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【出向起業|体験談】株式会社Mobirta 代表取締役社長 田島 昇一

※本記事は、当団体が制作したWebサイトの掲載記事を再編集後、移設しており、肩書・内容は掲載当時のものとなります。

仕様通りに作るだけでは勝てない。メーカーとしての価値に問題意識を持ち、新規事業の企画を開始

―― まずは事業の概要をお伺いできますか。

一言でいうと、センサーを活用した軽微事故の検出と証明です。想定顧客はカーシェアやレンタカーの事業者なのですが、自動車事故は、重大事故だとドラレコなどで検知することが可能です。一方、軽微な事故、こすり傷などを発生させてしまった場合は、事業者側では検知できず、利用者も申告せず放置されるケースが多いです。

我々は、車のバンパー内にセンサーを取り付け、軽微な衝突を検知。その際のセンサー情報やドラレコ情報を基に自動的にレポート作成することで、事故処理の効率化を図るサービスを開発しています。これまでは事故に気付かず、修理費用を利用者から回収できなかったり、次の利用者のクレームに繋がったりといった事業者側の損失軽減につながると考えています。


―― どういった経緯で、この新規事業を立ち上げるに至ったのでしょうか。

元々は、自動車業界の構造変化に対する問題意識から始まりました。私は入社以来8年間ほど車載コンピュータ(ECU)を作ってきたのですが、まさに今は変革期で、自動車業界にどんどんスタートアップや異業種が入ってきており、自社が安泰でないと危機感をもっていました。

また、この間、コンピュータの処理性能が上がり、出来ることが増えてきたことで、逆に何をすればいいのかが分からない局面になったのです。自動車業界のTier1としての価値は、これまでは「カーメーカーから降りてきた仕様をしっかりと作る」ものづくりの技術だったのですが、これからはそもそも「何を、どう売って、どう価値を生みだすか」の事業企画こそが大事になってくると感じました。


―― そこから現在の事業案へはどのように行き着いたのでしょうか。

デンソー内での新規事業開発プログラム”DIVE”に参加し、いまの創業メンバー4名が集まりました。それぞれがエンジン制御ECUや、自動運転制御、エアバッグECU、センサに関するエンジニアで、約3ヶ月のプロジェクト期間で事業案を検討しました。

元々は軽微な衝突を検知するプロダクトというアイデアはあって、それが最も活きるユースケースは何か、カーシェア、レンタカー、オーナーカー、運送事業者などと色々と考えた結果、カーシェア事業者が「無申告キズ」という課題が強く、そこに向けた価値提供ができるのでは、というところが見えてきたことから、現在の事業の原型が出来上がってきました。

デンソーの技術を活用しながらも、トライアンドエラーをしやすい体制として、出向起業を選択

―― DIVEへの参加後は、どのように活動をされてきたのでしょうか。

最終発表後、なんとか社内で受け入れ可能な部署が見つかり、そこで顧客候補へのヒアリングを続けて、事業案のブラッシュアップを進めるなど、社内ベンチャーとして検討を進めていました。

ただ、社内の新規事業としてやる場合、どうしても一定以上の規模が最初から求められてしまい、それゆえの制約で動きが鈍くなってしまいました。そこで、外に出て起業し、小規模にトライアンドエラーを繰り返しながら進めた方が、お客様の課題を早く見つけられるのではないかと、出向起業というスキームを取ることにしました。


―― 今後も、デンソーの技術は活用されるのでしょうか。

我々はデンソーのECUのエンジニアとして、センサーの情報の中から衝突のデータだけを上手く取りだし、誤検知を分離する技術を保有しています。バンパーにセンサーを設置する方法は、既存のドラレコ等と比べて、軽微な事故を検出する能力が高く、かつ安価に実装することができます。

デンソーの製品・パーツをそのまま使えるかどうかは調整中ですが、基本的にはデンソー内で開発してきた技術を上手く活用することで、競合優位性を発揮していきたいと考えています。


―― 事業開発にあたって、どういった課題があるのでしょうか。

実際にどれくらいの精度で衝突を検出できるかの技術的検証、カーシェア事業者のオペレーション工数がどのくらい削減できるかの価値検証、センサーの取付にどれくらい時間と手間がかかるかのコスト検証、このあたりが課題ですね。

