はスピード感をもって進めていけるようになったと思っています。
一方で、出向元の偉大さも改めて感じましたね。やはり出向元の名前があるからこそ組めた企業があったりして、インフラ企業の知名度・安心感は非常に大きく、このあたりは上手く活用していきたいと思っています。また細かい話ですが、今まで法務にやってもらっていた契約なども全部自分でしなければいけないことなども、恵まれていたのだなと実感しました。
―― 出向起業の制度についてはどう思われますか。
とても良い仕組みだと思います。いきなり会社を作りたいって思ったとしても、ほとんどの会社は軽くいいよとは言えないスキームだと思うんです。それを、経済産業省の枠組みとして、補助金も出るという制度が後押ししてくれる。新規事業をやりたい人材も会社にとってもプラスになる制度ではないでしょうか。
―― 以前の長屋さんのように、何かやりたいけれどもんもんとしている人にメッセージをいただけますか。
総論として言えるのは、時間が経てば経つほど、もんもんとしていた時間は無駄だったと思うはずです。もっと早く人に聞いてみれば良かった、人を巻き込んでいけば良かったなと。
私自身もコンセプトがなかなか固まらず、事業自体も検討期間が長くなってしまっていたのですが、「皆さんの趣味についてヒアリングさせてください!」と全社メールを送ったあたりが転機でしたね。最初は勇気がいりましたが、今は全社メールを送るのも気にならない、そういう羞恥心はなくなりました。恥ずかしいより、サンプル集める方が大事なので。
やってみたら意外と周りは協力してくれるし、怒られないものですよ。
長屋 徹(ながや とおる)氏
2017年に経済学部卒業後、新卒で南海電気鉄道へ入社。
グループ会社管理部門や連結決算部門など経理関連の業務に従事する傍ら、社内の新規事業開発プログラムに参加し、新しいコミュニケーションプラットフォーム「EMOSHARE」を発案。
2020年に同事業の専任となり、2021年5月に株式会社EMOSHAREを設立した。
「ファン活動をより楽しめる、総合ファンコミュニティサービス “EMOSHARE”」について
多くのエンターテイメントには”ファン”が存在しており、彼らの存在がエンタメ業界を支えていますが、その中のサブカルチャーコンテンツのファンは「1.一緒に楽しむ相手が見つからない」「2.公式から提供される安心なファンコミュニティがあまり存在しない」という課題を抱えています。
当社の総合ファンコミュニティサービス「EMOSHARE」は、1.を解決するファン同士のコミュニケーション機能(①)と、2.を解決する公式ファンコミュニティ機能(②)を備え、サブカルチャーファンの活動を多方面からサポートし、当社でもイベントを主催(③)することでEMOSHAREを体験できる場を用意し、
補助事業期間では、主に②と③の展開を広げるために検証と開発を行う予定です。
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