出向起業の補助事業も活用しながら、大手カーシェア事業者と実証を進めて、2022年中の量産・リリースを想定しています。


―― 将来的にどういった展開を見据えていますでしょうか。

スタートアップとして起業しましたので、カーシェア事業の効率化で終わらせず、世界を変える大きなビジョンを持たなければ駄目だと考えています。

拡げる方向性としては二つ、一つは自動車以外への展開ですね。今後は移動するロボットが社会実装された時、同じように安全な運用を行うニーズがでてくると思います。もう一つは、事故データの活用です。これまで明らかになってなかった軽微な事故のデータが蓄積されることで、位置情報と紐付ければ、危険な場所を警告するなど、事故ゼロ社会に向けたサービスが展開できる可能性をもっていると考えています。


会社と個人のwin-winの関係。デンソーの技術を活用しながらも、トライアンドエラーをしやすい体制として、出向起業を選択

―― 出向起業という制度については、どう思われますか。

自分たちと会社がwin-winな関係を築ける制度だなと思っています。もちろんリスクもありますが、ある程度セーフティネットを確保した上でチャレンジできるし、成功したら会社にもフィードバックできる。成功するかしないかに関わらず、この経験をデンソーの社員にフィードバックして起業マインドを育成することができるかもしれない。そういう意味で、win-winだなって思います。


―― 今回の出向起業に対して、出向元での反応はいかがでしたか。

もちろん個別の契約などは調整しなければなりませんが、基本的には全面的に応援してくれています。出向起業する前に社内の色んな方とも話をする機会があったのですが、同じように、このままで良いのかな、という問題意識をもっている人が結構多かったんです。

Mobirta創業メンバー(左から)中根 大祐氏、清水 亮氏、代表の田島 昇一氏、日下 雄正氏

―― 最後に、出向起業にあたっての意気込みを同席いただいている創業メンバーの皆さんからもいただけますか。

田島 外に出てみて、何でも自分で決めないといけない、自分達が手を動かさないと進まないというのは大変である一方、自分の行動が周りに与えるインパクトが大きくなったと感じています。これからはスタートアップとしてデンソーからも世の中からも見られていると思いますので、期待に応えられるように頑張っていきたいです。

中根 変わらないといけないとずっと思っていて、やっと一歩踏み出せたという感覚です。自分たちも出資者であることを含めて、成功させないといけないという想いは今まで以上にあります。

清水 会社の中ではやれない経験・体験ができることがすごく楽しみです。会社を経営すること、製品企画を一から考えて、自分たちのやりたいように進めること。どれも大変だとは思いますが、その先で世の中を少しでも変えられるなら、とてもやりがいを感じています。

日下 これから色んな壁にぶつかると思いますので、色んな方々の力を借りながら乗り越えていきたいと思っています。せっかくこうして出向起業のスキームで新しいことをやれる体制になったので、同じ立場の方とも連携していきたいですし、この活動を大きなビッグウェーブにして、続く人たちを増やして、世界が盛り上がるようなきっかけになりたいと思っています。


田島 昇一(たじま しょういち)氏

大阪府立大学工学部、同大学院博士前期課程修了。
2013年~:株式会社デンソー入社後、ディーゼルエンジンの制御コンピュータ(ECU)製品設計に従事
2019年~:自動運転ECUの製品企画・技術開発に従事
2021年9月:株式会社Mobirta創業

「軽微事故検出・証明レポート発行サービス」について

従来、自動車事故はドライブレコーダー等の車載機で自動検出を行っていますが、軽微な事故までは検出できず、軽微事故およびそれにより発生する車の損傷は人の目による確認に依存せざるを得ない状態に。これにより、特に利用者間で車両の受け渡しを行うカーシェア事業にとって大きな損失が生まれています。

弊社独自のセンシング技術を用いたシステムにより、従来検出できない軽微事故までも高確率で自動検出でき、事故証明レポートの発行が可能となります。

これによりカーシェア事業者を始めとした事業者の営業機会損失や、事故対応・修理費負担を減らしつつ、ユーザ満足度の向上につなげていきます。

■会社概要
・住所|愛知県名古屋市西区名駅2丁目34-17 セントラル名古屋1101
・お問合せ先|info@mobirta.com
・WEBサイト|http://mobirta.com/home/

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